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【映画レビュー】打算的にアイドルを目指せ!まさかの有毒映画『トラペジウム』の感想

とんでもない映画というような評判を聞いて、なんか事故が起こってる映画かと思って慌てて観に行きました。

『トラペジウム』のざっくりとした感想

『トラペジウム』を観てきました。

トラペジウム
制作年:2024年 / 制作国:日本
94分 / Clover Works 制作
監督:篠原正寛

https://eiga.com/movie/100876/

乃木坂46の1期生として活躍した高山一実さんが現役アイドル時代に連載していた長編小説「トラペジウム」を『ごちうさ』『青ブタ』シリーズの演出を務めた篠原正寛監督&『ぼざろ』『SPY×FAMILY』のCloverWorksがアニメーション制作という布陣で映画化しました。脚本はTVアニメ『薬屋のひとりごと』のシナリオ統括や、まもなく映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』も公開される柿原優子さんです。

auスマートパスプレミアム民なので1,100円で見られるの助かりました。


SNS上で「やべー映画だ」みたいな評判を見て、悲惨な映画を想像して行ったのですが、観てきた感想をざっくり一言で言えば

ちゃんと黒を黒として描こうとしてる佳作

という感じで悪くなかった……むしろ好きな方の作品でしたよ。


ネタバレを含むもっと踏み込んだ感想を書いていきます。


『トラペジウム』のもっと踏み込んだ感想


■ちゃんと黒を黒として描こうとしている有毒作

この『トラペジウム』、何がすごいって主人公の絶妙な凶悪さが描かれているところが凄まじい。

(C)2024「トラペジウム」製作委員会

主人公の東ゆうはアイドルを夢見る女子高生。
アイドルになるために可愛いけどあまり友達が居なさそうな子達と交友関係を築いたり、ボランティア活動に参加して好感度の対策をしたりと、かなり打算的にアイドルを目指していきます。

確かにこの主人公は感ジは悪い!

なんならこの性格が許せないという気持ちもよくわかる!

……だけども、自分の夢のために徹底的になろうとする様子や、人間関係や行動に打算的になる姿勢は誰しもが少なからず抱くようなものじゃないだろうか。なんなら東の気持ちも全然分かる。そんな気持ちから、この映画、全然嫌いにはなれませんでした。


しかも、この映画はちゃんと黒を黒として描いている
結局東の思惑や行動は結果的にうまく行かず、アイドル活動が実っていくにつれて人間関係は歪んでいき、ある種の“最悪な顛末”を迎えます。

因果応報的に迎える残念な結末。
それは「ざまーみろ」って展開でもありつつ「そんなうまくいかないよね」という切ない展開でもありまして。

ただ、その上でさらにその先を描いていく本作は、どれだけ打算的な思惑が明らかになったとて全てが“無し”にはならないという希望も描いていて、東のような失敗に対しても最後は背中を押してくれる素敵な作品だと思いましたよ。

主人公の打算的な行動をしっかり“黒”として描きつつ、その上でのドラマを感動的に描いてくれてる。


■打算的主人公・東ゆうを魅力的に思える

友達作りの段階で“東西南北”の別々の高校のメンバーを集めてわかりやすいパッケージングしていたり、不快に思った時にはあからさまに舌打ちして悪態をついたりと嫌なやつ。

映画を観た人には好感度が低そうな東だけど、私はあんまり嫌いになれないどころか人間臭すぎて結構好き。

(C)2024「トラペジウム」製作委員会

みんなで文化祭ライブを観にいくのは断念できるんだとか、しょっぱなの好感度が低そうな男子・工藤くんも突き放しまではしないんだとかディテールが悪魔じゃなくて、ちゃんと人間の心を失っていないよ、東ちゃん。

その上で、美嘉が終盤で打ち明ける「かつていじめられていた頃に東は気にせず話しかけてくれた」という逸話が東なら全然そういうことできそうで、しかもそれは打算的じゃなくてナチュラルムーブなんだろうな、ってイメージできるのがまた良い。

作中ではさらっと言及されるのみだった、実はかつてはいくつものオーディションを受けていたという背景もまたいろんな想像をさせて苦しい。

作中で落ち込む東に対して、やけに東のお母さんが達観しているなぁとも思ったけど、この映画で描かれている以前のオーディション時代にもいろんなドラマがあったんだろうと想像すればするほど、東の打算的な行動の数々に理由が見えてきて、共感が増していきます。

そんな東ちゃんを魅力的に感じられた、という意味でも本作はある種のアイドル映画ですよ。アイドル映画。

嫌なやつで終われない魅力を秘めた東ちゃんの“アイドル映画”ですよ、これは。


■なんでそういうことをするんだって瞬間もゼロじゃない

基本的には良い映画だと思いつつ、一方で気になる部分がゼロではなかったとも言っておきたい。

(C)2024「トラペジウム」製作委員会

たとえば仲良しグループの一人である南ちゃんこと華鳥蘭子ちゃん。
この子もすごい良い子なんだけど、いくらなんでもそのお嬢様キャラは漫画すぎるだろってキャラクターになっていて少し冷めました。

(C)2024「トラペジウム」製作委員会

他にもボランティア先のお爺ちゃんの声が明らかにお爺ちゃんじゃなさすぎて萎えたのですが、そんなおじいちゃん役を演じたのは高山一実さんと西野七瀬さん。

いくら主人公が邪悪だからってゲスト声優の使い方まで悪ノリしなくていいだろって思ったけど、まさかの経緯でおじいさん役になっていました。

このおじいちゃんは紛れもなく事故だよ、事故。


見せ場の一つでもあるアイドル歌唱シーンは、3DCGなども駆使してよく出来てはいたのですが、昨年観た『アイカツ』とか『ポルプリ』に比べると見劣りはする……とも思いつつ、華美すぎない方が東たちの“トップではない”アイドル感が出て、逆に良かったかもと思ったり。

そこはOK。

諸手を挙げて絶賛はできない問題はいくつかある。


まとめ

●ちゃんと東を“黒”として描こうとしてる。
●その上で東を魅力的に描けている。
●ディテールで気になる部分はありつつ、致命的ではない。

というわけで、事故映画だと思って蓋を開けてみたら“有毒映画”だった、という感じでフツーにおすすめできる映画でしたよ。

この映画に対する批判的な姿勢の人とは対立する側には立つことになっちゃうけど、描いている内容が内容なだけに「この映画が嫌い」という意見も理解できますよ。だって、いくらでもこの映画をキラキラ輝いたものに出来るのに、そこに毒を仕込んでるんだもんな。

キラキラしたアイドル映画を求めていくと
腹を壊すので注意だよ、『トラペジウム』


公式サイト


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