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花葬【オリジナルシナリオ】

こんばんは。今日もお疲れさまです。

さて、先週はドヤ顔で新作発表してた私ですが、今週はやっぱり何も書けなかったので、昨日の記事でチラッと触れたシナリオ・センターで勉強していた時の作品を載せたいと思います。

東京の青山、表参道とかお洒落なとこにあって、先生方も優しいのでシナリオ勉強したい人にはオススメです。(私は途中で飽きてしまったけど)

シナリオ・センターでは色々なコースがあるのですが、私が通っていた時は毎週一つの課題でシナリオを創作して、それを10名程度のクラスメイトの前で音読で発表するってスタイルでした。

確か『葬式』と言う課題で書いたものだと思います。

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『花葬』


人 物
嶋博(41)会社員
嶋博(11)その小学生時代
嶋宏信(45)博の父
嶋妙(45)博の姉
嶋剛(6)博の甥
葬儀社員
宇田川幸恵 (43)

○朝日荘・博の部屋(朝)
雑然と物が散らかっている部屋。携帯電話が鳴っている。寝ている嶋博 (41)が携帯を取る。寝ぼけながら着信を確認してでる。


博「もしもし。……げ。姉ちゃん。どうして俺の番号分かったの? ……いや、ごめんって」

博、電話で話しながら流しに向かい歯ブラシを取る。

博「父ちゃん? いや、最近全然…… え?」

博、歯磨き粉をつけようとしていた手が滑る。歯磨き粉が床に落ちる。

博「あー……。そう。……うん。ごめん。……ごめんなさい。……はい。それじゃ……」

博、電話を切り。呆然としたまま歯ブラシをくわえる。

博「あーあ……」

呟いて、床に落ちた歯磨き粉を見つめる博。

○(回想)道路(夕)
タイトル『30 年前』
公園横の道に嶋宏信(45)が蹲っている。公園からバットを担いだ博 (11)が出て来る。

博「父ちゃん? 何してんの? 腹痛いの?」
嶋「博か。ほら、見てごらん」

嶋、振り返って博に可愛いクマの描かれた水色のハンカチを見せる。博、覗き込む。ハンカチがゆっくりと開かれる。木魚を叩く音がする。
(回想終わり)

○葬儀場・外観
彼岸花が咲いている。お経と木魚の音が聞こえる。

○同・中
僧侶が読経しながら木魚を叩いている。椅子に座っている博がびくりと肩を震わせて目を覚ます。

博「あれ……? 何だったんだっけあれ」

博の隣に座っている嶋妙 (45)が洟をズルズルと啜りながら泣いている。

妙「ひっく……うっ……」
博「姉ちゃん? あの、さ……」
   

妙、ズズーっと、盛大に洟を啜る。

博「あの、ハンカチとか持ってきてねえの?」
妙「うっく……さっき、剛がジュースこぼしちゃって拭いたのよ……ひっく」

妙の隣に座っている嶋剛 (6) は足をぶらぶらさせながら僧侶が木魚を叩く真似をしてポクポク呟いている。

博「あそっか。そっか、そっか」

博、ポケットからハンカチを取り出し妙に差し出す。妙、受け取って大きな音を立てて洟をかむ。非難の目で妙を見る博。妙はその博の目をにらみ返す。

妙「ちゃんと洗濯して返すわよ」
博「いいよ。それ俺んじゃなくて父ちゃんの」

博、顎で正面を示す。笑顔の嶋の遺影がある。妙、可愛いクマの描かれた水色のハンカチを広げて見る。ハンカチの隅に平仮名で『しまひろし』と書かれている。

妙「嶋博ってあんたの名前入ってるわよ」
博「小学校の時父ちゃんが俺にって買ったけど、柄がダサいからつっ返したんだよ。俺が」
妙「ひどい息子。お父さん可哀そ」
博「姉ちゃんこそ。四十手前で子ども作って家出てってさ。結婚もしないで。連絡もよこさないで……父ちゃんずっと心配してた」
妙「あんただって四十過ぎて結婚もしてないじゃない」

にらみ合う妙と博。博が目を逸らし一つ溜息を吐く。

博「幸せだったのかねぇ。父ちゃんの人生は。男手一つで二人も子ども育てて、その育った子どもが二人もそろってこれでさ」

自嘲気味に笑う博。妙は苦い表情で俯く。

妙「どうしてあんたはそういう嫌な言い方するのよ。本当に……」
博「本当に意地が悪いんだよね。俺……な、姉ちゃん、あの美女誰?」
   

博、正面を指差す。

妙「いいのよ。別に……って……え? はぁ、もう、あんたは本当に突拍子もない。どれが美女よ?」

呆れて博の指差す方を見る妙。宇田川幸恵 (43)が焼香をあげている。和装の喪服を着ている。

妙「あらやだ。本当。綺麗な人ね」
博「だろ? 誰だよあれ? 父ちゃんのコレか?」

博、小指を立てる。妙、その小指をぴしゃりと叩く。

妙「やめなさい。バカね。そんなわけないでしょ」

博「そうかぁ。見ろよ。今時親族でもないにあんな和装で来るってどう考えても怪しいだろ。あの項の白さはただモンじゃねぇよ。これはひょっとすると……」
妙「ひょっともひょっとこもないわよ。あのお父さんよ」

