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パスタ男子爆誕

突如現れた変化

令和2年、突然パスタ作りにハマった。

元々はさほど料理をするタイプではない。肉を炒めて砂糖と醤油で味付けするとか、袋の焼きそばを買ってきて作るとかそれくらいはするけど、という程度だ。

近頃はTwitterで料理研究家の簡単でおいしそうなレシピが回ってくることがあり、そういうのをときどき試してはいた。

そんな中、新型コロナウイルスの流行で外食ができない状況が生まれ、おうちご飯を充実させるため、あるいは外出自粛中の趣味として、自分で料理をする背景が生まれてきた。実際自分に限らずコロナ下では料理やお菓子作りは流行って(?)いるようだ。

誰もが魅入るペペロンチーノ解説

しかし上記はあくまでも背景であって僕がパスタを作り始めた直接のキッカケではない。

直接のキッカケは、YouTubeだ。

どういう経緯で辿り着いたのかはもはや覚えていないが、下のCOCOCOROチャンネルのペペロンチーノ動画を見て、パスタというのはとても面白いものだと思った。

この動画では、実際にBARを営むプロの料理人(ご本人によればクッキングエンターテイナー)の大西さんがパスタの基本たるペペロンチーノの作り方をこれでもかと細かく説明している。2020年5月現在、約190万回再生されている超人気動画だ。

この動画には不思議な魅力と中毒性があり、僕はもう10回以上は繰り返し見ている。これをお読みの方も是非見てみてほしい。

特に僕の興味を引いたのは料理の「なぜ」が詳しく解説されていることだ。

例えばペペロンチーの調理過程ではまずオリーブオイルとニンニクを冷たい状態のフライパンに入れ、弱火でじっくりと過熱していく。これだけレシピ本に書かれていたら、まぁ文字通りニンニクを切って油で熱するのだなと、特に意識を向けることもなく通り抜けてしまいそうな点だ。

しかし大西シェフによれば、ニンニクの切り方ひとつとっても、やり方を変えれば味や香りが変わる。皮をとって潰すだけの作り方もあれば、みじん切りにする方法もある。大西シェフの作り方では半分をスライスに、半分はみじん切りにする。それはスライスでは香りが出やすく、みじん切りは味を感じやすいという特性の違いがあり、その両方を活かしたいからだ。

またオリーブオイルにも色々な種類がある。エクストラバージンオイルは香り高いが、良いバージンオイルは苦みやクセが強い場合がある。ピュアオリーブオイルの方がさらっと仕上がる。

そしてそれらを熱するときに何故冷たい状態から徐々に加熱していくのかというと、徐々にニンニクが温まっていく過程でニンニクの香りがオイルに移っていくからだ。熱々のところにニンニクを入れると味や香りが出る前に焦げてマズくなってしまう。

ニンニクを入れるタイミングにしても、まずはスライスのニンニクを入れ、ある程度火が通ったところでみじん切りのニンニクを入れる、というようにタイミングを分ける。これはみじん切りの方が体積に対する表面積が大きくて火が通りやすく、一緒に入れると先に焦げてしまうからだ。

ここまで書いてきたのは動画のネタバレというほどでもない。ほんの一部だ。僕が大西シェフの解説を引用して言いたいのは、動画の中ではこのように「何故こうした調理工程をとるのか、違うやり方をしたらどうなるのか」という理屈がこれでもかと解説されているということだ。

元来理屈っぽい性格なのでこのように細かく解説してもらえると「ふむふむ、そういうことだったのか」「実際にやってみると本当にそうなるのかな?」と興味が湧いてくる。

料理は科学

そこから、動画の真似事を始めてみた。

別においしいペペロンチーノが食べたいわけではない。「大西さんの言うとおりにやったら本当にそうなるのか?」という、科学実験にも似た心持ちだ。

実際、大西シェフの決め台詞は「料理は科学」だ。工程には科学的な理由があり、同じやり方を辿ることで誰もがそれを再現できる。

家のフライパンにオリーブオイルをたらし、ニンニクを入れて熱していくとたしかにシュワシュワと湧いて香りがたってくる。

「あー、いま、動画で見たようにオリーブオイルに香りが移っているんだな」と実感する瞬間だ。これだけでも楽しい。

もちろんすぐにうまくいったわけではない。しかし料理が科学である以上、失敗もひとつのデータだ。このようにやればこういう結果が得られる、というデータが得られるだけでも意味がある。次は条件を変えてやってみたらどうなるか、と実験を重ねていくうちに工程と結果の関連性が掴めてくる(もちろんペペロンチーノは何度も作った)。

僕はこれまで、素材を切ったりフライパンで焼いたりするのは、それが料理というもののようだし、火を通さないと生の食材は食べられないから仕方なくやるような気がしていた。より正確にはその意味を考えようともしていなかった。食事のために仕方なくやっていただけだ。

しかし解説を聞いてみると、本当に色々な背景や理由がある。そう思うと油をひく量ひとつ、火加減ひとつ、素材の切り方ひとつをとってもどれも重要で、調理の工程そのものが面白いと思うようになった。

肉を焼く場合であれば、ただ赤い部分がなくなって火が通ればいいというわけではない。加熱されてメイラード反応(COCOCOROチャンネル視聴者が大好きなワード)が起きることで風味が良くなるし、かといって火を通しすぎると焦げたり硬くなったりする。そのちょうどいいところを探りたいし、調味料の味も染み込ませたい。色々考えることがあるものだ。そういう意味では退屈しない。特にパスタは工程がシンプルなため食材や調理法の違いによる結果の差が実感しやすいように思う。

