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#002 好きかもしれない

話しかけると一歩引く。
そんな人だった。

用事があって話しかけても、
歩きながら話を聞く人。
立ち止まらない。

あ!
というと、
お、と言い終わる頃には右から左へ歩いている。
あいうえお、
がうまく届かない。

嫌われてるな。
そう思ってた。
わたしはきっと、この人の苦手なタイプなのだ。

それなのに。
わたしの髪を触りたいといった。

それなのに。
そんなことがあった後でも、
やっぱり、すれ違いざまに話していなくなる。
この人の心がわからない。
でもわからないからこそ、気になる。

たまたまとある会で隣に座ることになったときには、彼の小指がわたしの小指に触れた。
ような気がした。

これもまた気のせいか。

気のせい、気のせい、気のせい、、、
気のせいが気になる、、に変わっていく。

もうすっかり、気になる。

綴る言葉、伝える声色、醸し出す色、立ち姿、すれ違う匂い、わたしは彼のそれらを追うようになった。

近づくと遠くにいく。
なのに遠くにいると近づいてくる。
猫のような彼。

猫だ。彼は猫なのだ。

もう、好きかもしれない。

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