違うマニュアルが要る人たち

 ふと思いついて、ローストビーフを作るなどした。

 レシピの参考にしたサイトはここだが、手間というほどのことはほとんどない。大さじ一杯ほどのオリーブオイルに少々のニンニクと塩と黒胡椒を混ぜたものを、肉塊に擦り込んでしばらく放置し、然る後にフライパンで表面に焼き色をつけてから、オーブンに放り込んで焼いてしまえばできあがりである。ローストビーフと言えばホテルのビュッフェなどによく出てくるし、少し高級感のある丼物にされてしばらく前に流行したりもしていたから、なんとなく大変な料理なんじゃないかと思いこんでいたのだが、実際にやってみたらこんなものだ。ソースは面倒なので市販のものを使ったが、山ほど食べてもまだ残っているので、今夜の zoom飲み会のつまみにもする。冷蔵庫で一夜置いてもたいへん美味しいし、もう店でローストビーフを買うこともないのではないか。

 昨日のエントリではAS男性の異性関係について書いた本を紹介したけれども、そこでも述べたとおり、あの本の素晴らしいところは、問題となっている困難の当事者でない人にとってはあまりにも「普通」で「自然」なことであるために、言語化どころか意識すらされないような男女の基本的な機微について、丁寧に順を追って、あくまで具体的かつ実践的に、テクストを通じた説明をしてくれているところである。既にわかっている人にとっては当然かつ容易に過ぎることであるために、誰もわざわざ説明をしてはくれず、ゆえに知らないままでいたからできなかったのだけど、いちど明快で懇切な解説を受けさえすれば、理解することは難しくないし、やってみればそのうち当たり前にできるようになることというのは、とくにこの種の困難を抱えている人たちには、しばしばあったりするものなのだ。私がローストビーフを自分で作るなどということは、これまで考えたことすらなかったので、ゆえにそれが容易なことだということも知らなかったのだけど、たまたま方法を知って実際にやってみたら、本当に簡単にできてしまったのと同じことである。

続きをみるには

残り 2,513字
この記事のみ ¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?