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遭難しかけて滑落しかけた日の実感。

昨日、滋賀県の霊仙山(りょうぜんざん)というカルスト地形が有名な山に登ってきたのですが、圧倒的な準備不足でコースアウトで遭難しかけ、その上に滑落しました。…と言っても3~4メートルではあるのですが、そのまま滑り落ちていたら、ごつい岩が密集する沢に転落するところで、間一髪助かりました。滑り落ちている間は、これが走馬灯なのかと家族の顔がよぎりました…という、本当にあった怖い話。

滑落後は足ががくがくと震え、頭は半分パニック。全身に10か所以上の打ち身・切り傷・擦り傷で満身創痍ではあったのですが、命は無事で手術が必要な損傷はなく、遭難することもなく、無事に一人で帰ることが出来ました。。

恥ずかしく愚かなこの出来事を公表するか迷ったのですが(あと登山に対するネガキャンになって欲しくないという気持ちも)、これが「無くて絶対に良かったけど、あっても良かった経験だった」と思える日が来ると信じて書くことにしました。良ければご笑覧ください。そして、低山だからといって登山計画を怠るような僕みたいな人間には決してならないでください!笑

朝4時に決まった計画無き登山

今思えば、不運と準備不足の両方が招いた結果だなと思うのですが(笑)。もともとは2連休を活用して、南アルプスの双六岳という山に行く予定でした。しかし2日目の天気予報がすぐれず、前日に日帰りで北アルプスの白山(岐阜・石川)に行くことに予定変更。ただそこも登れなくはないが微妙な天気であること、睡眠不足の中で片道4時間というソロドライブに不安が拭えず、当日の朝4時に更なる予定変更。寝ぼけた眼をこすりながら、片道2時間で行ける滋賀の霊仙山というマイナーな山に行くことにしました。

登山自体には慣れてきたものの、自ら運転して登山というのは初めて。いつもは電車やバスでの移動中に登山計画などを立てながら行くのですが(夏休みの宿題は最終日に追い込むタイプ)、運転中はもちろん出来ません。近くに2つの登山口があり、山頂を経由してぐるっと一周するようなルートであることは確認していたのですが、詳細は到着後に確認すればいいかと安易に考えていました。(この判断が一番の誤りだったと思います)

好調な滑り出し

いざ登山口近くの駐車場まで来ると、まさかの圏外。直近は整備されていた山ばかりを登っていたので完全に油断していました。今回は山小屋おろかトイレすらないマイナーなお山。登山口すら分からずにいたところ、ちょうど駐車場にもう一人登り始める方がいらっしゃり、運よくその人に付いていくことが出来ました。

お陰様で、前半は好調な滑り出しでした(滑落だけに…)。一合ごとに標識も立っており、安心しながら整備された道をぐんぐんと登っていくと、約2時間半で山頂に到着。天空庭園のようなカルストの台地が眼前に広がり、草や苔、土や空の色とのコントラストも綺麗で心が躍りました。石灰岩でできた岩々はどれもアートピースのようで、広大な山頂エリアも飽きずに散策を楽しむことが出来ました。

山頂からの景色。奥には琵琶湖も薄っすらと。

かすかに残る人の足跡を頼りに

エネルギーチャージも済ませ、いざ下山しようと思い立ち上がりました。この辺りから雲行きが怪しくなってくるのですが(笑)、下山方向の「今畑方面」という標識は見えたので、その方向に尾根沿いの道をぐんぐんとすすんでいきました。

しかし写真でも分かるように、カルスト台地は広大なゆえにルートが分かりづらい場所があり、特に僕が選んだ「落合→山頂→今畑」というルートは顕著でした。歩き出しは尾根沿いの整備された道があったのですが、しばらくすると自然に出来た道なのか、意図された登山道なのか区別が出来ない場面が出てきました(おそらくこの辺りからコースアウトしていた)。それでも微かに人の通ったような跡があったので、そこを辿っていくと、尾根から降りて沢の方に下っていくルートに。茂みの中に数センチほどの道を見つけては安心して歩き進めます。この辺りから気付けよとツッコミを入れたくなるのですが、中々気付いてくれません(笑)。

沢に入る前にあったクロガネモチの木。赤い実が今は彼岸花に見える

来る前に土砂崩れで通行止めになっていたルートがあったのは見ていたのですが、それは行き道の標識で見かけていたのでそれとは違うはずという確信はありました。整備のされていなさは感じつつも、きっとこの道で合っていると特に引き返すようなことはしませんでした。

往路で見かけた標識

山版SASUKEが続く沢沿い道

初めは人の通ったような跡もあったのですが、途中からそれも見つけられなくなり、いよいよ獣道のような見た目に。沢が途中まで水無川だったので、沢で窪んだ跡を道として順調に下っていたのですが、山自体がかなり急登なこともあり、途中僕の身長くらいある段差もありました。いつまでこんな山版SASUKEみたいな道が続くのだろうか…と思いながら歩いていました(ちょっと楽しかったのも事実)。この辺りから流石の自分もおかしいなと思ったのですが、他に登山道が見つけられなかったことと、大まかな方角は合っているから最悪どこかの道には合流出来るはずとどこか腹を括っていた自分もいて、歩き続けました。

