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〔ショートストーリー〕発明同好会の夏

「風鈴と虫かご、どっちが良いと思う?」
T高校・発明同好会部員の勝浦が、部室に入るなり部長の吉野に聞く。部長と言っても、この同好会には部員は二人しかいないのだが。
「え?何の話だよ?」
突然の問いかけに戸惑いながら、吉野が聞き返す。
「夏休みの自由研究だよ。どっちを作ろうかと思って」
「は?」
吉野は呆れたように、まじまじと勝浦の顔を見た。
「おいおい、小学生の宿題じゃないんだから。何でその二択なんだよ」
勝浦は、待ってましたとばかりに胸を張る。
「どっちも『夏らしい』からだよ。あ、もちろん、ただの風鈴と虫かごじゃないぜ。何たって俺、発明同好会のエースだからさ」
吉野の顔が少し曇る。
「まず、風鈴は風がなくても自動で鳴るようにする。だって、音で涼みたいのに、風がないと鳴らないなんて残念すぎるだろ。だから、無風でも風が吹いたかのように、不規則に鳴るよう設定するんだ。モーターなんかを取り付けるから少し大きくなるけど、まあ問題は無いだろう」
「…少しってどのくらいだよ」
「そうだなあ、てっぺんがグレープフルーツぐらいかな」
「でかいよ…」
「あと、ちょっと重いんだ。だから風が吹いても揺れないし、鳴らないけど、屋根が落ちる程じゃないから良いよな?」
「なあ、それ、もう風鈴じゃないだろ。風と関係ないじゃん」
吉野の冷静なツッコミにも、勝浦は全くめげない。
「そっかあ。じゃ、虫かごだな。あ、これもただの虫かごじゃないぜ。嫌な虫を呼び寄せて、捕まえるんだ。エサで釣って粘着シート、なんてありきたりな手は使わない。匂いに釣られて中に入ったが最後、電撃でその場でコロリさ。虫の種類はいろいろ対応できるから、役に立つこと間違いなし!」
自慢気な勝浦に、吉野は少しして深いため息をつく。
「…それで?」
「え?何が?」
キョトンとした勝浦に、吉野がゆっくり問いかける。
「それで、どういう状態で提出するんだよ。宿題だぞ。中に虫の死骸がゴロゴロしている虫かご、担任の桜子先生に提出するのかよ」
「あ…」
「まあ、空っぽで提出してもいいけどさ、お前のせっかくの発明の効果は見せられないよな。見た目は普通の虫かごなんだろ?」
「うん……」
すっかり勢いを無くした勝浦に、吉野は優しく付け加える。
「初見のインパクトを求めないんだったら、虫かごと一緒に仕様書を付ければ良いけどさ」
「嫌だ。みんなに『うぉー!スゲー!』って言われたい」
ふくれっ面の勝浦の肩をポンと叩いて、吉野は励ます。
「じゃ、もうちょっと練り直した方が良いかもな。発想は悪くないんだし」
勝浦の顔がパッと明るくなった。
「そうだよな!よし、もっと凄え発明品、作ってやるぜ!」
発明同好会は今日も平和だ。
(完)


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