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雪色の邂逅・3

第六猟兵(https://tw6.jp/ )の二次創作です。

世界観はふわふわ。



 アルダワ魔法学園。
 ポノがこの世界にある学園を初めて訪れた時の印象といえば「ごちゃごちゃしている」だった。しかしよく見ればこの混迷は、きっちりと計算された精緻の尽くされた故の世界だというのが分かった。
 蒸気機械と魔法で創造した究極の地下迷宮「アルダワ」に、オブリビオン――災魔は全て封印されたのだという。その迷宮の上に作られたのが、アルダワ魔法学園。
 島全体が学園施設なのかもしれない、広大な敷地。
 行き交う学生たちは、好みの学生服を作り、好きなように着こなしている。
 猟兵という存在を把握している学園の運営は猟兵達を「転校生」として扱う。よってポノもまた自由に出入りできるのだが――。
「この世界の通貨は手に入れたし、次はケットシーの日常品を使う雑貨屋さんね」
 購買部もあるが折角なら種族専門の店を覗いてみたかった。道行くケットシーに訊ねてみれば、すぐに店の所在は明らかになる。
 路地全体をドームで覆い、商店街のようになった場所は様々な種族の生活雑貨を売っている。
「こんにちはー」
 ケットシーのアイテムを扱う店を訪れたポノが扉のない出入口を通り抜ければ、そこは吹き抜けとなっていた。おひさまのような、燦々とした光が降り注いでいる。
「いらっしゃいまし。おや、エルフさんですか? ケットシーの物が何か入用で?」
「はい。ケットシーの日常雑貨が色々と必要になったもので……ええと、ここ、本当にケットシーのためのお店なんですね」
 そう言ってポノが周囲を見回す。
 ぐるりと円形になっている小さな建物はくり抜かれた壁や突き出した棚に品物が陳列している。人型用に梯子が架けられていたり、階段があったり。けれども一番移動しやすそうなのはキャットタワーのように架けられた「道」だ。
 動物の姿を取る学生があっちこっちに移動していく。
 そして床。ポノの脚半ばに設置された台はケットシーの身長に合わせた物。
 小物の大きさといい、自身が巨人のようにも感じてしまう店である。
 からくり仕掛けの空飛ぶ籠――翼は付いているが、動力は透明なオーブを使っているらしく翼が完全に飾りだ――を伴って梯子を上るポノ。
(「ええと、石鹸とシャンプー……全身毛だらけだけど、どういう違いがあるのかしら……? これはふわふわスプレー?」)
 あなたの毛もこれでいつもふわふわ! と説明が書かれている。
 水の迷宮探索用の、防水スプレーもある。こっちも「ふわふわ!」がキャッチコピーである。ケットシーにとっては余程惹かれる言葉らしい。
 気になったアイテムを籠に入れていった。
 ヒゲ近くのブラシ、長毛タイプのためのブラシと、こちらも悩むものばかり。
「……鱗磨きのブラシと同じ感じかしら?」
 アックス&ウィザーズでドラゴンメイルを磨くブラシと、ドラゴニアンが使うブラシが一緒に見える――それと同じだろうか。
 それはそれとして櫛は長毛タイプのものを。
「あっ、静電気。静電気対策のやつ買わなきゃ!」
 ポノの髪も冬は梳ればバチバチと音がするのだが、イロハは輪をかけて酷い。たまにお互いがじりじりと何かを窺う攻防戦になっている時がある。
 琥珀を擦れば摩擦帯電が起こるという知識はアックス&ウィザーズにもあるが、他世界とは繊維などのアイテムの質の違いもありそこまで気にすることは無かった。
 が、世の動物タイプの者は中々苦労しているらしい。
 他にもケットシーが主人公の、妖精のお話や日常エッセイ集などもあり、それらも買っていくことにした。
 イロハには色々と教える日々だが、種族の違いは埋められないから本に補ってもらおうという考えだ。
「……そういえば楽器も欲しがっていたな」
 ポノがよく行く宿場にイロハを連れていった時、彼女が女将の歌に興味津々だったことを思い出す。吟遊詩人や楽器にも興味を惹かれていた。
 購入予定の品はそれなりにあったが、現地に来れば色々な物が目に付き、ついつい買いこんでしまうポノであった。

