まわりさま

「そういやさ、まわりさまって覚えてる?」

同窓会で私にそう話しかけたのは、私の正面に座っていた中学の同級生のNさんでした。

「あったね、七不思議的な」
と、私の右隣のSさんが返しました。Sさんが座っていたのはちょうどテーブルの端っこで、壁にもたれかかりながら話していました。

SさんとNさんと私は中学ではいつも一緒に行動していたのですが、二人と私は高校で離れてしまい、会ったのは9年ぶりでした。

『まわりさま』を知らず困惑する私を見て、Sさんは親切に教えてくれました。

「K(私の名前の頭文字です)はたしか中学から転校してきたから知らないかもだけど、この地域には代々伝わる都市伝説があって。大人数で集まったときに一人、誰も知らない子が混じってることがあるの。それがまわりさま。」

「ああ、座敷童みたいですね。」

「そう。でもここからが重要で、まわりさまを見つけても指摘しちゃいけないの。」

「え、なんで」

「死ぬから」

「馬鹿な話だよね全く、死ぬとか」

Nさんは少し酔っ払ったように、早口でいいました。

Sさんも合わせて、
「そうそう、言った人が死ぬならどうやって今日まで語り継いでこれたんだろうね」
と笑いました。

私は気になって、じゃあ二人は誰にきいたのと問いましたが、小学校の頃友達の友達に聞いたと言われました。都市伝説なんてどこもこんなふうなんだなと、どこか自分の地域のものと比べて親近感を覚えました。

すると、Nさんが急に真剣な顔をして、口を開きました。

「でもね、私見たことあるよ。まわりさま。」

私たちの中学の修学旅行には、フィールドワーク、つまり自由行動の時間が設けられていました。一緒に移動するメンバーは3〜5人の事前に決められた班で、私と、Sさんと、Nさんと、もう一人の4人班で行動した気がします。

「その、もう一人がまわりさまだった訳よ」

「え、あれNの友達だと思ってた」

「私はSさんの友達だと」

私は続けた。
「でも、わりといい人でしたね。まわりさま。おもしろかったし、名前聞きわすれちゃったな~ってずっと思ってました。」

「たしかに、幽霊っぽくはなかったけど」

「てか、あたし名前聞いた気がするけどな」
とSさんがいいました。

「Tさん…じゃなかった?」

「ほんとですよ、さっきから人を幽霊みたいに」

TさんはSさんの正面に座っていました。

「雰囲気変わったね、気づかなかったよ」

「まあ私は最初から気づいてたけどな」

「なんか、いるのが当たり前すぎて逆に気づきませんでした」

「いやぁ、いいよ。それに久々にあったんだし、修学旅行の話の続きでもしようよ。」

私は、こんなこともあるんですねと話しかけようとしましたが、言葉が出てきませんでした。

目の前に座っている女の名前を、どうしても思い出せなかったのです。

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