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coro’s note from 夢見る書店 「追い続けた夢(下)」

◆NEFNEに関わる人たちによる自由連載《汽水域の人々》
雑貨屋&フリースペースのお店「NEFNE」で交わるひとびと。多様な執筆陣がリカバリーストーリーをはじめ、エッセイ、コラム、小説など好きなように書いています。

▼前回までのお話はこちら


 突然変化はやってきた。おばあちゃんが脳卒中で倒れて救急搬送されたのだ。

 なんとか一命は取り留めたが、上手く手が動かせないなど後遺症をもたらした。私は自分の「夢」のことなんてどうでも良くなって、おばあちゃんのそばで看病することに必死になった。両親がいない以上、親代わりをしてくれていたおばあちゃんが倒れたのだから、私はそっちの方が大事だった。



 そんなある日、おばあちゃんは私に蚊の鳴くような声で私にこんな言葉を投げかけてきた。
「東京いきんしゃい。夢叶えるのとがめたのは理由があっての。東京にはあんたに会いたいと言っておる本当の両親がおるんよ。わたしゃ、あんたにショックを与えたくなくて止めてたんよ。でも、わたしゃもう長くないけん、あんたの好きなようにしたら良い」


 本当の両親。衝撃だった。私を捨てた両親が東京にいて、ましてや今さら会いたいと言っているなんて。捨てたくせに。会いたくない。私の心は「上京」という言葉を破り捨てた。


「私は上京しない。おばあちゃんが大好きだから。ずっとそばにいるけん。夢なんてどうでも良いっちゃけ」 私は心からおばあちゃんの優しさにおばあちゃん孝行したいと思った。

「ありがとうね。あんたは優しいところが取り柄じゃけん、その気持ちを大事にするんよ。それと」

 おばあちゃんは病室の引き出しを開けるよう私に促して一枚の紙切れを私は手にした。
「今度、今治市でのど自慢があるんよ。もう申し込みは済んどるけん、受けてきて少しでも夢に近づきんしゃい」


 私は、そのチラシを強く握りしめて、「分かった」と力強く言い放った。



 その日の晩、おばあちゃんの容態が急変した。私が高校から帰って、病院に着いたときにはもう息を引き取ってしまっていた。私はおばあちゃんのそばで声を上げて泣いた。そして、決意した。

「絶対にアイドルになる!」


 そう思ってのど自慢に参加して、私は無事「優秀賞」を得ることが出来た。受賞したコメントを一言聞かれて、「おばあちゃん。やったよ! 私、絶対アイドルになるけんね! 夢叶えるけんね! 上から見とってね!」大きな声で答えた。



 そして、私は今、愛媛から出ることなくご当地アイドルとして活動している。
「夢」を叶えて、おばあちゃんのことを思いながら、東京には行かず地元を出ることも考えていない。おばあちゃんとの大切な思い出がいっぱい詰まったこの場所を離れることは出来なかった。


「ここでアイドルしよるけん。大好きなおばあちゃんに届くように、いつまでもここで歌って踊って色々な人に力を与えられるようなアイドルになるけんね」

 私はアイドルとしての道をおばあちゃんと一緒に歩んでいく。

(完)

【今回の執筆担当者】
兼高貴也/1988年12月14日大阪府門真市生まれ。高校時代にケータイ小説ブームの中、執筆活動を開始。関西外国語大学スペイン語学科を卒業。大学一年時、著書である長編小説『突然変異~mutation~』を執筆。同時期において精神疾患である「双極性障害Ⅱ型」を発病。大学卒業後、自宅療養の傍ら作品を数多く執筆。インターネットを介して作品を公表し続け、連載時には小説サイトのランキング上位を獲得するなどの経歴を持つ。その他、小説のみならずオーディオドラマの脚本・監督・マンガ原案の作成・ボーカロイド曲の作詞など様々な分野でマルチに活動。
闘病生活を送りながら、執筆をし続けることで同じように苦しむ読者に「勇気」と「希望」を与えることを目標にしながら、「出来ないことはない」と語り続けることが最大の夢である。
夢見る書店 本店
https://takaya-kanetaka-novels.jimdofree.com

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