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2023年の北海道コンサドーレ札幌に期待すること

序~今期の札幌は降格候補

 早いもので、Jリーグの開幕がこの週末に迫ってきた。22年のカタール🇶🇦W杯が、11月から12月にかけて開催されるという変則日程の恩恵で、Jリーグが11月初旬に閉幕したことによって、そのあとでタイ遠征を行ったとはいっても数週間長く休養期間があったことが、遠隔地を本拠とし、尚且つ極めて消耗の多いプレイスタイルを有する我が札幌にとって、助けになっていることを願いたい。

 先期の札幌は、8月までの26試合でわずか6勝で勝点は28、試合数≒勝点数という状態で、J1残留圏と残留圏の境界水域を漂っていた。それが、9月に入ってからの8試合でなんと5勝、一気に勝点17を積み増しして33節終了時に残留を確定させ、最終的には11勝12分11敗、勝敗を五分にまで戻して10位でリーグを終えた。良質なサッカーで清明な風をリーグに吹かせ、二度の対戦で二度とも完敗を喫した鳥栖をもいつの間にか追い越し、チームの予算規模に反してしっかりと順位表の真ん中の位置を占めたのだ。1試合あたりの勝点は約1.3と先期並みだが、戦力が整わない状況下であったことを考慮すれば十分に評価できる。そして何より、終盤8試合での巻き返しぶりが、試合内容の鮮烈さも含めて劇的であったことは、改めて記す必要はないだろう。

 さて、そんな先期を終えての今期だが、例によって札幌はJ2降格候補として戦い、J1残留を勝ち取ることが第一の優先的なミッションとなる。むしろ、戦力面を考慮すれば、目標はそれ以上でも以下でもない、とさえ言えるかもしれない。何せ、興梠、シャビエル、高嶺という、チーム内で高いクオリティを持つ選手の三傑が退団しているのだから。

 興梠について言えば、ローン加入だったこともあって、浦和への復帰は前提であったはずだ。金健熙という後釜にも、ギリギリ目処をつけることができている。シャビエルにしても、年俸の高さを考慮すれば、長期に渡って抱えることは現実的ではなかっただろう。戦術面での影響の大きさを考慮すれば、最もシビアな課題を突きつけることになったのは、彼らでなくむしろ高嶺の退団だ。

 彼は、札幌が実践せんとする戦術的アクションにおいて多種のタスクをこなす、文字通りの屋台骨だった。GKからのパスを受け、敵からのアプローチにも屈せず単独でボールを運び、そして左足からの丁寧なパスで前線にボールを渡す。そのボールが敵に渡れば、持ち前の対人能力でマーカーを封殺してもみせる。製造業を営む企業で、一人の社員が、物流網を構築し、その物流網で自身がトラックのハンドルを握って客先まで商品を運び、その商品の組み立てや据え付けまでも行い、さらにはアフターサービスまでを一人でこなせるだろうか。同じ人間とは到底思えない。実は「ウルトラマン」のような地球外生命体なのか、あるいは人間だとしても「新機動戦記ガンダムW」のヒイロ・ユイのような、特殊なミッションの遂行のために専門の訓練をされた人間なのか、と疑いすらするレベルである。

 在道メディアでは戦力が「アップ」したと評する向きもあるようだが、退団した先期の主力3名の存在の大きさ考慮すれば、いくぶん楽観的すぎる見方であるように思う。以下、上記の通りダウンしたと見做すことが妥当な戦力に鑑みて、今期の札幌に期待することを述べてみたい。

①馬場の早期戦力化による田中駿の中盤シフト

 高嶺は既報の通り柏に引き抜かれたのだが、そのために必要な違約金は、一部報道によれば一億五千万円「以上」なのだそうだ。最低でも一億五千万円ということは、札幌に在籍した3期の年俸と、新たに東京Vから獲得された馬場晴也の移籍金くらいを十分に賄えていることだろう。

 馬場のポジションは、東京Vでのポジション歴を考慮すれば、右CB、あるいはセントラルMFと考えるのが自然だ。新加入の選手が直ちに上の序列に食い込むことは、特にペトロヴィッチ監督の体制下では考えにくいが、遠からずスタメン争いに絡んでくるだろう。というか、札幌にとっては安くない違約金を払っているのだから、そうでなくては困るというものだ。そして札幌で価値を高め、1億円以上の選手になってもらいたい。そして、馬場のスタメン定着が成ったときに、待望久しい田中駿の中盤起用が、いよいよ現実味を帯びてくる。

