「くもをさがす」西加奈子

 雲を探すだと思い本を手にした。蜘蛛なんだ、あれっと思いながら読み始めた。カナダ バンクーバー湿疹で病院へ。くもに噛まれた虫刺されと診断。気になった胸の痼が乳がんと判明。「まさか私が」病に寄り添い歩む生活が心に沁みる。現地の会話まで軽快な関西弁で綴られ、読み手の沈み込む辛い感情をふわりと支えてくれる。作家ならでは、随所に本、歌詞、ニュースクリップが挟み込まれてアクセントになっている。
 私は幼児の頃、盲腸で一泊手術入院の経験しかない健康な身体を親から授かり自身でケアしてきた。本書で、不安を抱えて家族と周囲の人とどう接するか、悩む患者の心に少しだけ触れることができた。日本との医療制度の違いも感慨深い。ミールトレインなど家族ではなく、友人や地域の人々に支えられる文化は、長屋の近所付き合いを彷彿させる。
 医師が「あなたの身体のボスはあなたやねんから」と漢方、鍼を続けることは本人任せ。道は自分で選択する。
 治療を終えキャンサーフリーになって、病を克服するという目標を失う喪失感、再発、転移の不安を抱えていることを知り驚いた。
 まだまだ豊かさの多様性が日本には欠けていると思えた。不自由という自由、高度成長と核家族化で失った人付き合い。日本人独特の距離間。他人にどう見られるかではなく、自分が何をしたいか。
 自然にハグできる、温もりを感じあえる友人がいることが羨ましかった。人の心を感じ思いを伝えられる人間になりたいと思えた。くもをさがす

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