ティファニーに憧れて

数か月前、ジュエリーを購入した。

もしかしたらこれまでの人生で一番高い買い物だったかもしれない。

毎回、高い買い物をするときは必ずと言っていいほど不安になる。
『やっぱり買わないほうがよかったんじゃないか』とか、
『あっちのモデルのほうがよかったんじゃないか』とか。

でも、このジュエリーだけは、買った後に後悔は少しもなくて、嬉しさと胸の高鳴りでいっぱいだった。幸せで、嬉しくて、最近の疲れがすっと消えていく感覚だった。ジュエリーがこんなにも女性から愛されている理由が、今、初めてわかったような気がする。

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実をいうと、これを買うことは大学1年の頃からの夢だった。

わたしはいつも何かに悩んでいて、その時も例外ではなかった。特に対人関係がひときわ苦手で、幸せになりたくて、うまくやれている周りがきらきらして見えて、心底うらやましかった。

『身に着ける人に幸福をもたらす』

このジンクスを知ったのはこの時で、わたしは当時、すがるような気持ちでこのジュエリーについてよく調べていた。そんなの馬鹿らしいと思われるかもしれないけれど、それでも。

このジンクスの一番の条件は

『自分で購入すること』

当時大学生のわたしにとって、このジュエリーは少し手の届かないものだった。


正確に言えば、購入することはできたけれど、そんなのは
『生活費や学費を負担してもらえるような環境に恵まれていたから』
であって、この条件の意味を考えれば考えるほど、その時に買うのは違う気がしていた。それになにより、当時の自分には似合わない気がしたのだ。

『自分の幸せを自分自身でつかめるように』

だからわたしは決めていた。


『ちゃんと働いて、自分でお金を稼げるようになったら、いつかきっとこのジュエリーを買おう』

その後も、上手くいかないときに時々思い出しては調べ、漠然と『いつかほしいな』、と思っていたものの、片時も忘れられなかった、というわけではなく、むしろジュエリーのことなんて考える暇もなく過ぎていく忙しい毎日だった。

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そうやって月日が流れて、わたしは大学と大学院を卒業して無事に社会人になった。

幸いなことに、仕事には恵まれて、素敵な上司や同期と一緒に、好きなことをして収入を得ることができていた。
そんなに恵まれている環境だって、やっぱりうまくいかないこともある。
少し疲れが出始めていた。

そんな時たまたま出張で京都を訪れた。1週間ちょっとの出張だったので、おやすみの日に京都に就職した先輩に会いに行くことにした。

待ち合わせは京都駅。時間にはまだ少し早い。

慣れない駅できょろきょろしながら歩いていると、左手にティファニーがあった。これまでずっと憧れ続けて、それでも入ることができなかったティファニー。今日は先輩に会うからと“きちんとした服”を着ている。
今なら、入ってもいいだろうか。

なんともない表情をして、入店し、1つ1つのショーケースを覗く。
そして、憧れだった、あのジュエリーの前に立った。
高畑充希似のお姉さんがとても丁寧に接客をしてくれて、一瞬でティファニーのファンになった。
今なら、『自分で買う』ことができる。

もちろん、高い買い物だったのですぐには決められず、試着をさせていただいただけでその日は帰宅したのだけれど、
『この人から買いたい』
その思いは強くなるばかりで、週明けの仕事終わりに制服のままJRに飛び乗った。

初めて買うジュエリーはやっぱりなかなか決められなかった。
「すべての女性が予算に応じてジュエリーを楽しめるように」
そんな思いで作られたこのジュエリーは、チェーンの素材、石の種類、数、大きさ。すべてを自分で選べるのだった。

今まで「母が良いと言ったものを選ぶ」という生き方をしてきたわたしにとって『自分で決める』ということはすごく難しくて、とても時間がかかってしまった。今回は石の大きさで悩んですごくすごく時間がかかった。数ミリしか変わらない石の大きさで、世界が全く変わるように感じた。

結局、小さいサイズのものを選んだ。
『ジュエリーはその人を引き立てるものである』という考え方から大きいものは今の自分にとってはジュエリーの方が目立ちすぎる気がしたし、何より、小さいものの『いつも寄り添ってくれる安心感』が好きだった。

すごくすごく時間がかかったけれど、初めてした『自分で決める』という経験は、小さいけれど少し自信になったと思う。

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『自分で決めること』『自分で買うこと』
この2つが少しだけできるようになったわたしは、少しは『幸せ』に近づけているだろうか。

答えはわからないけれど、

ピンクゴールドのチェーンの真ん中で1粒の小さめのダイヤがきらっと輝くシンプルなジュエリー

このジュエリーを身に着ける度に、あの日のちいさな一歩を思い出して
『自分で選び、自分で幸せになろうとする』ことを忘れずにいられればと思う。

『自分の幸せの責任は自分で取る』
そんな当たり前のことができるような自分でありたい。


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