人災派遣RPGリプレイ06話『洋灰の雨に茉莉花散る』12
●六日目
GM:お疲れ様です。シナリオクリアしてますので、今回はおおむねGM真相語り一人芝居となります(笑)。
秀史:はーい。
GM:あ、シタナガさんは『リソース無視で、最大火力の攻撃方法の組み合わせ』を考えておいてくれると嬉しいです。
秀史:? アッハイ。
紗綾:まだ何か続くって書いてある(笑)。
●真相
GM:皆様はついに、海鋼馬の難敵四人を撃退した。
秀史:難儀だったな。
チシャ猫:お疲れ様過ぎた。
GM:ここでチシャ猫さんの調査が完了し、海鋼馬エージェントについての真相がすべて明らかになる。チシャ猫さんや他のメンバーが少しずつCCC本社に情報を流して調べてもらった結果は以下の通りだ。
1.「海鋼馬エージェントをやとったのはリベンジ騎士団」
2.「リベンジ騎士団は、採算度外視の大赤字でエース四人を雇った」
3.「彼らに与えられた任務は、山中に近づく敵をすべて撃退すること」
カヤカ:ここまでは既出の情報だな。
天美:結局、メルジャヒの人がCSG47を雇った?……なんちゃら騎士団なんて社名は意地でも呼んでやらない(笑)。
秀史:おそらく違う。『箱入りジャック』の口ぶりからして、メルジャヒの人たちは実行犯で、主犯が別にいる。
GM:そして、判明した最後の情報。撃退任務についてはもう一つ、重要な条件があった。『交渉団が乗り込んでから工場に到着するまで、極力時間を引き伸ばすこと。そして、メルジャヒ人と交渉団が交渉するとき、何者にも関与させないこと』。
一同:……。
カヤカ:……そりゃ何のために?
GM:その目的は。『WEB上の生中継で、拡散されて衆目を集めるまでの時間稼ぎ』だ!
カヤカ:あ、あー!山登りばっかりに気を取られてうっかりしてたけど、LIVE配信されてたな。なんか不安になってきたぞ。
天美:まさか、明氏の狂言?
秀史:いえ、明氏に動機はないはずです。
GM:目下、『不当に外国人を酷使する悪逆大企業』、『待遇改善を涙ながらに訴える。遠くからきた外国人たち』というシナリオで、ものすごい注目が集まっている。
チシャ猫:「ま、我々の仕事は終わってるにゃから成り行きを見守るだけにゃね」みんなのスマホやタブレットにデータを送るにゃー。
中継では、ようやく労働者たちと交渉団がテーブルにつき、話し合いが始まろうとしていた。
交渉団が到着するまでに情報は限界まで拡散され、ネット上の観客の数は途方も無いことになっている。
先程カヤカが案内された工場の会議室に机が並べられ、メルジャヒ人の代表、ボイザと、交渉団の代表、上遠野氏が向かい合っている。
そして上遠野氏が切り出す。
「我々は君たちと話し合う用意がある。まずは要求を聞かせてほしい」
だが。
「我々に要求はない」
ボイザは首を横に振っていう。
「我々の目的は、告発だ。――10年前、我らメルジャヒの島を洪水によって壊滅に追いやった罪の!」
カヤカ:……はいぃ?
紗綾:あの事件を白日の下にさらすため?
チシャ猫:「んー、メルジャヒの洪水は罪かも知らないけど、茉莉花グループだけが悪いわけじゃないんだにゃー」
天美:「そうですね。メルジャヒも経済発展に向けて積極的に取り組んでいたはずです。そして上遠野さんは、贖罪として支援もしている。これでは逆恨みでしょう」
GM:まさしく。交渉団はざわつき、上遠野氏は苦渋の表情を浮かべる。「ボイザ。……君にそう言われては、私は謝罪をすることしかできない。しかし、あれは……」
GM:「そうじゃない。そうじゃないんだ上遠野さん。あの洪水はたしかに、俺達が進めていたビジネスの結果だった。それはわかっている」
天美:ではいったい?……ようやく核心に入ってきた感!
