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猫 FeLV陽性 縦隔型リンパ腫 闘病記

わが家の愛猫「きな」が、推定4歳でこの世を去りました。
動物が病気をしたとき、どのように治療していくのかは飼い主に委ねられています。
猫が病気による痛み、苦しみを言葉で伝えられないのはもちろん、「残りの猫生をどう生きたいか」も教えてくれることはありません。

その中で、治療方針を決めるにあたっていろいろな闘病ブログなどは非常に参考になりました。しかし、ブログはだいたいが途中で終わっていて最期の時までを記録していないものが多いです。
その気持ちはきなを亡くした今、理解できます。最期の苦しそうな時を思い出して文章をつづるのはとても辛いものです。
しかし、同じようにリンパ腫の猫の治療をしている方にとって少しでも助けになればと思うので、わが家のケースをなるべく簡潔に記録したいと思います。

◆要約

FeLVキャリアで推定3歳で縦隔型リンパ腫発症。その後、COPプロトコールによる抗がん剤治療を開始。ほぼ寛解状態が2か月続いたのち、再燃。抗がん剤の種類を変えるも効果は薄く、再燃が分かった後約2週間後にこの世を去った。

◆きなのプロフィール

雑種、三毛猫、メス、享年推定4歳。元保護猫。病に倒れた元飼い主の家から保護されるまでの間に外で過ごした期間があるらしい。わが家で過ごしたのは1年2か月。猫エイズウイルス、猫白血病ウィルス(FeLV)共に陰性の結果が出ていたが、どうやら潜伏期間中の検査であったため、実際はFeLVキャリアだったらしい。

◆病気の発覚と、抗がん剤を始めるまで

2020/12/26
きなの呼吸が早いことに気づく。眠りにつきそうなのに、お腹がかなり小刻みに波打っている。測ってみると1分間に55回。ネットによると呼吸が早いのは重大な疾患な場合が多いとの事。

2020/12/27
朝、相変わらず呼吸は早いが、いつも通りすりすりして食欲もあった。9時にかかりつけのクリニックへ。レントゲンを撮ると、肺がほとんど見えないほど真っ白だった。胸水の可能性があるといわれる。しかしエコーの結果、胸水ではなく充実性のもの(=腫瘍)であることがわかった。さらに、猫白血病ウィルス(FeLV)の検査を行うと陽性であった。
確定診断のために、腫瘍細胞を細い針で採取し病理検査に出す。
リンパ腫の可能性が非常に高いが、確定するまではステロイドで炎症を抑えつつ様子を見るか、もしくは抗がん剤治療を開始することもできるいわれる。
突然のこと過ぎてどうしたら良いものか全然わからないが、本日はとりあえずステロイドと気管拡張剤の注射をしてもらった。
酸素室に入れていないと危険な状態ということだったが、この日のうちにレンタル酸素ハウスを気合いでゲットできたので、うちに連れて帰る。

2020/12/28
昨日のステロイド注射が聞いたのか、呼吸はかなり落ち着いている。
抗がん剤治療をするかどうか一晩考えたが、結局結論がでない。
ブログ等を読むと、縦隔型リンパ腫は無治療で余命1~2か月、抗がん剤治療を行っても生存可能期間は数か月と言われている。
こちらのブログによると、

化学療法に反応して完全寛解を得た猫の生存期間の中央値…7ヶ月
部分寛解を得た猫の平均生存期間…2.5ヶ月
化学療法に無反応の猫の平均生存期間…1.5ヶ月

ということである。
抗がん剤でたとえ一時的によくなっても、結局最終的に薬がきかなくなって苦しい思いをする。抗がん剤治療中もご飯が食べられなくなったりするのなら、それで延命する意味があるのだろうか。それは人間のエゴではないか。しかし、副作用なく数か月間元気でいられる可能性もあり、私たちにとってもきなにとっても数か月はとても長い。逆に何も治療を施さずにきなの命を終える決断をしてよいのか。それもまた人間のエゴなのか。

