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短編「光でもすること」
「ホントいいよね~」
隣で星空を見上げている彼女はふと気の抜けた声でそう言った。
「そうだね」
「キミにもわかるの?」
「わかるよ」
「じゃあ私が思ってたこと当ててよ」
そういわれて僕が思ったそのままを彼女にこう言った。
「星空ってこんなきれいなんだな~とか?」
「ちが~う」
彼女は僕が最初から分かってないことを知っていたかのような自信と無邪気さを込めた返しをしてすこしだけ困惑する。
「じゃあ私がクイズを出すから答えて」
突如そう言うもんだしさっき間違えてしまったものだから正解を当てなければいけない。緊張とどよめきが一瞬だけ僕の思考を止める。
「光ってあるじゃん?」
「うん。確かこの世界で一番速いんだっけ。」
「そうそう!なんか一番速いって凄そうに見えるけど光でも動物みたいにあることをすると思うんだ。それって何だと思う?」
「…」
悔しい。何も思いつかない。ありえるような場合を考えても光そのものを理解していないのもそうだが、光が何か挙動を取ることすらイメージがつかない。
長い沈黙が続いた。背中から吹く風が冷たく、思わず身震いした。
「答え知りたい?」
「うん…」
「あくびだよ」
「どういうこと?」
彼女はなぜかうれしそうだが切ない表情でこう言った。
「光でも私たちのいる天の川銀河を横断するには10万年くらいかかるんだって。この世界で一番速いのに10万年もかかっちゃうの」
正直彼女が何を言っているのか文系の僕にはさっぱりわからなかったが、なぜだか心がきゅっと引き締まった。こんなにも不思議なものに想いを馳せているというのに。
「今見てるこの星空だって見てる星達は何千年、何万年も前の姿なの。それくらい遠いところにあるからね。途方もない距離を光達は見知らぬ私たちや見知らぬ場所へと向かって進んでいるの。」
「もしかして」
そう理解した僕の表情は顔に出たのか、彼女はにこっと微笑んだ。
「そんな長い時間、考えただけでもあくびしちゃいそう。だから光もあくびをしないわけないと思う。きっと私たちがした何億倍回してると思うわ。」
そう言ったキミの瞳にはそんないっぱいの光を温かく受け入れているような瞳をしていた。よく頑張ったねと。
そんな受け入れられた光達はどんな話をしているのだろうか。
「遠いところからずっと頑張ってたんだよ」
「すっごく暑かったりすっごく寒かったりで大変だったんだ」
「おっきい穴に吸い込まれそうになったんだよ」
キミだけには光が遠くを旅する旅人のように見えているのだ。
なぜだか僕はすごく安心した。
なにがといわれればなにかはわからないが、ずっと独りで宇宙を漂っていた光に比べてちっぽけな事にずっと頭を悩ませていた自分があほらしく見えたのだろう。
繋いでいた冷たかった右手がだんだんとぬくもってゆく。
僕は大きくあくびをした。
それを見た彼女は満足げに言った。
「ほらね。」
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