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第20話:僕のいらざる心配とアイアイの夢の話。

僕はアイアイと出会って自分の人生が大きく変わったかな。
人生観が変わった・・・再び蘇った恋心のせい。
枯れ専女子という天使によって癒される週末。

もちろん亡くなった妻には感謝してるし、僕はアイアイと言う存在ができても妻のことだって今も愛している。
もっとも妻が生きていたら、セフレはもたなかったと思うね。

でももしアイアイと出会ってなかったら僕はどうなってただろうって
たまに考える。
僕はだれともおまんこも出来ずただ悶々としながら、干しぶどうみたいに
しわがれた老人になっていくだけ・・・。
そうなるんだろうなって思う。

お天気がよくて爽やかな風がべランダを吹き抜けて行った土曜日の
朝のこと。

僕とアイアイは窓ぎわのソファにたれてテレビを見ていた。
いや見ていたんじゃなくてテレビが勝手にかかっていたのかな。

僕は本なんか読んでたし彼女は僕の肩に頭をもたげて漫画を読んでいた。
アイアイは基本、文字は読みたがらない。
って言うか・・・長時間文字を見てると、文字が踊って見えて来るん
だそうだ。
写真とか挿絵は見るけど、そこに添えてある文章は読まないタイプ。

昔から、そうらしい。
だから紙媒体のトリセツとかマニュアルは、ただの燃えるゴミ。
今だと、そういうのは僕のところに回ってくる。

大学出てるくせに、一般常識を知らないところがある。
まあ勉強と一般常識は別ものだけどね。

前に女子高生相手に、日本列島を描かせるって番組をやっていたのを
思い出して、そこでアイアイに日本列島を描いてみてってメモとペンを
渡してみた。

そしたら、そんなの簡単って言いながら日本列島を描いたんだけど・・・
きっちり四国と沖縄がなかった。
アイアイの中では四国と沖縄は、いつの頃からか海に沈没してるみたいだ。
北海道も九州もやや危うい・・・本州だって少し海に沈んでる。

「アイアイ・・・四国と沖縄、海に沈んでるよ」

って僕がいうと彼女、しばらく考えて

「たぶん遠い未来の日本ってそうなってるよ・・・北極と南極の氷溶けてる
んでしょ」

だって・・・当たってるかも。

ま、それはさておき土曜の昼も、日曜の昼もほんとに何もしないで
ふたりでソファに横に並んでもたれて、くっついたり離れたりハグしたり
キスしたり・・・。

で、アイアイは確かめるようにぼそっと僕に聞く。

「ねえ、愛してる?」

「うん、愛してるよ」

言葉は短かくても、それだけ確かめあえば他に言葉はいらい。
ハグしたままお互いの匂いと温もりを感じ合う。
そんな、まったりした時間が心地いいって言うか好きだから好んでやる。

恋人同士ってのは、そうやって自分と相手を確かめていたいもの。
幸せって分っててもその反面どこか不安がつきまとうから・・・。

情報番組も同じことばかり取り上げてるからもう見飽きた・・・。
だからテレビは消す。

時間が止まった部屋の中で動かない空気・・・外から隔離された部屋。
どこかに出かけようかって、どちらからも言わない。
買い物にも行かない。

だから昼食は冷蔵庫の中から冷凍チャーハンを温めて、ふたり仲良く食べる・・・。
昼食の後アイアイは俺の横でうたた寝をしはじめた。
可愛い寝息を立てて・・・。

エアコンの音以外なにも聞こえない、しばらくするとどこかで子供の
はしゃぐ声だけが遠くから微かに聞こえる。

僕はアイアイの寝顔を見ながら自分と彼女のことを考えていた。

今はラブラブだけど、いつか僕たちの関係って終わる時が来たりするのかな?
僕は自分や自分がやってることに自信がないわけじゃない。
アイアイから嫌われるようなことだってしていない。

でもいつか、アイアイは枯れ専なんて性癖から解放されて若い男に目覚めて、
「好きな人ができたから、さよならだよパパさん、今日までお世話になりました」
って出て行く時が来るんじゃないかって・・・。

明日、アイアイから別れを告げられるかもしれない。
幸せは大きければ大きいほど失った時のショックはハンパないもんな。

若い男になんかに永久に目覚めないでくれ。
君を失いたくはないアイアイ。

そんなアホな妄想をやってて、ふと気づくと彼女が目を覚まして僕を見ていた。

「あ〜びっくりした、起きてたんだ・・・」

「何考えてたの?」

僕の顔に浮かぶ不安の影を敏感な彼女は読み取ったのかもしれない。

「内緒・・・」

「教えてくれないんだ・・・ぷ〜」
「あのね・・・私ね、今、夢みてたの・・・」

「そう、どんな夢?」

「内緒」

「あはは、それって今の僕へのお返し?」

「あのね、知ってる?」
「夢ってね、自分にとって世界一大好きな人は出てこないんだって・・・」

「え?初耳、普通反対じゃないの?」
「誰が言ったの?そんなこと・・・」
「好きな人は、いつも心に思ってるから夢に出て来やすいんじゃないの?」

「出てこないの、好きな人は・・・夢には・・・」
「だからね、私の夢にも世界一大好きな人は出て来なかったの」 
「分かる?」

「なに?それってナゾナゾ?」

「さて、私の夢に出て来なかった世界一大好きな人って誰のことでしょう〜」

「え〜?」
「世界一?」

「分かるでしょ、私の言ってる意味」
「夢に出てこない人って私にとってどんな人?・・・その人は誰?」

「・・・・・」

「あ、なるほどね」
「そういえば僕の夢にもアイアイは出てこないわ」

「でしょ・・・私が何を言いたいか分かってくれた?」

「分かれば、めちゃ単純じゃん」
「その答えはパパさん・・・夢に出て来ないのは僕のことだから、だから
世界一大好きだよって言いたいんだろ?」

「私、お腹すいた」

「え?チャーハン食っただろ?」

「お昼食べて2時間は経ってるよ・・・あれだけじゃ足りないもん・・・」

「じゃ〜パスタならすぐ作れるけど・・・」

「パパさん・・・大好き・・・世界一」

僕のいらざる心配は、アイアイの夢の話で、あっさりかき消された。
世界一大好きなんだって・・・僕のことが・・・。
不安要素なんてどこにもない。

僕の妄想なんかアイアイに話したら「おバカ」って言われそうな気がする。

つづく。

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