夫も抗がん剤治療にあまり前向きではない。それならば急いで抗がん剤治療を始めるわけにもいかないと、とりあえずステロイドで様子を見たい旨を先生に伝える。
先生は私たちの考えを尊重してくれたが、あくまでも先生としてはできることがあるのにしてあげなかったという後悔を残さないためにも抗がん剤治療を考えてほしいとのことであった。
急にがくんと悪化することは十分にあるので覚悟してくださいと先生に言われる。
その言葉に揺らぐ私。
これからきなの調子が悪くなり苦しんでいるのを目の当たりにしたら、私はおそらく耐えられず抗がん剤に手を出したくなるだろう。それならば元気な今のうちから開始した方がいいのだが…

2020/12/29
結局、夫と話し合い、強く元気なきなならきっと抗がん剤にも耐えられるはずだから、少し頑張ってもらおうということになった。もし副作用がひどかったり効果が見られなかった場合はすぐに中止するという条件で。
クリニックに行くと、病理検査の結果が出ていた。予想通り、縦隔型リンパ腫という診断名であった。
早速、抗がん剤治療をスタート。様子を見ながらのスタートだったのでこの時点では治療方針は明確ではなかったが、あとから聞いた話ではCOPプロトコールというもので、シクロフォスファミド(C)、ビンクリスチン(オンコビン)(O) 、プレドニゾロン(P)という抗がん剤およびステロイドを投与する治療法である。

ちなみに猫に行われる抗がん剤治療は、基本的にがんを徹底的にやっつけるというよりは、猫の苦しみを取り除きながらできる限り延命をしてあげるのが目的で、人間の抗がん剤治療に比べると副作用の少ないものが選択されるのが一般的だそうだ。

◆COPプロトコール3サイクル目まで

1週目:ビンクリスチン(注射)
2週目:シクロフォスファミド(内服)
3週目:休み
というサイクルで抗がん剤を投与するのと合わせて、毎日のプレドニゾロン(ステロイド)内服を行った。
クリニックの先生が腫瘍の専門医に相談したら、がん細胞を叩けるうちに叩いた方が良いので毎週ビンクリスチンを注射するのはどうかと言われたらしいが、私たち夫婦も、先生も、それはきなにとって負担が大きすぎるであろうということで、上記のような治療を行うことになった。

一般的に可能性がある副作用としては、ビンクリスチンは骨髄抑制と吐き気、シクロフォスファミドは膀胱炎が挙げられるという。

きなに実際に起きた反応としては、ビンクリスチン投与後は翌日~4日後くらいまでは食欲が減退し元気がなくなり、シクロフォスファミドに関しては少し食欲が落ちる程度で大きな副作用はなかった。

この間、薬の副作用がない間はとても元気で食欲もあり、すりすりごろごろ甘えん坊で、このままあと何年も生きてくれるのではないかという希望さえ感じ始めていた。

◆抗がん剤治療の費用

飼い主にとって、頭を悩ませる原因の一つが治療費だと思う。
わが家の場合は、リンパ腫がわかってから亡くなるまでの約2か月半で、14万円弱かかった。
あくまで参考だが、うちの場合は上記のプロトコール中はビンクリスチンが点滴も含めて1回16000円くらい、シクロフォスファミドは錠剤を処方してもらって自宅で内服させていたので1回400円(安!)、ステロイドが1か月分で4000円くらいだったので、抗がん剤自体はそんなに高額ではなかった。
その他に短期間でレントゲンや血液検査等をたくさんやったのでそれだけ高額になったのだと思う。

わが家は、なんとリンパ腫発覚の1週間前にペット保険に入ったばかりだったので、保険適用期間外だった。どっちにしても、手術・入院のみ保証タイプだったのでほとんど適用外だったのですが。

若いからまだいいと思っていたんですが、ペット保険大事ですね。

◆再燃

抗がん剤治療開始から約2か月後、4サイクル目のビンクリスチン投与を予定していた数日前、きなの呼吸が荒くなりお腹を大きく動かしているのに気づく。
クリニックでレントゲンを撮ると、再び胸いっぱいに白い影があらわれていた。
今までに使用していない抗がん剤(名前を聞いていない)を使用することに。骨髄抑制が強く出る可能性があるということで、点滴を入れて抗がん剤の注射をし、初めての入院。
翌日、レントゲンを撮ると今のところ今回の抗がん剤はほとんどきいていないとの事。昨日のレントゲン写真と見分けがつかないくらい何も変わっていない。
帰宅後、ご飯を食べない。夜になり、状態が悪化。かなり息苦しそうなのと大きくお腹をうごかして顔をしかめている。ずっと酸素ハウスで過ごす。
このまま死んでしまうのではないかと思った。