GM:「洪水に巻き込まれた後。……メルジャヒ人の多くは高台に避難して、まだ生きていたんだ」
紗綾:え?
カヤカ:まだ。……まだ?
ボイザの告発は続く。
大洪水の中、村に残っていた女性や子供たちは、高台に避難していたのだという。高台も浸水により崩落するのは時間の問題だったが、救助隊を出せば間に合うはずだった。それを、C国と茉莉花グループは握りつぶしたのだ、と。
開発作業の現場から男たち……ボイザらが命からがら戻ったときには、村はすべて壊滅しており、真相を知る由はなかった。
「ボイザ、私はそんなこと、聞いていない!」
「ああ、貴方は聞かされていなかっただろう。やったのは、貴方の親父だよ」
歴史的な観点でも、海洋への進出はC国にとって百年来の悲願だった。
メルジャヒへの経済支援も、南海の要所であるメルジャヒ島にC国の影響力を高め拠点を作り出すという思惑があった事は否めない。
そして、不慮の事故にあたり、C国は土壇場で方針を転換したのだ。
メルジャヒ人を経済支援し、少しずつ影響力を増していくのではなく。
一度壊滅した島の再建に協力するという名目で、一気に支配下に置くという方向に。
そして茉莉花グループ会長は、C国に大きな貸しを造り大規模なビジネスへの足がかりとすることを条件に、これを黙認した。
だから、メルジャヒ人たちの救援要請は、最期までどこにも届くことはなかった……。
天美:人口が激減した後、助けた実績と恩を盾に支配に介入する、と。
カヤカ:やりやすさの問題ってワケか。
秀史:ビジネスの論理だな……。
カヤカ:C国絡みって2回目だよな?
紗綾:前回も海洋進出の案件でしたよね。
チシャ猫:便利に使われとるよ我々。
カヤカ:一介のバイトを国家のあれこれに巻き込まないでくださァい!
天美:でもまだ疑問はありますね。なぜ10年経った今言い出したのか?
秀史:今回の計画犯が、真相を彼らに吹き込んだからだろうな。
天美:結局、黒幕は誰なんだろう? CSG?
GM:「とても信じられない」と呻く上遠野氏に対し、「これが証拠だ」と、ボイザ氏は書類や、PDFファイルを映し出す。それはまさしく、C国と、茉莉花グループが交わした密約の数々だ。「そ、そんな。これは社長、会長級でなければアクセスできないレベルの文書のはず!」
カヤカ:どっから出てきたんだよそれ!?
天美:ちょっとぉ、それ本物ですかぁ?
紗綾:『密約を形に残しておくとは……阿呆かの?』
GM:「同盟が決裂した時のための切札のつもりだったそうですよ」……君たちの背後から、声が聞こえる。「……まったく、どんなにセキュリティレベルを上げてみても、パスワードを引き出しの奥に貼ってるようじゃあ駄目ですね」
天美:……『ジャック』じゃないですよね。となると……。
カヤカ:あー、つまりは……。
天美:「つまり、あなたが仕掛け人てことね、上遠野恭輔さん」
カヤカ:内部犯かあ。
GM:「じいさん、未だに紙と電話で世界が回ると思っているんだからな」
カヤカ:古典的(アナログ)管理ーーッ!!!!
