迷ったら、買わない。ただし、
家訓というわけでもないし、誰に言われたわけでもなかったと思うが、子どもの頃から、「迷ったら、買わない。」という方針で生きてきた。
5年前、新京極にあるセレクトショップで、パーカーを見つけた。
カールラガーフェルドのグレーの肉厚パーカーで、おなかの部分に筒になっている台形のポケットがついた、形はいたってオーソドックスなもの。そのポケットの上辺に、カールラガーフェルドと愛猫が並んでひょっこり顔をのぞかせていて、ものすごく可愛かった。一目惚れだった。
ほしい……!と思ったけれど、値札を見ると3万円ほどする。
うげー。
当時、ブランドものを買うことはもちろん、洋服にお金をかけること自体がほとんどなく、パーカーなんて数千円で買うものという感覚だった。だって、いくらブランド品だったり良い素材だったりしても、パーカーはパーカー。カジュアルな場でしか着れない。それなのに、3万円て……いや、いくら可愛くてももったいない。でもパーカー欲しいと思ってたし、普段いっぱい着れば元取れるのでは。でも高い。でも欲しい。でも……
そうして長々と迷った結果、「迷ったら、買わない。」精神で買わずに帰った。
パーカーは欲しかったので、もう少しお手頃価格を買うべく、その後もいろいろなお店を見ていた。
しかし。
どれもあのパーカーにはかなわない。いくら安くても、あのパーカーが頭をよぎってどうしても買おうと思えない。
ああ、あの時買っておけばよかった。
よし、買いに行こう。3万円。奮発してしまえ!
1か月後くらいだったと思う。お店に行くと、すでに時遅し、そのパーカーは売り切れていた。
他のデザインではだめなのだ。あの、ポケットからひょっこり顔をのぞかせているデザインでないと!
以来、私の方針に若干の変化が生まれた。
「迷ったら、買わない。ただし、ネックが金額だけなら、買う。」
もちろん、買える範囲の金額、という前提はあるが。
おかげで、自分が本当に気に入ったものは少し高くても買うようになった。気に入っているから、大事に使う。大事に使うから長持ちする。他に目移りすることもないから、結果、新たに買うことも捨てることも少なくなる。お気に入りのものが傍にあるというのは、日々の生活の満足感も上がる。
なんだ、いいこと尽くし。
しばらくは、この指針で生きていこうと思う。
ただ、ほんと、あのパーカーは5年経った今でも引きずってる。あー買っとけばよかったー!!!