 そもそも、札幌は駒井・深井というCMFのレギュラークラス2名を先期の終盤に負傷で失っている。彼らの復帰時期が読めないことを踏まえると、なおのこと彼の中盤中央での起用は理にかなう。そして、それによる最大のメリットは、彼のパス能力を、ビルドアップの初期段階、つまり高嶺が先期担っていたポイントで活かせることにある。

 新加入の小林は、記載上のプロフィールこそ高嶺と同様に「左利きのCMF」ではあるものの、よりアタッカー寄りの特徴を持っており、ペトロヴィッチ監督の手法におけるCMF2名のうち「下がる」タスクを担う側として使うのは〜青木をそうするのと同様に〜非常に勿体ない。そうすると、田中駿か、あるいは宮澤が「下がる」側、すなわち、ポイントガードとしてボール運びの第一段階での運び役となるのではないだろうか(田中駿をCMFでなく、3CB中央に配した場合でも同様の効果が期待できる)。もちろん、高嶺と違って田中駿は右利きなので、下がったとしても右側で、右側からの運びが主になる可能性は十分にあるが。

 田中駿はメンバー構成上の問題もあって、先期まではほぼ右CBに固定されていた。右SBへの変位が前提であるこのポジションでは、彼がボールに触れるのは一工程あとになるうえ、その状態でのパスの選択肢は右外に立っているぶん、当然限られる。彼が右外から差し込むパスの質が戦術上非常に有効だったことは確かだが、馬場がこのポジションで使えるようになれば、より多くのオプションがある中央寄りでのプレイ機会を田中に与えることができる。それは、少なくとも初期のボール運びの質の維持という点に限れば、高嶺の穴を埋めることになるのではなかろうか。

②二列目担当の戦力拡充による逆足WBの恒常化

 前線に目を移すと、同じ左利きとはいえ浅野雄也によりシャビエルという天才アタッカーの「穴が埋まる」とは思われない。とはいえ、先期まで在籍した広島でのプレイぶりを見れば、シャビエルがなかなかできなかった、周囲に多くいる味方とのスペースのシェアについては、浅野はより早く体得できる期待が持てる。何より、プレッシングも労を惜しまずにこなしてくれるはずだ。小柏も足がガラス製とくれば、馬場と同様に今すぐとはいきそうにないが、彼の存在は貴重になることだろう。

 ワントップは金で間違いなく、二列目の左は札幌随一のボールコントロール力を備え、尚且つ対人守備も体得してきた青木が主に担うだろう。そうすると、残り一枠をこの浅野や小柏、ボールコントロールと即興的なボール扱いについていえば十分な質を持つスパチョークが争う構図が予想される。札幌では珍しい順大出身である大森も、大学でのポジションはCFが主だったが、二列目での適性を試されているようだ。小林も、駒井と深井が戻ってくれば、二列目要員になることは十分に考えられるし、本人の希望も期待とは異なりむしろこちらのようだ。そして、唯一のいかにもワントップ、というタイプである金にしても、興梠と比較するとポストプレイの信頼性という点ではいくぶん不安が残り、むしろ前を向いたときのアイディアの豊富さや落ち着きにこそ特徴がありそうで、彼もまた、二列目への適性がありそうに見える(これはこれで別の問題を予感させるのだが、後段に譲る)。

 そして、二列目のメンバーが充実してくれば、間接的に、WB要員を拡充させることができる。もちろん、一般的な順足でのそれでなく、ここ数シーズンですっかり定着した、逆足のWBだ。

 最後尾に4名、前線に5名。そしてその2つの結節部に「下がる」一方のCMFでなく他方の「残る」CMFを配置する特徴的な4−1−5(4-1-4-1)の配置を採る札幌のボール保持時の工程においては、WGに変位したWBのボールコントロール力が極めて重要な意味を持つ。「残る」CMF〜札幌の場合、多くは駒井だ〜はどの対戦相手も手段は様々に違えど消してくる。ボールを受けるために下がってくる二列目の選手には、マンツーマンでの捕捉が正解であることが公然知られるようになった。必然的に外回りになる前進工程の終着点として、WG化したWBは敵の迅速なアプローチも受けながらボールを扱わねばならないのだ。

