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常昌院訪問の記

3月の終わり、静岡県藤枝市岡部町にある常昌院というお寺に伺った。

ここは兵隊寺とも言われ、本堂には日露戦争に出征して亡くなった方の霊を弔うために一体一体木製の人形が安置されている場所なのである。

今年度、卒論で「兵隊木像の成立と地域社会-静岡県藤枝市の常昌院を事例に-」という論文を書いた学生がおり、私は副査に入ったので初めてこのお寺のことを知った。
学生が執筆にあたって夏からこちらのお寺を訪問し、さらにご住職から史料をお借りしたので、その返却に行くという学生から誘われたのでついていくことにしたのだった。
古文書返却の旅である。

常昌院はJR焼津駅からバスで20分ほどの場所にある。

山辺の道というハイキングコースの途中にあたるようで、看板を見て何だろうと思った方が訪れ、兵隊人形を見て驚くことも多いようだった。

兵隊人形の顔は、生前の写真を元に作成して、一体一体顔が違っている。学生は卒論で一人一人の名前を図に起こしたり、出身地を調べたり、同寺の文書も活用してどのような経緯で木像が作られるに至ったかを解明していた。

入口に置かれている拝観者のノートには、先日卒業した4年生が、私の前任の先生と何年か前に巡検の授業で同寺を訪れた際の署名も残っていた。

常昌院訪問前に訪れた岡部の総合案内所でも、調査に協力いただいた方に学生が卒論を渡していて、その顔がまた何だかとても誇らしそうだったので、こちらまで嬉しくなってしまった。

学生の調査先に教員として同行するということ自体初めての経験だったが、お世話になった方に喜んでいただける地域研究というのは、確かに代えがたい価値があると感じた。
また、大学構内で個別面談しているときには見えなかった執筆の過程が見えてきたことで、なるほどこうやって学生は卒論を書いていくんだなあ、ということがわかって、私もこれからの指導に向けて得るところがあった。
来られてよかった。

***

学生とは最後に静岡駅で甘味をいただきながら、大学4年分の話をいくつか聞いた。初めて聞く話もあったり、同じ学年の仲間との結束の強さを改めて垣間見る瞬間もあった。

入学時、コロナで入学式も授業もなくなり、突然オンライン授業でと言われて、何とかこれを乗り越えてきた世代だけに、彼らの努力は、どうか報われて欲しいと思う。今期卒論を仕上げて出していった学生たちはみんな力があるので、しっかりやるんだろうなと思うけれど、4月からも体に気を付けてがんばってほしい。

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