萩尾望都『王妃マルゴ』の終わり方(いや、終わらせ方)
少し遅くなったが、萩尾望都の『王妃マルゴ』の最終回について書いておきたい。
足かけ7年続いた『王妃マルゴ』が今月号(<ココハナ>2月号)でようやく終わった。
正直ほっとしたが、
ほっとしたのは、やっと終わってくれたからなだけではない
(終わってくれた、と書くのは、華々しい恋愛劇というよりも、むしろ毒々しい人間ドラマで、途中から「もうこれ以上こんなの読みたくない!」と思うほどだったから)。
死んだはずの、ギーズとの息子のサパンと、マルゴが最後に再会できたからだった。
サパンが実は生きているということは、当然最終回の一つ手前でわかったけれど、
死刑になったとされた時の、
「公開の処刑場ではすでに死んでいて顔は暗くよくわからなかった」
というあの不自然な知らせが伏線であることに、読んでいる時にはうっかり気がつかなくて、
「そんなことがあっていいはずない!」(それじゃ、あまりに救いがなさすぎる!)
と思っていたから、物語として当然あるべき結末にようやく胸をなで下ろしたのだった。
それから、もう一つはナヴァルのアンリ(マルゴの元夫であり、その当時のフランス国王)のこの世での生の終え方。
人間、誰しも死ぬ時はあっけないもの。
最後は暗殺者の刃に倒れるというところは当時の貴族たちの宿命のようなものだし、
これまでの主要登場人物たちの最期と変わりはないが、
明らかに違ったのが、周りの者たちからの晩年の彼に対する評価。
新しい女、若い娘・シャルロットにとち狂っても、それまでとは違って口説き落とせずに逃げられてしまい、
取り乱して追いすがらんばかりの姿を、
「さすがにやめてほしいよ…」「あんな若い娘に…」
と陰で家臣たちに眉をひそめられ、
加えて暗殺された後、マルゴが来訪者に向かって淡々と語った言葉が、
「今やアンリ四世のために悲しむ女がいないということよ……
アンリー(注・かつての愛人)は捨てられた
マリー王妃は子供を産まされて放っておかれた
15歳のシャルロットは逃げ出した
…悲しむべき妹のカトリンはとうに亡くなった…
…わたしも愛していた でも過去のこと…」
と、冷めたもの。
散々、夫・ナヴァルの浮気に苦しめられ、悲しい思いをしてきたマルゴの役回りを、ここで一転させたのだった。
萩尾望都(の描く作品)には、けっこう浮気な男に対する達観した姿勢があると思うが、
それは結局のところあきらめから来るものでしかないのを、
相手の男を最後にどの女からも見捨てられたものとして描くことで、今回の『王妃マルゴ』では見事に意趣返しをしてみせたのだった。
そして、その最後のページが、初恋の人ギーズを美化する1枚であるというのは、
マルゴの幻想でしかないし、往年の少女まんがっぽくもあるけれど、
そもそも『王妃マルゴ』には、出だしのほうはエロティックでグロテスクな中にも
少女まんが的な潔癖なシーンがいくつもあったので、最後には初心に立ち返った(?)と言えるかもしれない。
ギーズにだって散々苦しめられて、辛い思いをしたはずなのにねえ……。
ともあれ、豪華絢爛王朝絵巻とうたわれた長編連載が終わってくれてほっとした。
これで私も、もう苦しみながら読まなくてもすむ。
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『王妃マルゴ』萩尾望都・著(2012~2019・実発表年として)
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