30~40分ほど下ったところから沢が復活し、そこからは沢の脇道沿いを歩いていきました。間伐なのか土砂崩れなのかで倒れた木をくぐったり乗り越えたり、蜘蛛の巣やひっつき虫に何度もひっかかりしながら山版SAKUKEを続けていると、急に斜面がきつくなり、脇道自体も45°くらい傾いたような道にぶつかりました。

横を見ると、沢までも数メートルほどの高さが出ておりヒヤリ。流石にこれはまずいと思いつつも、そこまでは順調に来ていたこと、アドレナリンも出ていて何とかなるだろうと引き返すことは頭にありませんでした。斜面に出来るだけ身体を近く寄せ、木の根元や大き目の石に足をかけながら、一歩ずつ慎重に慎重に足を進めました。途中、ああここは目立った木も石も無くて滑りそうだなと思った場所に足をかけた瞬間、案の定滑落しました。

震える足とアドレナリン

距離としておそらく3~4メートル。時間としては5秒ほど。今思えば背中側で受け身を取れれば転倒しても滑ることはなかったかなと思うのですが、その余裕もなくうつ伏せの姿勢で滑り落ちていきました。下の沢には絶対に転落しないようにと、必死で掴めるものを探しては手を伸ばしたのですが何もなく。そのまま3~4メートルほど滑り落ちたのですが、何とか崖の一歩手前で止まって間一髪…。何かに引っかかったのか、滑落直後の記憶が無く分からないのですが、何とか一命をとりとめました…。

すぐに身体を確認し、大きなケガはないことを確認。ただ肘の擦り傷がズキズキするので、沢におりました。ケガのひどい腕と土にまみれたTシャツを洗い流しながら、放心状態で、足はガクガクと震えていました。もしここで沢まで落ちて骨折や大量出血を伴うケガでもしていたら、打ちどころが悪くそのまま動けなくなっていたら…と思うとぞっとします。

しかし幸いアドレナリンで身体は元気に動いてくれたので、一刻も早く下山したいという気持ちですぐにまた出発しました。その後も5~6メートルほどの滝をロッククライミング風に降りたり(ボルダリングやっておいてよかった)、高い段差を下る時に足場の岩が崩れ落ちたり、蜂についてこられたり…大小いくつものハプニングを乗り越えながら、降りていくと、見おぼえのある道が。

往路の序盤は沢沿いの道を歩いてきたのですが、まさしくそれが今私がおりてきた沢だったのです。確かに、登ってきたルートは途中から尾根沿いの道に切り替わっていたような…。とにかく、知っている道に合流出来た、無事に帰れる!という安心感と、自分の不甲斐なさとで、涙が溢れました。
(やはり合流直前にも登山道の目印のピンク色のテープが貼られている木もあり、もともとは登山道だったところが今は封鎖されていたのだと思います)

往路に見た沢

死の予感と生の実感

無事に山から帰ってきてからはずっとぼーっとしていました。こうして今お腹が空いて、ご飯を食べて、お昼寝をして、読書をして、書きたいことを書いて‥という日常すら奇跡のように感じられます。まだふわふわとしていて、何をしても生きて帰ってこれて良かったな~という気持ちだけが残ります。

大げさかもしれないけど、もしかしたら僕はあの場所で運悪く命を落としていた可能性もゼロではないと思います。そうして死を予感すればするほど、今呼吸をしていること、心臓が動いていることが当たり前ではないことの様に感じられます。死を予感するほどに、自らの生への実感が強まります。大きな病気やケガをしたことがある人は、似たような感覚を知っている方もいるのでしょうか。(さんまさんも「生きてるだけで丸儲け」という言葉を残していましたね)

だからと言って、命を粗末にしてはいけないよとか、そんな大きなことを唱えるつもりはありません。それでも、生きてさえいれば何とかなるんじゃないかなぁと今は思えます。人間生きていれば、大小色んなつらいこともありますが、つらい時に「なんでこうなってしまったんだろう」とその事実を悲観的に捉えるのではなく、「でもまあ生きてるし今はしんどいけど、元気になれる日を待とう」と思えるかどうか。私もこの愚かさと不運を自分の力に少しずつ変えて、また明日から始まる小さな日常を過ごしていきたいと思います。

P.S. 最後まで読んで下さりありがとうございます。もし登山への不安を煽るような気持ちにさせてしまったら申し訳ないです。が、事前の登山計画があれば、このようなことは起こらなかったと言い切れます!正式な復路には標識もあり、初心者の方でも安全に楽しめる山なので、機会があれば行ってみて下さいね。
参考:https://www.yamakei-online.com/yamanavi/yama.php?yama_id=708


私がおりてきた沢沿いの道
改めて冷静に見ると、絶対にこんな登山道はない(笑)


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