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カトラリーの選び方に迷ったら~憧れのクリストフル

陶磁器をきっかけに、カトラリーにも興味を持つようになったさくらです。

日本で「高級カトラリー」と言えば「クリストフル」をイメージする方も多いと思いますが、ネットを見ていたら「大きすぎる」とか「どのサイズを選んだらいいのかわからない」という声を目にします。

子供の頃から家にカレーなどの洋食を食べるスプーンはどこの家にもあったでしょうし、一人暮らしをしたり、結婚したり…とライフスタイルが変わるごとにカトラリーを揃える時って、余程好きじゃないと「こんな大きさでいいかな?」ぐらいの感覚で選んでいると思うんです(私もそうでした)。

元々カトラリーが好きだった方、実家がクリストフルユーザーという方、テーブルコーディネートを習っている方は多分違和感が無いと思うのですが、確かに今までカトラリーに興味が無かった方で初めてクリストフルを見た時に「え、大きい…??」となる気持ちもとても分かりますし、どうやって選んだら良いのかわからなくなるのも当然だと思います。

ここに一つ「並べた時に綺麗に見えるよう、お皿の大きさに合わせて選ぶ」という基準を加えてみても良いのかな、と思いながらこの記事を書いています。
素人のお遊びだと思って、お気軽にお読みいただければ幸いです。

私はクリストフルではなく、アンティークのフランスのカトラリーを持っているのですが、色々調べてみると、フランス系のカトラリーの大きさは現行のクリストフルと100年前からそんなに規格は変わっていません。イギリス銀と違って、フランス銀は年代を正確に出すことはできませんが、およそ100年ぐらい前の物のはずです。
ちなみに、現行品のクリストフルにはスタンダードサイズというディナーサイズを一回り小さくしたものがありますが、あれに対応するカテゴリーはアンティークでは見たことがありません。似た大きさの物はありますが、全てデザートサイズ(現行品のクリストフル、ピュイフォルカだと17cmぐらい。アンティークはスプーン&フォーク17cm~19cmとメーカーやラインによって幅が大きい)というカテゴリーに含まれています。ディナーサイズとして残っている物は、全てスプーン&フォークが20cmを越えていますが、これは現在のクリストフル、エルメス傘下に入ったピュイフォルカも同じです。(ちなみに、現在でもエリゼ宮の饗宴ではクリストフルとピュイフォルカのカトラリーが使われています。たまに銀器を失敬する不届き者がいるそうですが…)。

百貨店で販売されている「ベルナルド」というフランスのメーカーがあるのですが、殆どのラインが、ディナープレートが25~27、デザートが21、パンプレートが16、というようになっていまして、これにクリストフルのそれぞれに対応するカトラリーを合わせると丁度良く収まります。という事は、フランス系のお皿も当時から規格が変わっていない可能性があります。
他の大きさのお皿も色々あった可能性はありますが、現在残っているのが最低限必要だったものだとしても、普通に考えたら最低限何を残すかと考えた時に、使用頻度が高い物を残すと考えるのが自然です。
現在のエリゼ宮の晩餐会も(どこの国も晩餐会とはそういう物だと思いますが)、テーブルコーディネートにおいてはデザイン自体の美しさだけではなく、全体のバランス感も重視しているはずです。なんせ、テーブルクロスの位置からmm単位で揃える世界です。
そんな中、皿の規格だけが変わって、カトラリーの規格が変わらないというのはバランスが崩れるのでちょっと考えにくい。
ノリタケ、ニッコーという日本のブランドでは、個人個人が使うメイン用のプレートとして27㎝前後、24㎝前後の両方を販売しています。一般家庭で洋食用の個人皿として出てくるお皿は24㎝を選ぶお家も多いのではないでしょうか?そうなると、確かにディナーサイズのカトラリーだと大きく見えるので、カトラリーを気持ち小さくする方が良いのかもしれません。

よく「日本人は西洋人に比べて身長が低いからディナー用は大きい」と言われますが、上記で述べたように、100年前からカトラリーの規格は変わっていませんが、人間の平均身長は大幅に伸びています。
しかも、フランス人はヨーロッパの中でも身長は低い方です。
フランス人男性の平均身長が170㎝を越えるのは、1930年になってからです。手持ちのアンティークが作られたであろう時代は(フランス銀は正確な年代を出すことが不可能なのですが、1800年代後半~1900年前半との事)、男性の平均身長は170㎝に届いていません。
少し時代は遡りますが、ナポレオンは170㎝弱で、おつきの人たちより身長が低いため小男説が出ていますが、実は当時の平均身長よりは高かったのです。
銀器を使っているという事は、相当身分の高い人たちであることを鑑みて、ナポレオンを参考に平均身長に+5cmを足して換算してみると(現代でも身長と年収は比例するという統計が出ています)、現行品と変わらないディナーサイズで食事をしていた男性の平均身長は170㎝ぐらいということになり、現代の日本人男性の平均身長と変わりありません。
また、女性は大体男性より10㎝強低い平均身長で推移しているのは、いつの時代もどこの国もそこまで変わりありませんので、逆算すると女性の平均身長は160㎝前後ということになり、これも現在の日本の女性の平均身長と変わりありません。
なので、現在の私達と変わらない体格の人も現行品のクリストフルのディナーサイズで食事をとっていた、という事になります。
「西洋人は身体が大きいからカトラリーも大きい」というのであれば、カトラリーのサイズも年代によって変わるはずなのですが、何度も述べたように100年間でそこまで変わっていないのです。

イギリスでもフランスでも、銀器の伝統がある国の道具を見ていくと、左右非対称のカトラリーが登場することがあります。イギリスの古いバターナイフは湾曲していますが、左利きの人には使いにくい仕様ですし、フランスのアイスクリームスプーンも左右非対称です。
マイノリティへの気遣いは今ほど無かったでしょう。
饗宴にはテーブル上のバランスが求められ、個々人の事情に配慮するよりも統一感とマナーが重視されていたことを考えると、少なくとも公式の場では身体の小さい筈の女性も男性と同じサイズのカトラリーを使って食事していたと考える方が自然だと思います。
更に、サルコジ大統領の身長が話題になったことがあるように、「平均身長」である以上、当然いつの世でも平均よりも低い人も存在するわけですが、その人たちも普通にディナー用で食事をしていたことでしょう。

カトラリーは確かに人間の使う道具ではありますが、道具は人間の為に作られる一方、服や靴など道具に人間が合わせる場面も多々あり、カトラリーもその一つなのだろうと思います。
もしかすると、日本のカトラリーメーカーでメイン用と思われるカトラリーが18~19cmのものが多いのは、日本人に合わせただけではなく、メイン用の皿に合わせた結果なのかも知れないなぁと思う今日この頃です。

参考「エリゼ宮の食卓」西川恵 著

参考資料 http://honkawa2.sakura.ne.jp/2196.html 平均身長の長期推移

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