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「廃校を猫と人が繋がる場所へ」ティアハイム小学校の“新しい保護猫シェルター”の取り組み

平成24年に動物愛護法が改正され、以前に比べて「保護猫」「動物愛護」という言葉も広く知られるようになりました。それでも未だ多くの動物たちが、保護収容されています。

そんな状況のなかでも、ひとつでも多くの命を救おうと努力を続ける動物保護団体やボランティアがいます。今回は、岡山県の吉備中央町で猫の保護活動を行う「ティアハイム小学校」で、飼育スタッフとして従事する小川さんにお話を伺いました。

ティアハイム小学校はどんなところ?

―― ティアハイム小学校さんはどんな活動をしていますか。
ティアハイム小学校は「自走型の動物シェルター」を目指している施設です。自走型というのは、自分たちで稼いで雇用を行い運営する方法を指します。

寄付やボランティアに頼りながらNPO法人の形で運営する方法もありますが、人手不足や資金不足で厳しい状況に陥りやすいのが現状です。

私たちは動物シェルターを継続性のある取り組みにするため、スタッフはすべて雇用でまかなう。自分たちで資金を生み出しながらシェルターを回す。そして猫を救っていく。ティアハイム小学校を自走型の動物シェルターのモデルケースにしたいと考えています。

―― ティアハイム小学校さんに猫は何匹くらいいるんですか?
4部屋+控え室に、だいたい50匹前後の猫がいます。猫の大部屋といわれる4部屋は一般の人にも自由に見てもらえる猫たち、控室はまだ人慣れできていない猫や仔猫のスペースです。

猫と人が共に暮らすための「社会化期」の経験

―― 仔猫は何匹くらいいるんですか?
いま現在、仔猫は8匹ですね。ティアハイム小学校では仔猫に「社会化期」を経験させるようにしています。社会化期とは、月齢が近い猫同士で何かしらの影響を与えあって、変化しあうことです。嚙んだら痛いとか、そうやってお互いに手加減することを覚えていきます。

同じケージに入れると当然ケンカになりますが、社会化期の経験は猫が人と暮らしを共にしていくうえで大切なことです。そういった時期を経ているからこそ、みんないい子に育ってくれていると思います。

―― とてもステキな方針ですね。成猫たちに対して気をつけていることもあるのでしょうか?
一番はケージに閉じ込めないことでしょうか。大部屋にいる猫たちは基本的にフリーダムです。ケンカもすれば、一緒に寝たりもします。訪れた人たちに、猫の自由な姿を見てもらうことが目的です。

一般的な譲渡会ではキャリーに入れられた猫を見るイメージがあるかと思いますが、その状態では猫本来のパフォーマンスが発揮されません。仔猫ならまだしも、警戒心の強い成猫はビビって縮こまってしまいます。すると、成猫の魅力に気づいてもらえない、譲渡が決まりにくいことにつながってしまうんです。

ティアハイム小学校は、猫たちの自然な姿を見てもらって、実際に触れ合うこともできます。そこが他の施設とは大きく異なる点であり、成猫の譲渡にもつながっている理由ではないでしょうか。

―― 猫の習性について深い理解をお持ちなのですね。
かれこれ8年くらいになるボランティアの経験と、長く猫を飼っていた経験が活かされています。アパートで1人暮らしをしているときも、我慢できずに大家さんを説得して、猫を引き取ったり。

いろんな猫に触れてきたからこそ分かる、猫の習性とか個性への理解ですね。動物シェルターを運営するのであれば、50匹いたら50匹の個性も把握する必要がありますから。

動物たちを安心して保護できる環境が「廃校」にあった

―― シェルターを運営する場所として「廃校」を選ばれたのには理由があるのでしょうか?
自走型の動物シェルターを実現することともうひとつ「廃校問題を解決したい」という思いからです。廃校問題は、とくに日本の山間部で抱えている問題ですね。箱物と呼ばれるような大きくて部屋数も多い、耐震性にも優れた建物が一切使われず持て余しています。

一方で多くの動物保護団体が、民家を改装したような場所で運営をされています。不十分な設備やスペースに悩む団体が多いなかで目を付けたのが、廃校だったというわけです。

―― なるほど。もともとティアハイム小学校さんは中学校だったんですね。
そうなんです。ティアハイム小学校の建物は、数年前に廃校になった『大和(やまと)中学校』を再活用しています。周辺は緑に囲まれ、気候も穏やかな環境。ペットの鳴き声やニオイなどが問題になるリスクも少なく、動物シェルターとして利用するには理想的な物件でした。広い校舎を活用して、猫の健康チェックや処置、予防接種、不妊手術などにも対応しています。