それから3日間くらいは食欲も元気もなく、呼吸が苦しそうな日々が続いたがその後少し快方に向かった。ご飯の種類を(今までより高級なやつに)変えたら、食欲が半端なくガツガツ食べるようになった。今まで安物ばかりあげててごめんね。

抗がん剤から1週間後、夫がクリニックに連れていく。レントゲンを撮ると、胸の影は若干薄くなっているものの、右後ろ?に今までなかった何かができているとのこと。水が溜まっているのか腫瘍なのかはエコーをとらないとわからないと言われたらしい(そして撮ってもらわなかったらしい)。
シクロフォスファミドを明日明後日で内服することに。

◆最期の1週間


シクロフォスファミド内服後、具合が急に悪くなる。思い出すのが辛いので詳細は割愛。
かなり呼吸が苦しそうで、ご飯もほとんど食べられなくなる。そして水さえも飲めなくなった。
3日後、開口呼吸が始まった。一人になりたいのか、家の中のいろいろな場所を転々としながらひたすら苦しみに耐えている。胸が苦しいからか横になることもできない。体全体を大きく動かして何とか呼吸をしている。
苦しまないようにしてあげることが私たち夫婦の望みだったのに、結局ここにきてしてあげられることが何もない。
そばにいって撫でると、嬉しそうにしっぽをゆらゆら揺らす時もあるが、状態が悪いと目も合わさずに人目につかないソファの下などでひたすらじっとしている。
最期の日の明け方に、もう足元もおぼつかないのに私が寝ているベッドに上ってきた。そして頭突きすりすりで起こされる。最後の力を振り絞って甘えに来てくれたのだと思うと嬉しく、愛おしくてたまらなかった。きなの体を撫で続けた。もう、口で呼吸する音がハァハァと聞こえるほどだった。そして苦しそうに小さな声でうなっていた。その後起きてきた夫の気配を感じ、何かを伝えたそうにそちらをじっと見つめる。
夫を呼んで、二人できなの体を撫で続けた。10分くらいそうしていると、突然ベッドから降り、一瞬苦しそうにのたうちまわり、そして息を引き取った。
苦しみから解放されて、本当に眠っているような安らかな顔をしていた。

◆きなにしてあげられたこと

再燃してからの治療については、正直何が正解だったのかわからない。きっと何を選択していても、後悔しないことはなかったんだと思う。
抗がん剤投与と急激な悪化のタイミングが一致しているので、薬のせいだったのかな…と思ってしまうが、無治療でもリンパ腫の進行は早く、どうすることもできなかったのだと思うしかない。

ご飯を食べなくなってからは、点滴などであと数日延命できたかもしれないが、私たちは初めからその時がきたら無理な延命はしないと決めていた。苦しむ期間をなるべく短くしてあげることが、私たちにできることだと思っていたので。
しかし実際全く食べなくなったきなを前にして、強制給餌を行うかで悩んだ。カリカリをふやかして口に入れたり、スポイトで水をあげたりしたのだが、それで元気になるどころかむしろ苦しさを助長した可能性もある。

苦しむ期間は私の想像していたより長く、最期の3,4日間は見ているのが本当に辛かった。安楽死を選択する飼い主の気持ちも初めて理解できたし、こんなに苦しんでいるのに逝けないなら私が首を絞めようかという考えまで頭をよぎった。

私たちが行った選択のすべてに後悔しない日はないが、少なくとも抗がん剤治療を行ったことは間違っていなかったと思う。
たった2か月だったけど、きなと穏やかな日々を過ごすことができた。
この間は幸い(?)緊急事態宣言下で私がほとんど家にいたので、甘えん坊のきなにとっては幸せな日々を過ごせたのだと信じている。
リンパ腫という病気になってしまった以上、悲しいけど避けて通ることができない最期だったが、きながわが家で幸せそうにすりすりごろごろしていた日々のことは永遠に忘れない。

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