ふた。

※以下、「有村架純の撮休」#5のネタバレを含みます。

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開かないふた

最近WOWOWオリジナルドラマ「有村架純の撮休」を見ている。女優の有村架純さんに突然の休日ができたらどんな日々が繰り広げられるだろうかという空想のドラマであり、全8エピソードをさまざまな監督・脚本家が手掛けるコンピレーション方式の面白い企画だ。有村架純さんが有村架純役を演じているのであって実際の有村架純さんの休日ではない。

#4までもそれぞれに味わいのある面白い作品だったが 、今日見た#5は特に印象的だった。

WOWOWのサイトからあらすじを引用しよう。

撮休に有村架純は自宅で先輩からもらった瓶のふたを開けようと悪戦苦闘。なかなか開かないふたを手に、外で誰かにふたを開けてもらおうと変装して外出する架純。自転車であてどもなくさまよっていると、柔道着を持った小柄な中学生2人・遠藤(蒼井旬)と沢田(水野哲志)を見つける。なにやら言い合いをしている2人に架純は正体を明かし、ふたを開けてくれないか?と頼むのだが……。

要するに、有村架純が「瓶のふたを開けたい」ことだけで引っ張る話だ。

瓶のふたが開かない「あるある」感と国民的女優が休日にそれにかかりっきりになるという微笑ましい滑稽さが心地いい。恥を忍んでその辺の男子中学生にふたを開けてくれないかと頼むシーンなどとても笑える。

しかし本当の気持ちは…?

ところが、終盤は意外な展開を迎える。

ふたを巡るドタバタの中で、なんと、有村架純が本当はふたを開けたくなんかないと言い出すのだ。

彼女は取り乱し、こんなようなことを言う。本当はふたが開かなかったときに安心した。これで今日やることができたと。ふたが開いてしまったら、別のことをやらなければならない。友達とご飯に行きたいが、自分からは誘えない。断られるのが怖いから。ふたが開かなければ、ずっとふたを開けようとしていられる。

これにはさすがの男子中学生も沈黙だ。

そんなときに思いがけずふたは開いてしまい、有村架純はあきらめたように友達に電話をかける。結局誘いを断られるのだが、その表情はどこか晴れやかだった。

私のあなたの「開かないふた」

スパっと自分語りに切り替わって申し訳ないが、僕は今年に入ってから料理がマイブームだ。「パスタ男子爆誕」などというふざけたnoteも書いている。

しかし、このマイブームが始まった頃から、どこか自分で自分を冷静に俯瞰しているような違和感があった。だからこそはじめから周りにも「これはいっときのマイブームであってすぐに終わる」と公言していたのだが、今回「ふた」を見てこれだと思った。

多分僕は、別にパスタを作りたくなんかないのだ。いや、嘘ではなく作りたいのだけど、それは僕にとって「開かないふた」でもあるのだ。

だってさ、パスタ作ってればさ、職場で休日何してたか雑談振られたときに「ほら、外出できないし、パスタ作りにハマってるんですよー!」って言えるじゃん。

奥さんにも「なんかパスタ作りたい気分だから食べてよ(笑)」って言えるじゃん。感謝されるじゃん。

SNSにアップすればなんかいい感じのパスタ作ってるいい旦那さんだなーって感じの顔してられるじゃん(いや多分そこまで思われてないけど笑)。

だから僕は、パスタを作ってれば「パスタを作ってます」って言ってられるからパスタを作ってるところがあるんだと思う。

繰り返すが別にパスタを作りたい感情が嘘ではないし何かから必死に目をそらして言い訳のためにパスタを作っているわけでもない。そんな大袈裟な話ではない。でも「ふた」を見て、自分が自分の日々に持っていたなんとも言えない違和感のようなものが見事に説明されたような気がしたのだ。

そして、有村架純にとっての「開かないふた」のようなものって、誰しもがけっこう抱えているんじゃないか、と思った。

それが良いとか悪いとかじゃない。それもまた人間らしい。

というわけで「有村架純の撮休」、良い作品なのでみんな見ましょうというお話でした(僕は有村架純ファンであり彼女が出演しているドラマや映画はなるべく見るようにしているが、もしかしたら撮休は「いつ恋」に次ぐ傑作かもしれないと思い始めている)。

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