情念とは何か~意訳版~まえがき

情念とは、ワシらが生きていく中で切り離すことができんもんの1つや。

情念とは何かを説明するとき、必ずそこに情念に憑かれた主人公がおって、情念に駆り立てられた行動が語られる。

ワシは情念がどいな要素から生まれるんかを現代の心理学的視点から明らかしていくと同時に、一見非合理と思われるこの情念が、この合理化された現代社会の構成要素の1つであるということも示したい、そう思っとるんよ。

そうそう、特に念を押しておきたいのは、ここでゆう心理学は、いわゆる教室で説かれるような定型的なもんでない、1人1人違う人格にも焦点をあてたものと思ってほしい。デカルト、マルブランシュ、スピノーザ、彼らの魂に関する記述が、今日の心理学へ貢献してくれたおかげやわな。

そして情念に多大な影響を及ぼしとるのが文学やと考えた。とゆうのも、これまでワシも小説や詩からようけ借用させてもろてきたけど、そこでわかったんは、結局ワシらが実際に体験する情念ゆうんは、文学の、あの美しく昇華された図譜に感化されとると確信したからや。

最後になるけど、この著書でゆうとる【情念】とは、狭義的な意味を持つものに留めた。いろいろな解釈を持たせると混乱や矛盾が生まれるし、結果として深く掘り下げることができんからや。

そして、限定的な意味での解釈こそが、現在【情念】を取り扱う心理学の傾向であるように思えたんやわ。

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