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〔ショートストーリー〕白い靴

白い靴が完成し、既に発送したと、店から連絡があった。生まれて初めてのオーダーメイドの高級靴。ヒールは5センチで、私の脚を一番美しく見せてくれる高さだ。きっと明日には届くだろう。良かった、日曜日の式には間に合う。

あのホテルは見晴らしが良い。坂道を登った先の、こじんまりとした上品なホテル。3年前ブライダル・フェアに行って、絶対にここが良いと心に決めた。チャペルも細かな装飾がお洒落で、何もかもが私の好みにピッタリだった。

そう、日曜は結婚式。元カレと元親友という、ツラの皮が厚い2人の恥知らずなハレの日。どういうつもりであの式場を選び、その上私に招待状を送ってきたのか知らないが、私は出席で返事を出した。それから自分磨きに精を出し、今、私史上最高に綺麗な自分になっている。恐らく、あの2人が驚いてしまう程度には。

そして私は彼らと違い、常識は弁えている。花嫁でもないのに白いドレスは着られない。だから、結婚式のために淡いブルーのワンピースを買った。彼女が「憧れる」と言っていた、でもなかなか手が出ないとも言っていたブランドを選んで。そして足元には白い靴。彼女が履くであろう、安っぽいパンプスとは天と地ほどの開きがある美しさだ。元カレは安月給、元親友は妊娠して派遣の仕事を辞めたから、こんなの買えるはずがない。

元カレにも元親友にも、未練なんてもうない。でもせめて、靴ぐらいは白を履いて見せたかった。それも、花嫁の何倍も美しい靴を。
共通の友人たちはみんな経緯を知っていて、私の気持ちを分かってくれている。「真っ白のワンピースで行けば?」なんて過激なアドバイスをくれた友だちもいたぐらいだ。欠席すると言っていた彼女たちに、出席するよう促したのは私。「結婚祝いは足が出ない程度に包んでおいて、みんなでワイワイ飲んで食べようよ。主賓に気を遣わなくて良いからさ」と。


あの2人に会うのは、きっとこれが最後になる。元カレの後悔した顔と、元親友の嫉妬に強張った顔が見られたら、きっと私はスッキリするだろう。考えようによっては、あの2人の本性が早めに分かって良かったとも言えるかも知れない。
美しい白い靴には、こんなデビューになって申し訳ないと思う。が、私にとっては必要な儀式なので、どうか許して欲しい。
いろいろと考えるうちに、ふと自分がワクワクしていることに気が付いた。復讐って、楽しいのかも知れない。日曜日まであと少し。美味しい料理とお酒を、せいぜい楽しんでこよう。


こんばんは。こちらに参加させていただきます。

小牧さん、お手数かけますがよろしくお願いいたします。
読んでくださった方、ありがとうございました。

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