博「あ、そっか。あの父ちゃんだもんな」

少しがっかりした様子で納得する博、妙も暫く無言で正面を向いている。読経が終わり、僧侶が振り返って礼をする。剛はポクポクと言い続けている。

妙「彼岸花が咲く季節に逝く人は天国で幸せになれるんだって。……こないだなんかのドラマで言ってたわ」
博「へぇ……って、ドラマかよ」
葬儀社員「それではご遺族の皆様、お花とともに最期のお別れをお願いします」

博、妙、剛、他数名が前方の嶋の棺の周りに集まる。

剛「お焼香は? ね、お焼香もうしないの?」
妙「そうよ。お祖父ちゃんにお花あげて……うっ……さよならひっく……しようね」
剛「お焼香がいいお焼香がいい」
博「おいおい、剛。お花だっていいぞ。ほら。……へぇ、最近はこんな洋物の花なんかも使うのか。葬儀もシャレてんなぁ。うゎ、なんだこの派手な奴。な、姉ちゃんこの白い花何て言うんだ?」
妙「知らないわよ。……ひっく、……ちょっと剛! ハンカチ!」

剛、妙からハンカチを引ったくる。

幸恵「その花は胡蝶蘭ですよ」

幸恵が博に声をかける。博、驚いた表情。剛を追いかけようとした妙も驚いて立ち止まる。

幸恵「素敵な花ですよね。嶋さんもお好きだって以前おっしゃっていました」
博「へぇ……はは……あは……」

にこやかに話している幸恵、妙と博は気まずそうに苦笑いを浮かべている。

幸恵「あ、やだ。すいません。私ったら突然。……あの、私、嶋さんとはお花の教室でご一緒させていただいて……」
博「はぁ……って、お花? この父ちゃんが?」
博、嶋の遺体を指で指す。妙、すかさずその指を叩く。博、叩かれた指をさすりながら。
博「お花ってのは、あれですか……その、華道の……お花ですか?」

当惑する博、幸恵は笑いを堪えながら。

幸恵「えぇ、華道の……お花です。ふふ。すごく熱心に通われていましたよ。その胡蝶蘭の花言葉『幸福が飛んでくる』って言うらしいんですけど、私がすごく落ち込んでいた時に嶋さんに教えていただいたんです。『大丈夫。あんた綺麗だから心配しなくても幸せの方から飛んでくる』って。ふふ。本当にお優しい方ですよね」
博「へぇ。またそんな似合わないキザなセリフを父ちゃんが? それにお花の教室?あの父ちゃんからは想像できないなー。知ってた? 姉ちゃん」
妙「まさか。お父さんがそんなに花が好きだったなんて知らなかったわ」

妙、胡蝶蘭を手に取る。剛が妙の手から胡蝶蘭を奪う。

妙「あ、こら、剛!」

剛、そ胡蝶蘭をハンカチで包む。

剛「きれいだから持って帰っていいでしょ?一個だけ、一個だけだから」
博「花はきれいでもそのハンカチは姉ちゃんの洟で汚い……あ! それだ!」

博、大声で叫ぶ。人々の目が一瞬博に集まる。妙、博を小突く。

妙「馬鹿ね大声で。何がどれよ?」
博「ごめんごめん。いや、父ちゃんもさ、よく仕事帰りとかに道端の雑草みたいな花見つけちゃさ、そうやってハンカチにくるんで持って帰ってたのよ。男のくせに嬉しそうな顔してよく俺に見せてた。あぁ、そっかそっか思い出したそれだぁ」
妙「なんだかよく分からないけど、うちの男どもは本当みんなお気楽だわ」

博、棺の中の嶋の顔を眺め、納得した ように何度も頷く。

博「うん、うん。やっぱ姉ちゃんの言う通りかもなぁ」
妙「何がよ? ほら、剛、一個だけでいいからお祖父ちゃんにもお花あげて頂戴。もう、あんたたちのせいで私の涙枯れちゃったわよ」
博「彼岸花の咲く季節に逝く人は幸せなんだろ? そうかもなって。……だって父ちゃんすげぇ幸せそうな顔してんじゃん。好きな花に囲まれてさ」

剛が棺に花を入れる。嶋がその棺の中 で花に囲まれ安らかな表情で眠っている。妙の洟を啜る大きな音が響く。 

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