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押された背中

3月24日、雨空の中柚香光さんの退団公演が大劇場で千秋楽を迎えた。私は映画館でライブビューイングを観ていた。正直、ライブビューイングのチケットを取るか、ギリギリまで迷っていた。これを観てしまえば退団が現実になってしまう気がしていたのかもしれない。

退団公演「アルカンシェル〜パリに架かる虹〜」は大劇場で2回観劇できたので、今回が3回目。観劇とは違い、ジェンヌさんそれぞれの表情や動きがよくわかるのがライブビューイングのいいところだ。
柚香光さんを追いかけて10年。色々な役柄を観てきた。3番手時代はお芝居よりもショーが好きだった。「宝塚幻想曲」や「Melodia」の柚香さんのダンスは格好良く、楽しそうにのびのびと踊る姿が印象的だった。だが、2番手になった辺りから、お芝居にも魅力を感じるようになった。特に「ポーの一族」では家族とうまく行かず、エドガーに傾倒していくアランの苦悩を見事に演じていた。トップお披露目公演「はいからさんが通る」では、紅緒への愛おしさを滲ませた表情が印象的だ。
他にも様々な役を演じてきた彼女だが、今回の公演が最後だから存分に見てくれと言わんばかりに「今までで1番かっこいい柚香光」を見せてくれたように思う。

本公演が終わり、サヨナラ公演が始まる。今まで自分のことよりも他人を優先してきた彼女は、最後の手紙でもやはり水美舞斗さんや明日海りおさんなど、他人の名前を出し、感謝を綴っていた。
サヨナラ公演を万感の思いで観客が見送る中、退団の挨拶に。紋付袴ではなく、黒の燕尾服を選んだことが、彼女の男役としての矜持を伺わせた。
同期生からのお花は、音楽学校、そして花組時代と同期として切磋琢磨し、手紙にも名前が出てきた水美舞斗さんだった。お花渡しではあまり見ないが、2人で抱き合っている姿を見て、今までの絆が伺えた。(ライブビューイング会場全体が号泣していた)そして挨拶に。

明日海りおさんにあの日押してもらった背中の重みは今も忘れていません。そしてその重みは一緒に舞台に立つ仲間への忠誠心に変わりました。

彼女がどんな思いで舞台に立っていたのか。想像を超える苦労を乗り越えて、舞台が、宝塚が、花組が、男役が好きだという気持ちで青春全てを捧げて走ってきたのだろう。明日海りおという絶対的トップスターから受け取ったバトンをこの日、永久輝せあさんに繋いだ。

今まで感極まって泣いてしまうことが多かった彼女が、この日は最後まで泣かなかった。観客のキラキラした目を「絶景」と言い、「ぬかるみに足がはまり、進めないようなことがあった。でも、辿り着く場所がこんなにも幸せな景色なら、なんの悔いも残らない。」と彼女は言っていた。ずるい。そんなことをそんな笑顔で言われてしまったら、認めざるを得ない。柚香光さんは3月24日をもって宝塚大劇場を卒業した。もう二度と、男役柚香光が大劇場の舞台に立つことはない。

私たちは、ショーでこう歌っています。「この手を取るか取らないか、後悔はさせない」と。どんな状況であっても公演を観たいと思ってくださったお客様に、応援してくださる皆様に後悔はさせてはいけないと。一度繋いでいただいたお手をずっと繋いだままでいていただける花組であらねばならないと。私たちはこれからもずっとこの思いを胸にいっそう精進し、努めてまいります。どうか今後とも花組をよろしくお願いします。

「fashionable empire 挨拶より」

10年前、手を取って本当に良かった。応援できて幸せでした。15年間本当にお疲れ様でした。

退団のブーケはキングプロテア。花言葉は「王者の風格」。その類稀なる美貌と培った経験で、東京公演も全力で走り抜けてください。
彼女の宝塚生活の中で節目節目に現れる虹を、私もどこかで見られていたとしたら、こんなに幸せなことはない。退団のその日まで、応援しています。

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