 そうやって世話をし続けていると、イロハもどんどんと自立していった。
 よく見て、よく聞き、本でもよく学ぶ。意外ところは怪力なところ。腕相撲などはポノが負ける。
 春になって、週一で町の方で開かれる青空教室に通わせてみれば、きちんと礼儀作法を教わったのだろう。敬語を使うようになった。
「きょうは猪突猛進とか、フクザツな言葉を教えてもらいました! ポノさんを思い出しました」
「ふふふふ、生意気なことを言うのはこの口かしら?」
 そう言ってポノはイロハの頬を摘むが、猫の頬はあまり肉付いていないので摘みづらい。するりと指から抜けてしまった。
 このように、たまにおちょくってくるようにもなっている。結構イイ性格をしたケットシーだった。
 最近は料理にハマっているようだ。
 ポノもまあそれなりに作りはするが自身基準で面倒な部類に入ってたりするので、好きなフルーツですませたり、買い食いなどで食べ歩きすることの方が多い。正直、食べ歩きは楽しい――最近は家で食べるけれども。
 イロハは食材を買ったり、うさぎを狩ったり、魚を釣ったり、山菜を採ったりと、調べて実地で学んでと日々を過ごしている。
 白い毛並みを真っ黒にして帰ってくるので、朝にイロハの予定を聞いたポノがお湯を沸かして家で待ったりもする。


 そんな風に日々を過ごして季節が過ぎて。
 イロハがアルダワ魔法学園に行く日がやってきた。
 災魔を倒しに迷宮へと入っていく学園生活の始まりだ。
「本当に寮に入らなくていいの?」
「はい、学園はここから通います。――大丈夫です、私も、世界を渡れるようになりましたから」
 新しいケットシー用の学生服に身を包み、イロハがポノを見上げる。
 その眼差しは、出会った時の虚ろな――ぼんやりとしたものから、輝きを灯したものへと変化していた。毎日の積み重ねが冬原・イロハとなったのだと分かる眼差しだった。
 そう、とポノは頷いた。
 森のエルフの里を出て、里の物でもあるこの家で一人暮らしをしていたポノであったが、同性との二人暮らしは結構楽しかったのだ。内心、安堵めいたものが広がった。
「ポノさんは学園に通ったりしないんですか?」
「うーん、私は『転校生』でいいかな……」
 たまに机を並べましょ、とポノが言う。分け隔てなく接する彼女ではあるが、ある意味、その根底に人見知りが存在することを知っているイロハは、そうですか、とポノの真似をするように頷いた。調和をモットーにしていても、過ぎればついつい一歩引いてしまうのだろう。
「それじゃ、今日の夕ご飯は用意して待ってるわね。学園生活で学んだこととか、新しいお友達の話とか、楽しみにしてる!」
「――お友達……! 猫さんはたくさんいるでしょうか?」
 どきどきわくわくと瞳を輝かせ始めるイロハに、ポノは少し悩まし気な声を出した。
「そうねぇ……同じケットシーはたくさんいると思うけれども……種族に限らず、友達がたくさんできるといいわね」
「はい」
 入学の準備で、何度か一緒にアルダワ魔法学園を訪れたイロハは目まぐるしい世界にすっかり魅了されていた。
 楽しいものはいっぱいあれど、比較的変化のない穏やかなアックス&ウィザーズとはひと味違った賑やかな世界。
 一体、いくつの世界が【この世界】にはあるのだろう?
 たくさん、たくさん知りたいことがある。
 だから毎日この家から色んな場所へと行こう。

「いってきます!」

 偽雪(ぎせつ)の地、冬の原はすっかり彩り豊かな色に染まっていた。
 活き活きとした夏の色が世界に広がっている。
 イロハの猟兵としての冒険が、この瞬間から始まっていくのだった。



 ・・終わり・・


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