 この段階でのボール逸を避けるべく、左に配される右利きのフェルナンデス、右に配される左利きの金子の存在は、先期以上に重要になることだろう。一般的に、彼らと対峙するSBの選手は右であれば右利き、左であれば左利きというように、順足の選手が配置される傾向にあるので、彼らの利き足から遠いところにボールを運びやすい逆足でのカットインが有効になるのは周知の通りだ。特に、高嶺が抜けた左側でこの役を担う前者についていえば、よりボールを「押しつけられる」機会が不可避的に増加することだろう。苦し紛れのグラウンダーパスかもしれないし、スピードのないサイドチェンジかもしれない。それらを経由して受けたボールを、しっかりと一度保持し、時間を作れることが必要だ。

 そして、二列目のメンバーが充実してくれば、その中からの何名かをWB要員とすることも可能になる。

 具体的には、二列目の左を担う青木を、左WBとして起用できる時間が増える。浅野も、左利きであり、尚且つ運動量があるということで、右WBとしても試されているようだ。個人的に台頭を期待していた田中宏武は、強化指定選手時代にしてもプロ契約選手となった先期にしても、ベンチに入りこそするものの出番は数えるほどで、後述するWBへの要求の高さに応えかねているのかもしれないが、プロ2年目、実質3年目となる今期はそうも言っていられまい。ポジション争いへ参入してもらわねば困るというものだ。学生時代は左外を担っていた右利きの選手だが、どちらのWBでも起用されているようだ。

 突発的なボール逸を減らすことが、守備の機会を減らすために有効であることは論を俟たず、その突発的なボール逸が、WBへのボールの「押し付け」が起きるタッチライン際で発生しやすいことも、その抑止に逆足配置が有効であることも同様だ。そのためのスタッフが充実することで、より試合運びそのものを、不要なドキドキのないものに改善できるのではないだろうか。

 尤も、そうなるためには、小林を除けばリーグの実績にはかなり乏しい前述のメンバーたちが、監督からの評価を勝ち得る必要がある。そもそも、敵SBに対するアプローチや、ときにその任を捨てての最後尾でのカバーリングなど、WBが担う仕事は特に守備面で多様であり、その仕事をこなすためには何度もシャトルランを繰り返すタフな体力が不可欠ときている。高嶺不在を前提とした前進工程の作り込みと並んで、WB起用に応えうる選手の拡充ぶりは、WBに求められる能力がますます増している現状(札幌のやり方が対戦相手から丸裸になっている状態)に照らせば、キャンプの充実度を測るための格好の物差しとなるだろう。

③中村の左CB争いへの本格参入

 さて、前述した札幌においてWBに求められる要素を、これまで最も強く体現していたのは、菅大輝だったと思う。しかし、先期終盤の起用のされ方からは、既に彼をWBとして起用するプランがないという可能性が示唆される。これはもちろん、菅のパフォーマンスが低いということではもちろんなく、逆足を利き足とする選手がファーストチョイスになっていったことに象徴されるように、このポジションに要求される要素が変わったということだ。

 その菅だが、先期以上に、これまで福森の牙城だった左CBでの起用が増えるだろう。シャトルランを何度でも繰り返せるタフな体力に対人強度、逆サイドのボールの状態に応じて適切なポジションを取れる戦術眼の高さなど、セーフティにプレイすることが望ましい時間帯において特に重宝される能力を彼は有している。左利きであることを踏まえても、このポジションでの起用は理にかなう。

 尤も、「新機動戦記ガンダムW~Endless Waltz~」でヒイロ・ユイ駆るウィングガンダムゼロが放つバスターライフルのように、コンマ二桁まで狂いがない左足からの精緻なパスを武器に、敵の守備網をブリュッセル大統領府の地下シェルターの如く破壊するという価値ある仕事でもって、ポジションを守り続けてきた福森も、肉体改造に取り組み(プロ生活で初めて、というのは些か驚きだが)ポジション奪取に余念がない。前向きにインターセプトを狙うときの強さやヘディングにこそ不足はないものの、背走しているときのあからさまなスピードの不足や、サイドに吊り出された状態でドリブラーと対峙しているときの脆さは周知だった。これらの課題が少しでも改善されれば、高嶺という悪路にも強いトラックを失った札幌にあって、彼の重要度が再度見直される可能性は十分にあるだろう。

