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「中世武士団」展@国立歴史民俗博物館

鎌倉殿の13人の上総広常ロスが止みがたかった4月の下旬、中世武士についてもっと知りたい、と思い、大学に出る前に歴博に寄ってみた。

日本史専攻といっても、近代史をやっていると、なかなか他の時代の状況は学生時代に習った知識からアップデートされない部分がある。分野外の人には伝わらない場合があるが、過去の評価はそうそう変わらないだろうというのはあまり当たっていなくて、歴史学では判明している証拠を組み合わせて出来事と背景に関する解釈を積み重ねていく。

歴史は全部覚えてしまえばいいと言う人ほど、過去について見えていないもの、わかっていない事柄の巨大さに対してあまりピンとこないのかもしれない。歴史研究が進めば、いままで繋がったように見えていたパズルのピースの接続面に違和感が生まれ、もう一回ばらして嵌め直し、これがもっと本当の姿に近いのではないかと提案が出て来る。それを周りが(たとえば査読付き学会誌が)寄ってたかって妥当かどうか検証するわけである。歴博がやっている共同研究もまさしくそういうものだろう。

完全に咀嚼できたか心許ないのだけれど、随所で通説を覆す仕掛けがあったと思う。つまり、従来の武士はこういわれていたけれど、最近の研究ではこうです、と示す部分があった。

中世の武士について知りたいならまずこれ読んだ方がいいですよ、と中世史の人に石井進『中世武士団』を勧めてもらったことがある。

くしくも全く同じタイトルであり、石井先生は歴博の館長もされていたので、その後の成果を示すという意味合いもあるのかもしれない。

第一部では戦闘集団である武士の暴力性が絵巻物によって描かれる。近くの人が解説を読みながら「怖っ」と言っていたのが印象的であった。こういう武力は、従来説のように、荘園を守るために地元民が武装したみたいなところに武士の起源を求める説への、おそらく批判なんだろう。

また、鎌倉時代については御恩と奉公で、所領についても、「一所懸命」といいながら、例えば千葉氏の所領が九州にあるとか。知らなかったのでちょっと驚いた。

この辺、ちょっと以前の回の「鎌倉殿の13人」でも北条時政が(話はそれるが坂東彌十郎さんの時政、本当にハマり役だと思う)が、御家人たちをつなぎとめるのは要するに土地で、その場所は遠いか近いかはあんまり関係なくて、要するのコメの獲れ高なんだと泰時を諭していた話と通じるのかなとも思った。時代考証の人が良い仕事をされているのかもしれない。

さらには「いざ鎌倉」と言いながら、鎌倉に行くのを面倒くさがっていかない御家人がいたという話も驚いた。嫌な御家人は代理を立てたりするらしい。この辺もとても面白いと思った。

ところで、中世の武士は、暴力を司る戦闘集団ではあるけれど、それ自体は地域の支配の正統性を確立するものではないという。それで武士は、頑張って系図作るのだそうだが、ほかに、宗教を保護・提携するというのがあるとのことだった。

「武力だけで人を支配できるのか?」というポスターのメッセージの答えがここに関わってくる。民の心を掌握している宗教を保護することによって、武士は地域を支配する正統性の論理を確保し、また「殺生」に関わるものでありながら「撫民」を志す治者としての意識に芽生えていくのだという。なるほどこう考えると、鎌倉新仏教で様々な仏教者が活躍の舞台を得たことと武士の繋がりも見えて来るし、上総介広常誅殺のときに、これから3年以内にやることで「社を作る」が入ってたことがジワジワ効いてくるな・・・と思い再び広常ロスに陥ったのだった。

日本の前近代史については、一応概説で教えているので、最近の新しい説があるから展示見に行ってください、とアナウンスした。展示は5月8日まで。なおGW中は事前予約が必要な模様。


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