そうしてどんどんパスタ作りにのめりこんでいった。

現在はだいたい1日に1~2時間はYouTubeで料理の動画を見て、この調理工程をやってみたい、どんな出来上がりになるのか確認してみたい、と思った料理(パスタに限らず)を実際に作ってみるという日々を送っている。ちなみに見ているうちのほとんどは、COCOCOROチャンネルかChef Ropiaさんのチャンネルだ。Ropiaさんのチャンネルもお洒落でカッコイイので全員見るように。

できあがったパスタたち

完全に自己満足だが、実際に作ったパスタの写真を載せてみよう。もちろん自分は完全な初心者であり食材も調理道具も特に高いものを揃えているわけでもなく、普通の素人が「料理作ったから写真撮ってみたー(^^)」としているだけで、有用な情報は何もない。

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まずは件のペペロンチーノ。写真的にはそれなりにおいしそうなのではないかと思うが、個人的には、ペペロンチーノは食べて「めっちゃうまい!」というものではないような気がしている。これは前述の動画の中でも率直に述べられていて、そういう「教条主義的でない」点もCOCOCOROチャンネルの好きなところだ。

実は、ペペロンチーノは何度もトライしたがいまだにうまく「いわゆる乳化」(オイルと水分が混ざり合うこと)ができたことがない。パスタ界において乳化をめぐる議論は大変に激しいものがありこれをネットで見ているだけで1時間や2時間は簡単に溶けてしまうのだが、それはひとまず置いておこう。

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比較的初期に挑戦した、ボンゴレ・ビアンコ。自分で活アサリを調理するとこんなにも香り高くおいしいのかと大変おどろいた。

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カルボナーラ。このあたりはもう「見た目がエロい」という領域に突入してくる。カルボナーラだけは元々(食べる側として)好きでたまに作っていたが、パスタ全般の理論を勉強したことでクオリティが一段上がったように感じている。

ちなみにカルボナーラの理屈で面白いのは「クリーム使う・使わない論争」「ベーコンは本場ではない論争」や、いかに卵黄を炒り卵にせずに調理するかだ。

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ボロネーゼ。これは「ソフリットを作る」「挽肉を赤ワインでぐつぐつ煮込む」という調理をしてみたくて作った。時間はかかるがそれ相応においしい。

ちなみにボロネーゼの上にかかっているチーズはよくある緑の筒の粉チーズではなく、固形のチーズを削ったものだ。チーズを削る調理器具を持っていなかったので、パスタ作りのためにわざわざ買ってみた(言い訳をするわけではないがニンニクや生姜もおろせるので他にも普段使いできる)。敬愛するYouTuberの皆様が、ああいう粉チーズは味が薄く、固形のチーズを削ると味も香りも段違いだと口を揃えて言うので「本当にそうなのか?」とどうしても確認したくなったからだ。結果を言うと実はそこまで劇的な違いを感じていないのだが、これはチーズ自体がイタリアンのレシピでよく使用されているパルミジャーノ・レッジャーノではなくまずは優しい味のグラナ・パダーノを試してみたから、というところもあるかもしれない。粉なのか固形なのか、固形なら何の種類なのか、ここでも議論は奥が深いのだ。

定年おやじの蕎麦打ち

以上、自分がどんな風にパスタにハマり、どんなパスタライフを送っているのかについて頼まれてもいないのに綴ってきた。

いささかジェンダー的に問題のある物言いになることを恐れずに言えば、思えば男は急にこうしたことに凝りがちだ。定年退職したおやじがエネルギーの持って行き場をなくして急に蕎麦打ちをはじめ、近所に配りだしたりするのは象徴的かもしれない。自分のパスタ作りもそのようなものなのだろう。無駄に細部にこだわり、蘊蓄を語る、よくあるやつだ。

noteというコンテンツにする都合上料理の面白さに目覚めた的なことを大仰に書いたが、実際のところ自分の中では一過性のマイブームあるいは趣味として割り切っている。元々味覚が繊細なタイプでも全くなく、カップ麺だろうが冷凍食品だろうがコンビニ弁当だろうがおいしく食べるし、怠惰なのが悪いことだとも思わない。ほとぼりが冷めたらそうした生活に戻るのだろう。

どうせSTAY HOME中なのだし、いっときのマイブームだろうがなんだろうが、やらないよりは楽しんだ方が人生得だ。やらなくなったときにそのことを嘆く必要もない(はじめからやらない場合に比べてマイナスは何もない)。

COCOCOROチャンネルではポロっと「料理なんかより人間性が大事」という話が出ることがあるが、全くその通りだろう。料理に関してネット上の議論を見だすと色々思うところがあるが、問題なのはちょっと趣味として料理をやってみただけでわかったような態度を取ったり、日々の家事として作っている方の料理を見下したりすることだ。そんなことのために利用されたのでは料理のための科学も立つ瀬がない。

大事なことは様々な人々がお互いを尊重しあって楽しく生きることなのであって、ニンニクの香りをオリーブオイルに移すことではないし、オイルと茹で汁を乳化させることでもない。逆に言えば楽しい日々あっての楽しい料理だ。料理の蘊蓄にこだわりすぎて批評モンスターになるのは、ニンニクを加熱しすぎて焦がすくらいにマズい。

ニンニクを焦がさない程度の適度な温度感を持ちながら、飽きるまでのパスタライフを楽しんでいきたいと思う。

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