 そして、先期より漸く戦力として頭数に入り始めたアカデミー育ちの中村桐耶も、この左CBのポジションを狙うひとりだ。

 U18時代に務めていたCFからCBにコンバートされた、ホンダFCへのローン移籍歴を持つこの22歳も、菅・福森と同様に左利きである。そして、彼らにない特徴として、初速の速さとストライドの大きさが挙げられる。これらが相まって、一歩の距離を出すことができるドリブルは、彼をライバルと差別化する貴重な要素となっている。これが最も活きたのが、負傷者続出の危機的状況にあった先期第14節の磐田戦であろう。尤も、守備を主任務とするポジションにあって、むしろその守備の局面でその速さと高さが活きるシーンは少ないのが現状だ。私見では、ボールがどちらにも支配されていないエアポケットのような瞬間に、自身がマークすべき相手を決めるまでに時間をかけているように見えることがあるのが気になるところ。まだまだ発展途上の選手と評するのが妥当だろう。

 ただ、それゆえに彼の成長幅の大小はそのままチーム力の伸びしろとなる。高嶺ほどテクニカルではなくとも、その一歩が大きいドリブルで多少強引に敵のプレス網から抜け出すプレイを確実なレパートリーに加えられれば、敵の守備組織をより直接的に壊す機会を増やすことができるだろう。福森のロングキックは精緻だが、滞空時間の長いボールになることもある。ふわりと浮いたボールが逆サイドにまで到達するうちに、敵が守備組織を整えてしまう…何度も見てきた光景だ。

 また、大柄で左利き、一歩の大きさがあるとなれば、先期も数度試された左WBでの起用も選択肢に入るだろう。ボール運びを安定させる効能がある逆足WBと異なり、順足WBはよりオープンな展開で直線的にゴールを狙う場合のオプションとなるだろうが、左サイドの深いところへの到達の早さと高さで、サイドチェンジの受け手としても働けるかもしれない。右サイドからのセンタリングに対して、ストライカー然として競り合うことにも期待してもよいだろう。

 対人能力という非保持時の安定度を優先するなら菅、パスの精緻さというボール保持時の敵殺傷力への貢献度を優先するなら福森が、それぞれ優先されることになるはずだ。もとより、CBの選手のベンチ入り枠は少なく設定されているペトロヴィッチ体制下の札幌にあって、この2名からなる争いを制するのは簡単ではない。しかし、前述の通り、未だ全容を見せていない彼の能力の開花は、少しずつハイクオリティの選手を削り取られている札幌において、非常に貴重な伸びしろなのだ。田中宏と同様、チームに下からの突き上げをもたらすことが現実的に求められる存在である。

④不安はボールの落ち着きどころ

 以上は、チームの成長に関連して前向きに期待できるポイントだ。ただ、試合とは当たり前だが相手がいるものだ。敵との相対的な力関係によって、上記してきたポイントが強みになる以前の問題が生じる危険性も拭えない。そのひとつが、これまでチャナティップ、あるいは興梠という選手が担ってきた、前線でのボールの落ち着きどころというタスクを、誰が担えるのか?だ。

 当然、まず期待されるのは金である。しかし、金は先期32節の福岡戦でグローリに完封されており、敵を背負うプレイに大きな強みのある選手ではないように思われた(興梠が比較対象となるのはあまりに気の毒だが)。前述のように、そのぶん、敵の視野から消える動きや、敵の背後を狙う動き、前向きでボールを持ったときのアイディアや落ち着きには大きな強みがある。しかし、後方の4名と最前線の5名とが大きく距離を取る札幌の特殊な手法においては、この5名のボール逸が即座に被速攻の危機となる。その構造的な問題は、これまで、ハイクオリティの個人により文字通り「カバー」されてきた。先々期まではチャナティップにジェイ・ボスロイドがそれであり、先期は興梠だった(シャビエルは意外にも、この役よりもむしろアタッカーとして開花した)。彼にこの仕事を委ねられるだろうか。今期、何よりも先に確認されるべき点は、これだ。私の目が節穴で、上記の懸念が杞憂に終わることを願ってやまない。