紗綾:どこまで行っても最後のセキュリティホールは人なんですねぇ。
天美:レディ・プレイヤー1の世界だなぁ(笑)。
紗綾:「自作自演には違いなかったんですぅ」
チシャ猫:「まぁ、可能性は最初から探ってたけど。あんまり面白くもない結末にゃね」
秀史:「正体を曝すのが随分遅かったな」
GM:「首に縄をかけられてたまま立っていたのも、そこの塀から突き落とされたのも事実ですよ。これでも結構、体を張っていたつもりです」そこにはロープから解き放たれた依頼人の息子、上遠野恭介氏がさばさばとした表情で立っていたのであった。
天美:「動機は正義感?……もっと他に、やりようはあったでしょうに」
GM:「正義感じゃない。ただの私怨ですよ。多少のことでは簡単に揉み消されてしまいますからね。言い逃れができない状況でリーチをかける必要があった。……というのも実際の所、CSG47さん作成のプランでして、俺は話に乗ったと言うだけのことです。このままあのじいさんの傀儡になる人生なんてまっぴらごめんですからね」
チシャ猫:「残念が極まってるにゃね。あのアイドルオタクのバカと一緒レベル」
GM:「そう、俺は残念なバカです。そして、”俺は主犯じゃない”……言い逃れ的な意味ではありません。主犯は別にいるんですよ」
秀史:「それはとっくに分かっている」
天美:「……おめでと。これで茉莉花グループは社会的に壊滅。おじいさんと一緒にグループで働いていた人達もまとめて社会的に死亡。復讐大成功ね。これで満足?」
紗綾:「傀儡になるのがやだーといって、メルジャヒの人達と同じぐらいの人を路頭に迷わせかねない事をするのってどうなんでしょう?」
GM:「そうですね。僕個人としては十分ですが。……そこんとこどうです?小菅さん」
天美:…………誰だっけ(苦笑)。
秀史:交渉団と一緒に山を登っていた通訳。……そして、今回の主犯。そうだろう?
GM:君たちが後ろを振り返ると。
「うーん、割とバレバレな名前のつもりでしたが、案外気づかれないものですね」
交渉団と同行していた通訳の女性、小菅女史が、そこにいた。
●降臨
カヤカ:いやいや……いやいやいや。
GM:「Co・Su・Ge。気に入っている名前なんですけど」
カヤカ:えぇ?じゃあこいつが、CSG47?
天美:戦闘でバタバタしてて、完全に存在を忘れてましたよ!
秀史:流石に名前は気づかなかったが、立ち位置から仕掛人と思っていた。『主要人物の誰にも決定的な動機がない』中、唯一『誰とも因果関係がないはずなのに全体を見通す位置にいる人物』だからな。
GM:いやー、中断時間が長かったから、見破られるかとヒヤヒヤしてました(苦笑)。
秀史:証拠もなしに彼女を問い詰めても無意味だから手の出しようもなかったが。
「……質問に答えましょうか」
ごく普通の、ボランティアに従事する化粧っ気の薄い女性、といった雰囲気のまま、小菅女史は答える。
「『メルジャヒの人達と同じぐらいの人を路頭に迷わせかねない事をするのってどうなんでしょう?』……これに関しては、問題はないわ」
紗綾:「もんだいなくなーい!」
GM:「――なぜなら、私が聞き届けた願いは、『我らを見捨てた茉莉花グループとC国に制裁を』だから」
天美:全員が復讐対象かぁ。スケール大きすぎてなんともはや。
GM:「そういうものなのよ。私はね。メルジャヒの地中に眠っていた私を目覚めさせるほどの、数多の無念と呪い」
紗綾:「眠っていた?地中で?……おおおじいちゃんのお友達ですか?」『紗綾よ、ワシを何だと思っとるんじゃ』
天美:見事なセルフボケツッコミ(笑)。
チシャ猫:先にC国からやってくれませんかにゃ?小物だけやって満足するのはズルくないですかにゃー?
GM:「もちろん。これだけでは私にかけられた『願』は満たされない」小菅女史……CSG47は、威厳ある声で告げる。「願いを聞き届け、叶え、力を増し、さらなる願いを叶える。それこそが私と言う機構。哀れなメルジャヒの民の生き残りよ。汝らの願いの一つ、茉莉花グループへの制裁、確と叶えたぞ」
カヤカ:「えっ、なんなのCSGさん。もしかして、異能力者でもない?」
秀史:「ただの人間じゃないと思ってたが……。随分な大物が出てきたな」
GM:「これにて我が力は十全に至った。今こそ汝等の最後の願い、C国への裁きを、我、復讐神アダシの名を持って執り行なおう……!」
カヤカ:か、神様ーッ!?
