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書籍館のほんとうの開館日

2022年は一応150周年ということもあるので、人々の思い込みやネットの情報はなかなか間違っても直すのが難しいけれど、少しでも間違う人が減ればと願って書いておく。

国立国会図書館の前身である書籍館(しょじゃくかん)は、文部省によって明治5年、湯島の聖堂内に設置された。

ネット情報だけでなく、紙の辞書でも、4月2日を図書館開設記念日としているものがある。その理由は、日本で最初の近代図書館である「書籍館」が設置された日だと説明されているのである。でも、これは正しくない。なぜなら、書籍館の開館日は8月1日(旧暦)だからである。

証拠を出したい。国立国会図書館デジタルコレクションの『博物館圖畫并書籍館借覽規則等』に綴られている規則には、こんな風に出て来る。

以上、国立国会図書館デジタルコレクションより

明治5年6月の2枚目の画像の借覧規則のところに、朱印で「開館来ル八月朔日」と捺してある。朔日とは月の第一日。すなわち明治5年の8月1日が書籍館開館日である。

『帝国図書館沿革史草稿』(国立国会図書館デジタルコレクションより)

なお、書籍館の流れを汲む帝国図書館では、沿革史などで明治5年4月の創設と説明しているが、これは文部省博物局の書籍館設立の許可を得るための伺いに対して、作ってよい、という決裁がおりた日が4月28日であることによる。だから確かに4月に設置されたとはいえるが、いずれにせよ4月2日開設ないし開館としているのは正しくない。このことは国立国会図書館のホームページにもはっきり書いてある。

何でこんなことになっちゃってるのかというと、戦前の日本の図書館界で4月2日を図書館記念日にしようという動きがあったからで(ただしこの4月2日の選定理由は、書籍館開設と全く無関係)。このことについては少々長めの検討をしたことがあるので、あわせてご覧いただければ幸いである。

なお現在も、日本図書館協会は図書館記念日を制定しているが、そちらは図書館法が公布された4月30日なので、もし祝うのならこちらがよいと思う。

ついでに、この話は毎年図書館史の授業をするときの鉄板ネタになっている。紙の本でもインターネットの情報でも間違っている歴史の事実があって、それを正すためにも、図書館で複数の文献を比べて読み解くことが大事なのだと。だから図書館で学びや探求をサポートする司書の役割も大事なんだと。

「フェイクニュース」という言葉が登場するよりもはるかに昔から、図書館は世の中のフェイクに晒されてきたし、だからこそ何度でも何度でも正していかねばならないと今年も思っている。

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