街角を曲がる
世の中には色々な巡り合わせがあって、色々な形で誰かと出会い、別れ、そしてまた出会いを繰り返す。その中でさよならを言えた相手も、言えなかった相手もいる。
さよならを言えなかった相手は、大抵これが最後になるとは思わず、伝えられずにいた事があっても、それはまた次に会った時に話そうと思い、後ろを振り返っては、また夜の街を歩き出し、そしてそれっきりとなって、次の場面では小さな花を手向けて手を合わせているのだ。
雨が降って、水が溢れ、ぼんやり濡れた景色を見つめる。
あの時、振り返ったあなたの姿を思い出す。
暗い街角で雨で濡れたコンクリートに信号の明かりがぼんやり反射して映る。
ニコニコ笑っているあなたを、あの時もう少し見つめていたら、声をかけていたら。
もう少しだけ話そうと言っていたなら。
でも私たちは、手を振って別れた。
彼や彼女の笑顔を思い出す。
思い出す事はあっても、その笑顔や声に直接触れる事はもうない。
あまり後悔はしない人生だけど、死んでしまった人に伝えれなかった言葉が、ある。
いや、本当は無いかもしれないけど、もっと、話したい事が沢山ある。
本当に些細な事から、大きな事まで、あなたを笑わせる為に話したい事が、沢山ある。
だから、私はできるだけ、今いる大切な人に温かい言葉をかけたいし、言える言葉はきちんと目を見て届けたい。
街角を曲がる時。
それはいつ訪れるか分からない。
手を振り、またね。大きな声でそう伝えたい。
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