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濱野靖一郎『「天下の大勢」の政治思想史』

昨年の夏頃にいただいていたのだが、すっかりご紹介が遅れてしまった。

頼山陽を専門とされる濱野さんが博論以後の課題を射程を広げて書かれたもの。


松平定信のイクメンとも言える子育て指南など、ニヤリとしてしまう指摘も見られる。
礼とリクルートスーツや制服の話など、濱野さんが学生や生徒と向き合うなかで工夫して編み出されたのであろう比喩もおもしろい。

後半では、木戸や伊藤博文ら、山陽の著作に親しんだ者たちの構想が述べられていて、こちらも興味深い。

個人的には、近代日本の思想史における頼山陽受容史でもあるのだが、山陽がだんだん読まれなくなっていく過程で、山陽みたいなことをいう人が登場してきたときの評価が、おそらくこれから大事なのだろうと思った。オリジナルが忘却された後の受容史の語り方というか。


しかし何より、読後一番に感じたのは、研究というものはこんなにも面白いものであり、それを読者に伝えることに全力を傾けようとする著者の熱意であった。

見習わなくてはな…と読了後しばらく経った今も書架の本書の背を見ながら感じているところである。実はしばらくかかりきりだった本の執筆のモチベーションを駆り立ててくれる本でもあった。
その本もようやく刊行される。濱野さんのような熱量を読者にちゃんと伝えられているかと自問する。

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