 ポジションこそ異なるが、小林にも期待ができるだろう。大森も、大学時代はポストワークを飯の種としていた選手なので、個人的には期待している。ただ、その成否は当然ながら未知数だ。周知の通り、前線でのボール逸が被速攻に直結する札幌のやり方においては、ボールの落ち着きどころは多ければ多いほどよい。文字通りの生命線なのだ。それが大外にあるのはオプションとしては有効だが、大外に「しかない」のはリスクでしかない。「被速攻はむしろ自分たちの見せ場」という趣旨のコメントを残している岡村の存在は頼もしいが、それはそれ。チームとしてより確実に勝点を取っていくには、ワクワクが多く、ドキドキが少ないほどよいのだ。

 もし、最前線でのボールの保持が安定しない場合、彼らを前向きにプレイさせられるように、後方からのボール出しをより安定させる必要がある。その手段としては、例えば先期の3節福岡戦で見られた3CBシステムの維持、というか、福森の立ち位置を内側にして豊富なパスオプションを与えることや、先期9節のFC東京戦のように、敵の布陣との兼ね合い(東京が4-3-3だった)もあるだろうが青木を2トップ後方の所謂トップ下に配し、より横方向のポジション自由度を与えることもひとつだろう。とにかく、ボールを失わずにプレイできる個人の能力を、適切なポジションで活かすことが必要だ。

先期第3節・アウェイ福岡戦の後半に起きていた現象。危険な福森を内側に寄せることで敵の制約が増えた
先期第9節FC東京戦。「トップ下」青木に広めのスペースがあった

 …こうして書き連ねてみると、冒頭での述べた高嶺の不在が、あちこちに影響を与えていることがよくわかる。

 マンツーマンでマーク担当を決めてくる敵でも、ゾーンで2トップがまずは中央を閉めてから追い込みをかけてくる敵でも、彼のボール運びは安定していた。敵の選手が右側にいても、しっかりと彼をブロックしながら、ボールを利き足の左側に置いて身体で隠し、前方に運び出すことができていた。横スライドしてきた敵のCMFがグンとスピードを上げてアプローチしてきたら、今度は鮮やかなルーレットまで披露する才覚があった。キックの精度は初期こそ物足りなかったが、今では申し分ない水準だ。彼の近くでプレイする左WBの選手と左の二列目の選手は楽ができていただろう。彼からのサイドチェンジを受ける機会の多かった右WBの金子/フェルナンデスも、きっと同じだ。前線の選手に高い位置を維持し続けられれば、敵の後衛は疲弊する。そして、前線でうっかりが生じても、彼と岡村は屡々驚異的なパワーと瞬発力でボールを再回収していたものだ。高嶺はこれまで挙げてきた①と④に直結する仕事をし、尚且つ②にも影響を与えていたことになる。③の選手が不在時には彼らのポジションに立つこともあった。何度でも繰り返すが、やはり彼は超人的な選手だった。彼にとっていくぶん不幸なのは、日本でも遠藤航を筆頭としたデュエル・マスターが特に横浜FMから次々と現れていることだろうか。

 とにかく、組織の根幹を担っていた選手が抜けたという現実を受け止め、そのダメージを個人でなく組織で補いながら、前に進んでいかねばならない。中央での前進の工程においては田中と小林が、サイドでの前進工程においては質量ともに充実したと思われるWBが、それを助けてくれることを期待しよう。そして前線では、未知数の存在に賭けるのは不安とはいえ、金と大森が何をできるのかを見ていきたい。そして、その不安の雲が、カラッと晴れ上がってくれたなら、そのときは、チームはきっと新しい、よりソリッドな姿になっているはずだ。

 最後に、以上を踏まえて、今期の理想的なメンバーを図示して、本稿を閉じることとする。

 これは、今週末の開幕節でなく、どちらかというとシーズンが半ばを過ぎた成熟期に、こうなっていればよい、というニュアンスのものだ。そして、あまり各メディアによる取材記事は参照されていない、完全に個人の好みであることを付記しておく。




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