もともと中学校だったのに『ティアハイム小学校』とした理由は「猫たちなら小学生くらいのイメージがぴったりだ」と感じたからですね。いろいろな事情を抱えた猫たちが、ここで新しい家族と出会って卒業していくことをイメージして、ドイツ語で「動物の家」「保護施設」を意味する「ティアハイム」+「小学校」で『ティアハイム小学校』と名づけました。

―― ティアハイム小学校さんだからこその大変さはありますか?
元中学校だった建物の大きさが、ティアハイム小学校ならではの大変さです。校舎は3階建て、体育館とグラウンドもあり恵まれた環境ですが、動線がかなり重要になります。

部屋数が多いので使い方を間違えると移動に時間がかかるし、作業効率も下がります。1日に何万歩も歩かなければならず、スタッフの体力も削られてしまう……という状態ですね。これは廃校を活用しているからこその大変さだと思います。

気難しい猫も人と触れあうなかで変化する

―― 保護活動を続けていると、いろいろな猫との出会いがありますよね。
そうですね。すごく気難しい猫、攻撃性を持った猫が、人と触れあうなかで少しずつ柔らかくなる、気を許してくれるようになるのが うれしいですね。そういった意味でも「よつば」は印象に残っています。ティアハイム小学校に来たときは警戒心むき出しで誰かれ構わず「シャーシャー」、誰かが近づこうものなら猫パンチを炸裂していました。

よつば

―― その後はどうなったんですか?
今では保護主さんにスリスリ攻撃したり「ブラッシングして~」ってゴロンして見せたり、すっかり甘え上手になっていますね。先住猫との関係性も心配していましたが、一緒にニャルソックしたり、たまにケンカもしながら、つかず離れずやっていると聞いてホッとしています。

―― ひと安心ですね。他に印象に残っている猫との出会いはありますか?
あとは「ゴシック」も忘れられない猫ですね。ティアハイム小学校に来たときは、背中全体に大火傷を負っていて……。おそらく虐待されたんだと思いますが、そのトラウマから攻撃性の強い猫でした。

火傷の治療をしながら心のケアを重ね、傷が癒える頃にはすっかり性格も穏やかに。今では優しい保護主さんに引き取られて、ご飯を食べる前の「おすわり」まで覚えたと聞いています。

そういう「強い個性のある猫」と分かったうえで迎え入れてくれる人たちがいるのも、本当にありがたいことですね。

ゴシック

ティアハイム小学校は猫と家族と地域が繋がる場所

―― ティアハイム小学校さんといえば、クラウドファンディングを活用されていますよね。
はい。自走型の動物シェルターを目指すための取り組みのひとつですね。主に地元企業とのコラボ商品をリターンにしています。

例えば1番最初にコラボした『丸本酒造』さんは、もともとティアハイム小学校から猫3匹を引き取ってくれていて。「うちのお酒なんです」ってお土産に持ってきてくれたお酒のラベルを見たら、すごい老舗の酒蔵だったんです!

そんなご縁から生まれた純米大吟醸「猫の杜」をリターン品とするクラウドファンディングも大成功でしたね。同じく猫好きのご縁から繋がった岡山市の洋菓子店『パティスリーアンフルール』さんとコラボした洋菓子セットも人気でした。

コラボして物販のような形でクラウドファンディングすると、当然仕入れが発生しますから収益率としては高くないんです。ただ想像以上に多くの反応をいただけるので、貴重な収入源になっていますし、何より他の活動にもいい影響を与えています。

『丸本酒造』とコラボして誕生した「猫の杜」

―― ティアハイム小学校さんがこれから目指したいことを教えてください。
ティアハイム小学校の認知力を高めたいですね。保護猫業界が抱える人手不足と資金不足を解消するためには、まず広く知ってもらう必要があります。とくにクラウドファンディングはアピール力を上げる意味でも有効と考えているので、今後も継続していきたいです。

あとは、毎週日曜日に開催している譲渡会ですね。ティアハイム小学校は、猫と新しい家族が繋がる場所です。盆も正月もなく大変さを感じることもありますが、末長く続けていきたいですね。

取材を終えて

今回は、自走型の動物シェルターの実現に向けて取り組む、ティアハイム小学校の小川さんにお話を伺いました。

「保護猫活動とは」「動物シェルターはこうあるべき」といった常識に縛られすぎず、猫にとってより良い環境を追求する姿勢、とても勉強になりました。

ありのままの猫たちを見てもらえるような収容スタイルやクラウドファンディングの活用など、猫の保護活動にも柔軟な発想が求められる時代なのかもしれませんね。


ティアハイム小学校についてはこちら🐈


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