ワクチンがCovid-19を根絶できないかもしれない理由

ジェイソン・ゲイル
2021年1月28日 14:00 JST

 Covid-19を根絶するための道のりは長く、不確実性で舗装されている。SARS-CoV-2は感染しやすい人を事前に見分けることが出来ないため、多くの国々ではコロナウイルスの感染拡大を遅らせ、最終的には停止することを期待して、十分な免疫力を集団に付与するためのワクチンに注視している。しかし、非常に効果的なワクチンが普及したとしても、その予防接種率は、すぐにはそのレベル(いわゆる集団免疫の閾値)に到達しない可能性がある。その原因として考えられるのは、一つには、どの程度の免疫が必要なのか、また、ワクチンがそれを達成するのに十分な効果を発揮するのかどうかが不明であることだ。また、予防接種の有効性を弱める可能性がある新たなコロナウイルスの亜種の脅威もある。

1. Covid-19は根絶できるのか?

 無理だろう。これまでのところ、継続的な介入策無しで発症者数をゼロにし、長期的にそれを維持し、公式に根絶したと認められたのは、人間の病気である天然痘だけである。天然痘は非常に効果的なワクチンのお陰で根絶された。天然痘ウイルスは患部の外観が悪く、時には致命的な病気の原因となり得る。そして、人間は天然痘ウイルスに感染しやすい唯一の哺乳類である。
 人間はポリオウイルスの唯一の感染源として知られているが、効果的な予防接種が普及し、32年前から世界的な撲滅活動が行われているにもかかわらず、いまだに一部の国で感染が広がっており、麻痺性疾患を引き起こしている。SARS-CoV-2は、自然界ではヒメキクガメ(訳者注:コウモリの一種)の中に生息していると考えられており、ミンク、ネコ、ゴリラなどの動物に感染することが知られている。このウイルスを一掃するには、感染しやすいすべての生物種からウイルスを根絶する必要があるが、それは実現不可能と言うほかない。代わりに、Covid-19の感染を抑制することに成功している国では、ウイルスが引き起こす疾病を根絶することが提案されている。

2. 根絶とは何か?

 疾病の発生を抑制するための努力の結果、ある特定の地域における疾病や感染症の新たな症例が、一定期間にわたってゼロになったことをいう。その期間については公式な定義はない。一つの提案では、SARS-CoV-2の潜伏期間の範囲外の二倍、つまり、感染してから発症するまでの二倍に相当する、28日間にしてはどうかという物が挙がっている。
 ニュージーランドのような一部の国では、国境閉鎖、ロックダウン、入念な症例検出と隔離により、長期間にわたって新規発症ゼロを達成している。大陸を越えて新たな感染症が発生しているパンデミック時には、感染した海外旅行者からウイルスが再侵入する恐れがあるため、全国的に感染症を根絶することは不可能ではないにせよ、困難なことではある。

3. ワクチンでCovid-19はなくなるのか?

 一概には言えない。コロナウイルスの循環を止めるためには、どのくらいの割合の人々が免疫を持っている必要があるのか、あるいは最も強力なワクチンでも、Covid-19の拡散を防ぐことができるのかどうかはわかっていない。ある研究では、感染を食い止めるためには、人口の55%から82%の人が免疫を持つ必要があり、それは感染から回復するか、ワクチンを接種することで達成できると推定されている。しかし、ブラジルのアマゾナス州の州都マナウスでは、人口の推定76%が感染したにもかかわらず、集団免疫は達成されなかった。
 しかし、ワクチンは先行感染よりも強力で永続性のある保護をもたらすように見えるため、集団接種の方がより強力な効果が得られると信じるに足る理由がある。

4. ワクチンにはどの程度の効果があるのだろうか?

 ファイザー社とモデルナ社によって製造されたワクチンには、Covid-19による疾病の発症を95%もの高率で防ぐという、非常に効果的な物であるとする充分な証拠がある。しかしながら、無症候性感染症の発症や、他人へのウイルス感染を防ぐ能力についてのデータは公表されていない。ワクチン学の判断基準は、病気だけでなく感染も阻止することであり、いわゆる殺菌免疫を提供することである。しかし、それは常に達成されるわけではない。例えば、麻疹ワクチンは、ワクチンを接種した人がウイルスを拡散させないように感染を防ぐのに対し、百日咳のワクチンは重篤な疾病の防止には効果的であるが、感染を止める効果は低い。心強いことに、モデルナ社のCovidワクチンをサルに投与した研究では、完全には防げないにしても、その後のウイルス感染を減らすことができることが示唆されている。一方、アストラゼネカ社のワクチンを使用した臨床試験では、感染を止める効果は60%以下である可能性があることが示されている。つまり、集団の全員が二回接種したとしても、集団免疫を達成する可能性は低いであろう。

5. ウイルスの亜種はどのような影響を及ぼすのであろうか?