秀史:というか蛮神の類だろう、これは。
チシャ猫:まぁ我々が相手にする理由もないですし、C国行ってもらいましょ。
天美:ううむ。
GM:その通り。小菅女史は、隣りにいた少女、パロカの手を取ると……なんとテレポートで消えるのであった。
カヤカ:「消えたっ!?」
GM:去り際に、パロカはカヤカに向けて笑ったように思う。「ダイジョウブ。星が堕ちても、きっとあなたは――」
チシャ猫:反射的にカヤカが掴むことはできないのかしら?
GM:では、次回カヤカくんだけ別のエリアからスタートで(笑)。
カヤカ:(笑)「星、てなんだよ、それ……?」と思わす伸ばそうとした手を下ろす。
GM:女性と少女は、拭い去るようにその場から消えた。
秀史:「賢明だカヤカ。テレパスのお前が神の精神に触れたら、引っ張られて『戻れなくなる』ぞ」
天美:「うーん。正直手に余る事態になっちゃったので、呆然としちゃう……」
GM:では、君たちが急変する事態に戸惑っていると、……ド ォ ォ ォ ン、と、地面が揺れるのであった。
天美:はーい、ダムが壊れましたよー。
紗綾:ぱーてぃーはぜんめつした……。
チシャ猫:大丈夫!チシャは生き残るにゃ!
一同:うおい!(笑)
GM:「ああ。皆さんも早く撤収したほうがいいですよ」と恭輔氏。
チシャ猫:「おにーさんはどうするのかにゃ?」
GM:「じいさんについては因果応報ですが、メルジャヒ人の復讐対象は『上遠野一族』なので」
紗綾:対象に含まれちゃってるんですね……。
GM:「親父はたぶん工場の屋上にでも避難するでしょうけど、俺はじいさんのツケを払うとしますよ」
カヤカ:じいさんの傀儡はまっぴらごめん、じゃなかったのかよ。
紗綾:お父さんはお婿さんだからカウント外?
GM:「わかりません。血縁はないし、ボイザ達と話しても、親父を恨んでいた人はいなかったみたいですからね……。助かるかも知れません」
天美:「ほんとくだらない。復讐を達成させて、それで終わりにしようだなんて。憎しみを煽るだけ煽って、行き場すら奪って。自分勝手もいいとこ」
チシャ猫:「くだらないにゃね、足掻いて生き残ったらご破産でしょ。生き残って、苦しんでみなさい。死ぬよりもきっと辛いわよ」
GM:「むしろ、俺が生き延びてはいけないんです。俺達が死ねば『上遠野一族への復讐』というタスクが果たされて、かつ、復讐を願った者はいなくなる。そうすれば、神の呪いは最小限で抑えられる」
秀史:「それがアダシの在り方なんだろうさ。神という情報生命体のな」
紗綾:『絡繰仕掛のような神じゃのう、ワシが斬った張ったした連中は皆欲にまみれておったものだが』
天美:「あなたを死なせたりはしない。……絶対に。あなたには、あなたがしでかしたことの決着を見届ける責任がある」
GM:「いいから早く行け!もうあんたらも間に合わなくなるぞ」
秀史:「断る」
チシャ猫:「にゃっはー、やっぱこのチームは馬鹿ばっかりなんだにゃー」
天美:問答無用で黙らせて、連れて行きます。「カヤカ君。よろしく」
カヤカ:「ったく。とりあえず人死にはNGってことで!」
チシャ猫:「そっちにダム決壊のシュミレートデータ送ってるにゃん、こっちの高台に逃げるといいにゃ」
GM:あー、でもちょっと、もう間に合わなさそうな感じかなー。山の向こうから、大量の水塊が迫ってくる轟が聞こえる。
紗綾:あれ、全滅?(笑)
天美:……私は自分がリタイヤしようが絶対に彼は生き残らせるつもりでいますが。
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