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多重人格商店街 「理想の死人」

◆NEFNEに関わる人たちによる自由連載《汽水域の人々》。雑貨屋&フリースペースのお店「NEFNE」で交わるひとびと。多様な執筆陣がリカバリーストーリーをはじめ、エッセイ、コラム、小説など好きなように書いています。


棺の中を覗く窓から見える顔に
私は生まれて初めて
恋をしました

それからというもの
私の遠距離恋愛の始まり
お星様になったあなたを想う日々
かみさまはよく
讃えるためにかみをひとをどうぶつを
星と星を結んで星座にしていたけれど
なんとなくわかるその気持ち
あなたが一つの星として
煌々と輝くのも言いけれど
百個ほどの星を結んで
空の半分があなただったらいいと
思うもの

小さな壺に入ったあなた
石のおうちができたあなた
盆にだけとはいわず
休日すべてあなたに捧げていいかしら
あなたが好きそうなお供えもの
私一生懸命選ぶわ
そして持って帰ってくるからね
私の土産話
退屈は嫌だものね
少しでも知ってもらえると嬉しいわ
私のこと

生前のあなたとは
他人でしかなく
顔は存じ上げているけれど
声をお聞きしたことはなかった
低めなお声でゆったりと話していたそうね
もう聞くことができないと涙する人々
いるけれど
私はきちんと聞いているわ
あなたの声を酸素にして
生きているわ
今ならどんな困難にも
負ける気がしないの!

赤くなってしまった頬
熱を持ってしまったこの頬を
心配してくれるよね
あなたは優しいもの
あなたの元お嫁さん
手をあげる人なのね
酷い人
あなたにまで手をあげていたんじゃないよね
私はわかっているから
あなたに否はないの
ううん、もう大丈夫
自分のことを差し置いて
私のために怒ってくれてありがとう
今までそんな人存在しなかったから
凄く嬉しい

あなたの石のおうちに行くのは
難しくなっちゃったけれど
私負けないわ
あなたの安らかな顔を思い出すだけで
この恋にバッドエンドはないと確信できる

血の通わない唇に
キスすればよかったと
今更思ってしまうけれど
今日は星型のチョコレートを作ったの
これをあなただと思ってキスするね
冷たいね
甘いね
私でとろけるあなた
可愛いね
あなたがこんな可愛い人だなんて
思わなかった
これからもあなたのこと
知っていけたら幸せね

三十も後半になって
星になったあなた
三十も後半になって
運命を知った私
あなたが棺の中にいて
私が棺の中のあなたを見つけて
これは運命
惹かれ合う私たち
今まで恋とは
馬鹿のお遊び
顔と身長と学歴と経済力のランキング戦
そう思っていた
私が誰かを選ぶことはなく
私を誰かが選ぶことはなかった
それもこれもあの日のためにあったのね
何もなくても私は選ばれて
骨しかないあなたを私は選んで
これは人類の理想の恋
馬鹿とは違うの私たちは
私たちは


【今回の執筆担当者】
青嵐柘榴(あおあらし・ざくろ)/20代。人生の3分の2ほど思い出しだくないけれど、今は人との縁に恵まれました。偏りがすごい。柘榴は誕生石の柘榴石から。尖ったものからネチネチ系、ほのぼの、祈りまで色々書きたいです。本作りたい!


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