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『宿命のブラッドバーン』アリスという女について②

続きです。
前回はこちら↓


(以下、作品の内容に細かく触れられています)





■アリスと向き合う

 実際に稽古が始まって動いてみると、思った以上に苦戦しました。私の表現力の乏しさや、台詞覚えの悪さも相まってましたが、台詞の細かいニュアンスの解釈や言い方が、演出の意図とずれていたのです。
 そして、私自身とアリスとの決定的な違いを、この台詞でまざまざと痛感することになります。

「アリスは知っていたのか?」
「ええ、あなたたちが仲間になる少し前にね。そういう意味では私も同罪だけど……あなたたちも真剣だったし、水を差したくなくて」

 ヴァンパイアの弱点とされていたものが実はデマだと判明し、ハンター仲間のカーティス、シャロンから問い詰められるシーン。リーダーであるウォーレンが素直に謝罪した後、アリスにもその矛先が向くわけですが。
 当初、私も冷たい言い方でありつつも2人に寄り添い謝罪するようなニュアンスでこの台詞を発していましたが、それは全くの解釈違いで。
「この場でのアリスはあくまでも中立で傍観者的な立場」という演出がつけられました。
 その瞬間、私はアリスに対して「あ、こいつ嫌いだわ」と感じました。自分が番長であるかのように振る舞いながら、肝心のところで責任を放棄して他人に押し付ける。過去に接してきた中での嫌いな人間の一人が、まさにそういうタイプでした。ただ、嫌いだろうが何だろうが稽古は進むので、嫌いな面に関しては深く追求せず、キャラの参考にしている姐御肌の知人の意識と最初に設定したテーマを最低限忘れないようにして稽古を続けました。

 公演が終わった今、冷静になって改めて「アリスのことは好きか?」と訊かれても、おそらく「好きではない」という答えになります。「嫌い」ではなく「好きではない」という意識に変わったのは、おそらくアリスに見られる狡猾さ、欲深さが、他人には見せないだけで私の中にもある、とおぼろげながらも認識できたからだろうと思います。
 ちなみに、アリス自身は自分のことが好きというか、むしろそれが普通で当たり前(嫌いとか言ってたら生きてられないでしょ)、という感じだと思います。

■なぜ生きる?

 もう1点、アリスとの違いを感じていたのは「命」に対する意識です。先述した通り、アリスの目的は「永遠の命」を得ることですが、逆に私は「分相応な命の長さで十分」という考えなので、

「全人類は寿命のために人殺しをする、そういう生き物だ。ではもしも、永遠の命が手に入るかもしれないとしたら?…なあ、カーティス、おかしいか?果たして俺はおかしいのか?」

 正直、ウォーレンのこの台詞もあまりピンときませんでした(※とはいえ、演じられていた小栗さんの雰囲気、言い方でグサグサ感じるものはありましたが)。「永遠の命を授けよう」と言われても即「結構です」と断ると思います。

 ではどうする?永遠の命を求めるアリスをどう演じればいい?悩み抜いた先で思い浮かんだのが、「アリスは永遠の命を得てどうこうしたい、ということはあまり考えてなくて、ただ無様な死に方をしたくないだけなのでは?」ということでした。もしかしたら脚本の意図ではないかもしれませんが、この考えにより私自身はかなり動きやすくなり、アリスの過去の空想もしやすくなりました。


 彼女の過去の詳細(勝手な空想)に関しては、次回記します。

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