 研究者達は、回復したCovid-19患者の血液中の抗体が、英国、南アフリカ、ブラジルで最初に報告された、急速に広がる新しいB.1.1.7、501Y.V2、およびP.1変異体をブロックする能力を研究してきた。 いくつかの研究では、これらのウイルス株が自然感染によってもたらされる免疫保護から逃れる可能性を示唆している。 科学者たちは、実験室での研究は単なる指標であり、これが実際に地域社会で起こっているという証拠はなく、また、ワクチンで生成された抗体が、新しいウイルス株に対して効果が低いかどうかについては不明であると注意を促している。

6. Covid-19ワクチンは感染を完全に予防して症状を抑制する必要があるのか?

 ワクチンは公衆衛生上の利益を得るために完璧である必要はない。ニュージーランドのワクチン学者であるHelen Petousis-Harris氏は、“重症化を防ぐのに非常に優れており、あらゆる病気を防ぐのに非常に優れているが、全ての人々への感染を完全に防ぐことはできないワクチンを使用して、事実上撲滅された病気”の例として、ロタウイルスと水痘を挙げている。
 SARS-CoV-2は感染者の喉や鼻からの呼吸器粒子を介して感染するため、気道内のウイルス量を減らしたり、感染者が咳をする頻度を減らすワクチンは、他の人に感染する可能性を低下させ、有効再生産数(Re)を低下させる可能性があり、これは単一の症例から新たに感染すると推定される平均的な数である。
 世界保健機関(WHO)の緊急事態プログラムの責任者であるマイク・ライアン氏は1月25日、記者団に対し、SARS-CoV-2の撲滅に焦点を当てるのではなく、成功条件は "このウイルスが人を殺し、入院させ、経済的、社会的な生活を破壊する能力を減らすこと "と見なすべきだと語った。

7. Covid-19が撲滅されなかったらどうなるか?

 WHOの感染症ハザード戦略・技術諮問グループの議長であるDavid Heymann氏は、2020年末に「SARS-CoV-2の運命は、常在化することにあるようだ」と警告している。常在化したウイルスはコミュニティ内で継続的に循環しており、病気の特徴や人間の行動パターンが感染に有利な場合には、しばしば周期的に突出した患者数が発生するだろう。例としては、クルーズ船における胃腸炎の悪名高い原因であるノロウイルスや、特に冬に風邪を引き起こす4つのコロナウイルスを含む無数のウイルスがある。

8. どのような影響があるのだろうか?

 物事がどのように進展するかは未知数だが、研究者たちはシナリオを紡ぎ始めている。
 Covid-19に一度感染し生き延びた人々と、それに対してワクチンを接種された人々は、おそらくしばらくの間、この病気から保護されるだろう。ウイルスへの再曝露やワクチンの追加接種を受けることで、防御力が強化される可能性が高い。
 このようにして、より多くの人が免疫力を身につけていくと、集団免疫が確立されていない限り、ウイルスはまだ免疫力のない人たちを見つけることになる。これは、免疫システムが損なわれているためにワクチンを接種できない人、ワクチンの成分にアレルギーを持っている人、若すぎる人(欧米諸国で認可されているワクチンはどれも子供用に認可されていない)などがCovid-19に対して脆弱なままであることを意味している。
 一部の科学者は一旦常在化し、ウイルスへの一次曝露が小児期になると、SARS-CoV-2は風邪よりも病原性が低い可能性があると予測している。

参照
●エディンバラ大学のDevi Sridhar氏とDeepti Gurdasani氏は、ブラジルのマナウスで発生したCovid-19の大規模かつ制御不能な流行から得られた困難な教訓を詳述している。
●ニューサウスウェールズ大学のAnita Heywood氏とRaina MacIntyre氏は、病気の根絶、駆除、抑制、そしてCovid-19の駆除がどのようなものであるかを説明している。MacIntyre氏はまた、Covid-19防除のためのワクチンプログラムの原則も紹介している。
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ソース:Bloomberg Why Vaccines Might Not Be Able to Eliminate Covid-19

 ふえー、疲れた。苦労に見合う出来の翻訳になってれば良いんだけど(汗
 さて、タイトルは比較的悲観的な物ですが、考えてみれば人類って様々な疾病に罹ってきたわけで、今も多くの感染症や生活習慣病があるわけです。それらは決して“根絶”という形で克服してきたわけではなくて、罹っては薬剤投与や、時には手術といった手法で治療してきたんですよね。
 新型コロナウイルスを“根絶”出来ないからと言って悲観はする必要はないと思うんです。今も不眠不休でワクチンの開発や治療法の確立に向けて研究は為されているわけで、そう遠くない将来、それこそ「ただの風邪」で片付けられる日が来るかもしれません。
 いい加減、自粛やマスク着用、三密回避に疲れてる人もいるかとは思いますが、明けない夜はないんですし、人類の叡智を信じて、今は隠忍自重の日々を送ろうではありませんか。


…それはそれとして、これだけ国民頑張ってるんだし、もう二、三回くらい定額給付金出してもいいんじゃないですか?ねぇ、菅首相=サン

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