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人が死んだ時に感じる不思議な気持ち


ユダヤ人が11人死んだというニュースを見て、私はテレビを凝視した。夕飯時。フォークにぶっ刺したハムを口に咥えながら、淡々と流れる死亡者リストを眺めていた。

人が死んだ時のなんとも言えない感覚は、あまり味わいたいものではない。

人が死んだ時、私は、この世界には生きている人しか生きていないのだということを確認する。
死んでしまった人は生きていない。そんな当たり前の事実を感じて、少し悲しくなる。

この世界には、生き残った人しか生きていない。
みんな、誰かに残されて生きているのだ。

死んだ人は生き残った人に生き甲斐を与えたり、哀しみを与えたりする。それでも彼らはこの世界に生きていない。

この世界には死を観測した人は存在しないから、はたまた死とはこの世に存在しないものなのかもしれない。
そんなことを、ぼんやりと感じる。

この世界から消えてしまった、過去を確かに生きていた人たちは、死んだ時点で人の頭の中にしか存在しなくなる。
墓とかそんなもの建てたってそこにその人は存在しないし、その人だったものはなくなってしまう。
それでも、私たちの頭の中にずっと残り続けるのだ。

この世界には、生きている人しか生きていない。
数瞬前まで生きていた人も、今この瞬間を生きてはいない。
どれだけ死を焦がれても、この世界には死ねなかった人しか存在しない。

そんな当たり前の事実がどこか不思議に思えてしまうから、誰かが死したニュースを見た時私はなんとも言えない気持ちになって、口に挟んだハムを噛みちぎるのだ。

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