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【狂い昔話】桃太郎「鬼を治療しに鬼ヶ島へ行ってきます」

「おじいさん、おばあさん、鬼を治療しに鬼ヶ島へ行ってきます!」

 桃太郎は船にさっき鬼から奪った財宝、雉、猿、犬を積み込み、最後に自分も乗りました。

「気をつけて行ってくるんじゃぞ〜」

 おじいさんが手を振っています。

「お気張きばりやっしゃ〜」

 おばあさんはお尻を振っています。おばあさんのお尻から出た青い珊瑚礁さんごしょうがびちゃびちゃと音を立てて地面に降り注ぎます。

 海へ出た桃太郎は「船の上って暇だな」と思いながらぼーっと犬の肛門を眺めていました。

 ニュっ

「おっ!」

 犬の肛門から何かが顔を出したのを見た桃太郎は思わず声を上げました。

「どうしました? モモさん」

 肘で逆立ちして両手で鼻をほじっていた猿が不思議そうに桃太郎に聞きました。

「今、犬の尻からさ⋯⋯あっ」

 桃太郎はこれは言わない方がいいのではないかと思い、口をつぐみました。

 これはこの世界の真理なのではないか。このことが他の皆に知れたら世界は大変なことになるのではないか。そう思ったのです。

「あ、僕のお尻から出てるやつですか? これ、うんこです」

「えっ」

 桃太郎は衝撃を受けたような顔をしています。今自分が見たものは明らかにうんこではなかった。あんな禍々しい、この世の悪の全てを煮詰めたようなものがうんこなはずがない。そう思いました。

「ちなみに僕のうんこには悪霊900体分の力が宿っているので、ひと舐めするだけでマフィアのボスになれますよ」

「なんということ⋯⋯」

 そんなこんなで、雉を仲間外れにしてくだらない寸劇をしている間に鬼ヶ島に着きました。

「ちーす」

「⋯⋯⋯⋯」

 桃太郎が玄関を叩いてみても返事がありません。それもそのはずです、鬼たちは1羽残らず死んでいるのですから。

「よし、ちゃんと全員殺せてたようだな。それじゃ生き返らせるか! お前たち、やっておしまい!」

 桃太郎は雉と猿と犬に鬼たちを生き返らせるよう命じました。

 雉と猿と犬は医師免許を100個ずつ持っているので、1匹あたり1時間で100羽の鬼を生き返らせることが出来るのです。

 数時間後、9万羽の鬼すべてを生き返らせた桃太郎一行は持ってきた財宝を鬼たちに渡し、鬼ヶ島をあとにしました。

 鬼たちは恐怖しました。

 彼らには「僕は桃から生まれた桃太郎! 今からお前たちを殺す!」と言われ、切り刻まれて殺された記憶があるのです。

 桃太郎が鬼ヶ島に来た時、鬼たちの頭には疑問符が2000個くらい浮かんでいました。

「桃から生まれたって何? ふざけてるの?」
「100歩譲って桃から生まれたとして、桃太郎って名前つけるか?」
「こっちは9万羽いるのになんで1人と3匹で挑んでくるんだ? 何か策があるのか?」
「なんで犬と猿と雉なんだよ。舐めてんのかよ」
「桃太郎以外全裸なのなんかウケる」
「俺たちもパンツ一丁だからあんま変わらんけどな」
「子どもじゃん!」
「YOUみたい」

 そんなことを言っているうちに桃太郎一行に全滅させられたのです。彼らは意識が遠のく中、桃太郎に財宝が奪われるのを見ました。

 そんな桃太郎一行が自分たちを治療し、財宝を返却したのです。恐怖以外のなにものでもありません。

 本土に着いた桃太郎一行は船を乗り捨て、徒歩で家を目指しました。

「桃太郎さん、手を出してください」

 雉が桃太郎に言いました。桃太郎は言われた通り手を出しました。

「ぬぉるゔぇええろぁあ!」

 雉は桃太郎の手のひらにゲボを吐き、どこかへ飛んでいきました。桃太郎は手のゲボを腰につけた巾着にしまうと、再び歩き始めました。

 しばらく歩いたところで猿が立ち止まりました。

「モモさん、手を出してください」

 猿は雉と同じことをしました。

 またしばらく歩いたところで、以下略。

 なぜ同じ展開を3つも用意したんですか、原作者さん。

 1人になった桃太郎は日本一の旗を掲げたまま家に帰りました。

「おかえりなしゃい!」

 おじいさんが喜んでいます。

「無事でよかった」

 おばあさんもありきたりな言葉で出迎えました。

 桃太郎もそれに応えました。

「金玉!」

 ただいまという意味だそうです。

 ただ今戻りました→ただいま→たま→きんたま。

 おじいさんとおばあさんは桃太郎を担ぎ上げると、大きな桃が置いてある部屋に運んでいきました。

「それではお願いします」

 桃太郎の合図とともに、2人が桃太郎を桃の中に押し込み始めます。

 12年前からずっと置いてあるこの大桃はとてもここでは言えないような見た目をしていました。

 カビて腐って干からびて、いろんな虫がたかって真っ黒になっていたのです。

 そんな中に人間を詰めようというのですから狂気の沙汰です。しかし、これは桃太郎の願いなのです。おじいさんとおばあさんは彼のRTAに協力しているにすぎません。

 12年前のサイズと全然違うので、桃太郎はなかなか桃の中に帰れません。

「僕を折りたたんでください」

「そんなことをしたら⋯⋯!」

「折りたたまってしまうぞ!」

 我が子を折りたたむなど到底出来ることではありません。2人は止めました。

「いいんです、それが僕のたったひとつの願いなのですから」

「分かったぁ!」

「りょーかい!」

 2人は桃太郎の意思を尊重し、桃の種サイズになるまでベッコベコに殴りました。

「おじいさん、そこを押さえとくれ」

「あいよ、ばーさん」

 2人は息を合わせて縫合を進めていきます。

「よし、完成ぢゃ!」

「ちゃま!」

 15秒で桃を縫い合わせ、おじいさんは山へ柴植えに行きました。

 おばあさんはその真っ黒な物体を川に運びました。

「さらばだ」

 おばあさんは桃を川に浮かべました。

「あ、なんて大きな桃!」

 おばあさんはそう言うと綺麗な服を汚し始めました。桃は川下へ「どんぶらこ、どんぶらこ」と言いながら流れていきました。これが桃太郎の最後の言葉でした。

 すべての服を汚し終えたおばあさんは家に帰りました。
 おばあさんが着いた頃にちょうど柴を植え終わったおじいさんも帰ってきました。めでたしめでたし。


 タイムは12年1ヶ月2日9時間486分でした。

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