【映画感想】『ウルトラマンデッカー最終章 旅立ちの彼方へ...』

あらすじ

 特撮TVドラマシリーズ『ウルトラマンデッカー』の劇場版にして完結編。宇宙浮遊物体スフィアとの戦いが集結してから1年後、ウルトラマンデッカーとしてスフィアと戦った青年アスミ・カナタは変身能力を失い、地球防衛組織GUTS-SELECTの隊員として訓練に励んでいた。そんな日々の中、突如、宇宙から悪の天才科学者プロフェッサー・ギルベス率いる異星人軍団が地球に襲来する。カナタたちGUTS-SELECTの隊員たちは異星人軍団と交戦するも、巨大ロボットキングジョーまでをも操る異星人たちに苦戦を強いられる。そんな彼らのもとへ、異星人の女性ディナスが加勢に現れる。キングジョーの前に立ちはだかった彼女は次の瞬間、紫のボディの巨人ウルトラマンディナスへと変身する。(2023年公開、監督:武居正能)


評価

★★☆☆☆ 2.6点


予告編


感想

『ウルトラマンデッカー』TVシリーズのその後を描いた本作。過去作とのクロスオーバーがお決まりとなっていたここ10年ほどのウルトラマンシリーズの慣例を破り、ウルトラマンデッカー単品での作品となっており、GUTS-SELECTのメンバーたちのその後を丁寧に手堅く描いたデッカーらしい劇場版となっている。

シリーズ最終回で変身能力を失った主人公が、後日談であっさり変身能力を取り戻してガッカリというのは特撮のあるあるパターンであるが、本作にはそういったガッカリ感はない。

というのも、まず、本作では最終盤に至るまでカナタが変身能力を取り戻すことができず、そのために日本が壊滅寸前まで追い込まれるため、逆転までのタメに相当に念が入っており、ヒーロー復活展開までのプロット的な納得感が大きくなっている。さらに、TVシリーズで謎に包まれていた、そもそものウルトラマンデッカーの出自に関わる設定が本作では断片的に提示され、これがデッカー復活までの設定の理屈をかなりロジカルに補強しているという点も大きい。

こういった行き届いた配慮により、クライマックスでのデッカーの復活に気持ちよく乗ることができるようになっており、ファンとTVシリーズに対して誠実な作りとなっている。


本作のメインヴィランである侵略宇宙人プロフェッサー・ギルベスは、シリーズ史上でもかなりの強敵であり、GUTS-SELECTが機能不全にまで追い込まれるため、中盤はかなりストレスの溜まる展開が続くが、この苦境を利用して、本作ではメインの登場人物であるカナタ、イチカ、リュウモンの成長と未来への可能性を描いており、脚本にそつがない。

また、最終盤までデッカーが登場しないというのはウルトラマン映画としては作劇上のかなり大きな枷なのだが、この穴を埋めるキャラである劇場版オリジナルウルトラマンのディナスの活躍がまた秀逸で、デッカーとは異なるファイトスタイルで映像的な面白さを持たせつつ、ディナス自身のフィジカル面での弱さがゆえに怪獣たちへの対抗手段としては心もとなく、ディナスが戦えば戦うほど、デッカーへの渇望が高まるという実に巧みな立ち回りをするキャラクターとなっている。

思い返せば、このように丁寧に理詰めされた設定を下敷きに、登場人物たちの心の動きをつぶさに描写するというのが、もともとのTVシリーズの『ウルトマンデッカー』の良さであった。そのため、今回の劇場版でもTVシリーズのイズムが良い意味でしっかりと継承されていると言えるだろう。


強いて不満を言うとすると、敵の異星人軍団に対して、GUTS-SELECTの隊員たちがいかに反転攻勢に打って出るかというのが、本作の一番の関心事なのであるが、この問題への対処法が基本的に単純な力押しというのがちょっと残念だった。TVシリーズで登場したゲストキャラクターたちを絡めた展開が用意されており、全くひねりがないわけではないのだが、多少強引でもいいので、逆転の糸口となる何らかのワンロジックが作劇中に用意されていれば、クライマックスに向けて、もっと盛り上がったのではないかと思われる。

また、本作は地球滅亡一歩手前まで追い詰められたカナタたちが、デッカー復活によって大逆転を果たすという構成のため、本編の9割5分くらいは劣勢が続くストレスフルな物語なのだが、その割にデッカーが反転攻勢に出てからの戦闘がかなりあっさりなので、カタルシスがいまいちで盛り上がりに欠いているように思われる。せっかくの劇場版なので、もっとモリモリにスカッとする戦闘シーンを盛り込んでほしかったように思う。

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