コレクションの時代の終わり〜村上春樹『村上T』〜
子どもの頃から、いつも何かを集めていたような気がする。
お気に入りのマンガ。好きな歌手のCD。アニメのDVD。ポケモンカード。使わないテレフォンカード。
今、それらは、どこかに失くしてしまったり、売ってしまったりして、ほとんど手元にない。
なぜ、あの時、夢中になって色々なものを集め、所有しようとしていたのか。
村上春樹の新刊『村上T』を読んで、そんなことを思い出した。
『村上T』は村上春樹の膨大なTシャツのコレクションから厳選された108枚のTシャツを村上春樹のコメントとかわいい写真とともに紹介する本だ。
高いブランドものではなく、あくまで古着屋などで、安く購入したものばかり。しかし、そこは村上春樹。色とりどりのTシャツはどれもかわいらしく、オリジナリティがあり、「村上春樹着てそうー」となるものばかりだ。
あの短編『トニー滝谷』も、Tシャツがきっかけでできたという。黄色いTシャツに黒い文字で「トニー滝谷(ローマ字)」と印字されたものをハワイで見つけた春樹は、トニー滝谷とはどんな人物なのだろう?と想像力を膨らませて、小説を書き上げた。
市川準監督でのちに映画化もされ、それはいい投資になったそうだ(笑)
最初の話に戻る。この本を読んでいて、何かをコレクションする気持ちを思い出したという話だ。
80年代からバブルにかけて、何かを所有してコレクションすることには大きな意味があった。持っているものが、その人の価値観や人生観を決めていた。
しかし、現在、コレクションする時代は終わろうとしている。サブスクリプションサービスに代表されるようにデータの共有によって、全てのサービスを受けることができる時代。人はあまり、所有にこだわりを持つことがなくなってきた。
かつてコレクションとは、心の隙間を埋めるものだった。自己実現の象徴だった。けれど、いま、心の隙間を埋めるのはネットにおける過剰なコミュニケーションだ。
そこで失われた豊かさ。
それを村上春樹に教えてもらった気がした。
YouTubeにも投稿しました。全く見られてないので、ポチってもらえると嬉しいです(笑)