ひとりの登下校とハンブレッダーズについて

僕の高校生の頃の記憶を探ったときに最初に思い出すのは、いつも登下校のときの記憶だ。


僕は決して高校でひとりだったわけではない。友達もたくさんいたし、部活にも入っていた。友達のことはみんな大好きだったし、演劇部では舞台監督をやったり、台本を書いたり、役者をやりながら、部員とも仲良くやっていたと思う。

しかし、同時に孤独も感じていた。


僕は、銀杏BOYZも、サンボマスターも、THE BLUE HEARTSも大好きだったし、

太宰治も、寺山修司も、森見登美彦も大好きだったし、

手塚治虫も、宮崎夏次系も、浅野いにおも大好きだった。

大好きだったけれど、周りの友達には言えなかった。

それは、過去に自分の大好きなものを伝えて貶された経験もあったし、同じ好きでも、その好きには大きな違いがあることが何度もあり、「好きなものをクラスメイトに伝えること」の意味を感じなくなってしまったからだ。

音楽や読書などのカルチャー系の趣味を持って、それに対して重めの愛情を持っていると、同じような愛情をカルチャーに注いでいない人と、心の深いところまで繋がっている気がしない。

と強く感じていた。


そしていつからか、初めは中学の同級生と通っていた学校もひとりで通うようになり、もともと視線恐怖症も持っていた僕は、人混みを避けて、遠回りをして登下校をしていた。家にも居場所の無かった僕は、朝早く家を出て2本早い電車に乗り、部活の無い日の帰りは、地域の図書館のような場所や、家の近所にある川をひたすら眺めながら時間を潰して遅い時間に帰った。

いつも、登下校中の僕の友達は、スマホに入れた幾何かのMP3ファイルたちと安物のイヤホンだった。


そんなある日、高校2年生のときに自分の部屋で視聴していたYoutubeで「ハンブレッダーズ」というバンドのミュージックビデオが関連動画に上がっていた。「DAY DREAM BEAT」というタイトルからは、いまいちどんな曲か想像できなかったし、特段興味を引いたわけではなかったが、特に見たい動画も無かった僕はなんとなくそのサムネイルに触れた。

爽やかなイントロと、なんだか閃光を彷彿とさせるような力強いギター。

「あ、結構好きな感じかも」

ふとそう思った。

しかし、そのメロディ以上に、僕の心を撃ち抜いたのは、ボーカル ムツムロアキラの紡ぐ、ポップでキャッチーな、わかりやすくて、それでいて記憶や心の中にある"身に覚え"の部分を掴んでくるような歌詞だった。​

幾千回、脳内でリピート再生
余すところなく丸暗記したミュージック
友情も努力も勝利も似合わない青春に
仕方がないから鳴らされた革命歌

人目につかない程度のヘッドバンキング
ドラムも叩けないくせに刻むビート
音漏れするかしないかの瀬戸際の音量で
心の中は暁色に染まった

DAY DREAM BEAT/作詞 ムツムロアキラ

少年ジャンプが大好きで、旧作から新作までかたっぱしから読んでいた。欠かさず毎週月曜日に買いに走っていた。でも、友情も、努力も、勝利も、自分の世界とは縁遠いものだった。

それでも、僕にはずっと、そのままで良いと言ってくれた音楽があった。

そしてこの曲もまた、始まって1分程度で、すでに「自分の歌」だと感じさせられた。

終業のベルで一目散、牢獄を抜け出した
一緒に帰る友達がいなくて良かったな
たった一秒のあの旋律が たった一行の言葉遊びが
揺蕩う僕の光になったんだ
自己啓発本みたいな歌に騙されんな
大人になればわかるなんて嘘だ
DAY DREAM BEAT/作詞 ムツムロアキラ

一緒に帰る友達がいなくて惨めだと思ったことはなかった。

身の回りに溢れる言葉たちは、すべて光のように思えていた。

登下校中に感じていたこと、いつも頭で考えていたことが、全部この曲の中にはあった。


この曲が公開されて、1か月後、ハンブレッダーズの初の全国流通盤であるアルバム「純異性交遊」が発売された。

この曲を初めて聴いたときに感じた、限りないピュアな愛情がそれに詰まっていたように思う。

そして僕は、それからすっかり、ハンブレッダーズとムツムロアキラの虜になった。

奇跡も愛も純情も 今更 信じらんないが
信じる僕でいたいから

おとぎ話も永遠も 今更 信じらんないが
嘘でもないと思うから

弱者の為の騒音を/作詞 ムツムロアキラ
(EP「イマジナリー・ノンフィクション」より)
子供ながらに涙した
ジュブナイルアニメーション
明け方まで考察した SF超大作
この先の人生に必要がないもの
心の奥がザラつくような一瞬を

時代遅れのガラクタで静寂をシャットアウト
たった一枚のディスクで真夜中をフライト
この先の人生に必要がないもの
心の奥がザラつくような一瞬を
ユースレスマシン/作詞 ムツムロアキラ
(アルバム「ユースレスマシン」より)

ハンブレッダーズのキャッチコピーは、「ネバーエンディング思春期」。

この数年の間で、メジャーデビューを果たしたり、ギターのエクスプロージョン吉野が脱退したりと、バンドとしていくつか大きな出来事もあった。

しかし、新しいCDを何度出しても、思春期のドキドキをたっぷり詰め込んだようなピュアさは、いつだって変わらない。

まるで、ハンブレッダーズは、何歳になってもわくわくするような話をできる、古い幼馴染のようにさえ感じる。


ハンブレッダーズは、2021年11月に「ギター」という新しいアルバムを出した。ハンブレッダーズの曲は、どれも素晴らしいのだが、本アルバムの楽曲はとんでもなく良い。

大好きなハンブレッダーズが、さらにパワーアップして戻ってきてくれたようなアルバムだ。

関連動画で偶然出会った歪な音楽
巻き戻してたらいつの間にか手放せなくなった
青春映画と対極の存在だった僕が
人混みの中でひとりになる為の秘密兵器

そいつは世界以外の全てを変えてしまった
巨大怪獣と闘わない僕のカラータイマー
逃げるが勝ちだと挿し込まれたアンビリカルケーブル
不特定多数に向けられた歌に興味はないよ
僕の感動とお前の「エモい」を同じにすんな

もう一度聴きたいからと遠回りして帰る
始まらずに終わる恋も
予測可能な未来図も
ただなんとなく消えたい夜も
歌詞カードを開けばマシになった

うるさい歌が終わるまでは
向かうところ敵なしだぜ
万年弱小帰宅部にも
逆転サヨナラ勝利は起こる

再生/作詞 ムツムロアキラ(アルバム「ギター」より)

リード曲の「再生」は、まるであの頃、銀杏BOYZに、サンボマスターに、そしてハンブレッダーズに出会った自分を歌ってくれているようだった。


そして、「ギター」の発売を記念し、全国ツアー「ギター!ギター!ギター!」が発表された。

2月27日の北海道公演のチケットはすでに取ってある。


きっと、あの頃の登下校を思い出すような、そんな特別なライブになるのではないだろうか。

ハンブレッダーズにライブハウスで再び会えるのを、待ち遠しく思う日々だ。








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