『TVの中の世界』
ある晩、男はひとり酔いながらソファーに座ってテレビを観ていました。
正確にはただ眺めていたと言っても良く、男の心はここにはありません
でした。
恋人が亡くなってから3ヶ月、男は空虚な毎日を過ごしていました。
男はテレビの前に座り続けていました。
すると、突如として画面が変化し、見知らぬ風景が映し出されたのです。
それはまるで違う世界のようでした。
驚きながらも、酔っていたせいもあって男はその不思議な光景を
楽しんでいました。
しかし、彼は気づきました。その風景が、自分の心の中にある願望や夢を
反映しているということに。
男は続けてテレビのチャンネルを変えてみました。
すると、新たな風景が映し出されました。男が幼い頃に訪れた
海辺の光景でした。
彼は喜び勇んで海へ飛び込みました。
塩のにおいが鼻をツンと刺激し、刺すような日差しのもと冷たい水が
心地よく体を濡らしました。
ふと男を呼ぶ声を聴いたような気がして振り向くと、
彼女が立っていました。
男が立ち上がると足首を波がさらっていき、踏みしめた砂が足の隙間を流れているのを感じました。
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