【映画レビュー】『サマーゴースト』の感想！本作が描く綺麗な「死」に思うこと
公開日初日に行ってまいりました。
アニメ映画『サマーゴースト』のざっくりとした感想
11月12日（金）より上映をスタートしたアニメ映画『サマーゴースト』を観てきましたよ。
サマーゴースト
制作年：2021年 / 制作国：日本
FLATSTUDIO制作 / 40分
監督：loundraw
“サマーゴースト”と呼ばれる幽霊にまつわる都市伝説をめぐって、インターネットを通じて出会った少年少女のひと夏を描くというオリジナル短編作。
監督を務めるのは、小説『君の膵臓をたべたい』『君は月夜に光り輝く』の装画などで知られるイラストレーター、loundrawさん。アニメーション制作は、そんなloundrawさんが設立したFLATSTUDIOが務めます。
そのあたりの背景についてはアニギャラREWさんで書いているのでこちらをご参照くださいませ。
本作を観てきた感想をざっくり一言で言うと…..
佳作。
画面から小規模作品のにおいは抜けないながら、撮影効果の力もあってかそこまでチープさが引っかからず、ちゃんと“綺麗”と感じられるところが素敵な映画。なんというか血のにおいがしない死の質感がハイティーン向け作品っぽくてまた面白いです。ある意味珍作。
もう少し詳しい感想を書いていきます。
美麗ではなくとも美しさに感じる可能性
日本のアニメーション映画の美しさってどうにもインフレーションしすぎていて、ついつい新海誠監督とか『鬼滅の刃』とかと比べてしまいがちですが、制作陣もベテランが集まっていたりしないし、それらほどのお金もかかっていないですし、FLATSTUDIOさんは新進気鋭のアニメーションスタジオということもあって、映像面で他の商業作品に比べると見劣りは否めません。
ただし、それとなく撮影効果で気にならないように仕上げていたり（フォローしきれていないとこもありますが）、背景美術など最低限以上の緻密さは保てているので、決してチープにはみえないようにできているのが見事。
それどころか、loundrawさんのセンスによる部分なのかもしれませんが、各所のシーンが逐一、絵になるデザインになっていてしっかり綺麗と思わせられるのがさすが。
美麗アニメーションではなくとも、デザインや構成、見せ方でしっかり綺麗なアニメーションに見せることはできるんだ、という適例ではないでしょうか。
『サマーゴースト』が描く徹底的に綺麗な『死』
そんな作品の根底に流れる綺麗な印象は、美術面だけでなく作品内で見せる物の取捨選択も一役買っていそうです。
登場人物の春川はいじめられているキャラクターでありながら、同級生に水をかけられる姿ばかりが描かれたり、重い病を抱えているであろう島崎や交通事故に遭ったという佐藤の姿も具体的なシーンが描かれるのはわずか。さらにはそれなりに凄惨な状態でなっているであろう“あの”中身も作中では一切見せません。
この映画、徹底的に“汚いもの”を画面からは排除しているのですよね。
そういった絵の作りも、この映画を綺麗に見せているように思いました。
「死」をテーマにしていながら血の一滴も描かない本作の方針は、ヌルくない？なんてことも思ったのですが、世界的にみたら満たされれいる側であろう日本で圧倒的に自殺者が多いのは、本作が描くようなグロくない「死」の印象が根底にあったりするのかも……と考えると、実は本作が描く「死」の感触って意外と多くの人が想像しているものなのかもしれないと思いました。
これは『サマーゴースト』が描く死の世界を綺麗に描いていることを非難
したいわけではありません。むしろ死に惹かれる人間の思いをうまく具象化したアニメーション映画として評価に値する作品だったのでは？なんてことを思うわけです。もしかしたら、今後もいろんな瞬間に思い出す「死」の描き方だったのかもしれません。
男女の飛行シーンのジレンマ
そんな中でネガティブな意味で気になったシーンがあります。
それが杉崎と佐藤が一緒に空を飛行するシーン。映画のキービジュアルなどにも使われています。
このシーンがどうしても『天気の子』がチラついてしまって、ものすごくノイズに感じてしまいました。近年そういう場面を持ってくる映画が多いから余計気になっちゃうだけなのだろうけど、男女が空を落下飛行するシーンって『千と千尋の神隠し』とか『夜は短し歩けよ乙女』とか『天気の子』以前も無数にあったのですが、それでもあの映画のインパクトがすごかったせいか…….
「また『天気の子』じゃん……」
と比較してしまうのは、ちょっと呪いのよう。
決してパイオニアではないながら、これだけ鮮烈な印象を残しているところは『天気の子』がやはりすごい映画だったのだと、『サマーゴースト』を観て逆に思わされました。
せめてもの救いは、このシーンが映画の山場ではないこと。
『天気の子』以上のクオリティを目指さないと、見せ場で男女の落下飛行シーンされてしまうと私は非常に萎える身体になってしまっているようです。
恐ろしい映画ですよ、『天気の子』は。
そんな感じで手放しで大絶賛するような映画ではないながら、しっかりキラリと光るものを持った新星現る！という印象の良い映画でした。
料金も1,300円で安いので、ぜひ多くの人に足を運んでほしい映画でした。
loundraw監督の次回作も楽しみにしてます。
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