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「半径5mのなかで、やれることを」てんらん保護猫寮が保護活動を続ける理由

保護猫を家族として迎えることは徐々に一般的となっており、ペットショップではなく保護団体や保健所から猫を引き取る人は増えてきました。

その一方、令和2年度だけで1万9,705頭の猫が殺処分されるなど、猫を取り巻く状況は厳しいままです。

そんな状況に何かできないかと、猫の保護活動を行う人にインタビューを行いました。今回は、神奈川県川崎市で猫の保護活動を行う「てんらん保護猫寮」のCaoryさんにお話を伺います。保護活動を始めたきっかけや、活動内容をご紹介いただきます。

てんらん保護猫寮はどんなところ?

保護猫兄弟の「キューピー」と「ピラフ」

ーてんらん保護猫寮ではどんな活動をしていますか。

てんらん保護猫寮では、猫の「捕獲・管理・譲渡」のうち、猫の管理と譲渡を主として行なっています。預かった保護猫のお世話をしながら、触れ合って人慣れの練習をし、譲渡先に繋ぐことが主な活動内容です。

現在は私が個人で活動をしており、自宅の一室が保護猫部屋になっています。

今後は保護猫コミュニティの立ち上げと運営もできれば、とも思っています。

ー今は何匹の猫がいるのですか?

合計4匹の猫が暮らしています。

うちの飼い猫兼てんらん寮スタッフの「てん」と「らん」、人慣れ練習中の二匹の保護猫「キューピー」と「ピラフ」です。このほか、過去に2匹の猫が卒寮し、今は譲渡先で暮らしています。

キューピーとピラフについての記事はこちら🐈

「きっかけは初めての愛猫の死」Caoryさんが猫のための場所を始めた理由

寮母「らんらん」と寮長「てんてん」

ーCaoryさんが保護活動を始めたきっかけは何かありますか?

猫が常にいる家で、小さい頃から実家で猫と暮らしていました。現在も実家に保護猫出身のコが4匹、姉の家に2匹暮らしています。

最初の愛猫は、私が3〜4歳の頃にペットショップで購入して、20歳で亡くなるまで一緒に暮らしていました。そのコが亡くなって、当たり前にそばにいた存在が命を失うことに衝撃を受けたのを覚えています。

その後、同時に飼っていたコが分離不安(親や家族との離別に異常な恐怖を抱く状態)になったのをきっかけに、新たな猫を迎えることになりました。そのときに、選択肢に入ってきたのが保護猫です。

保護猫について勉強するにつれて、殺処分やペットショップの現状、保護猫たちの実態を知ることになりました。この時点で、保護猫以外を迎える選択肢はなくなりました。

ーそこが保護活動を志したきっかけですか?

この時点では、保護活動というより家に迎えて命を繋ぎ、可愛がることがメインです。

猫のために大きなことをやれるとは思っていなかったので、実家の猫を可愛がったり、保護猫カフェに足を運んだりということしかできませんでした。

その後結婚して生活基盤が整うにつれて、それまでできなかった猫のための活動を考えるようになりました。

ーそこから具体的な活動が始まったわけですね。

最初のうちの保護活動では、とにかく「猫のために働くこと」をメインにしていました。ただ、活動が進むに連れて、お金を稼ぐことや、命を守ることの難しさに直面して……。

最終的には、保護活動は必ずしもお金を稼ぐことや、自分の生計のためにしなくてもいいのではないか、と思うようになりました。

現在は、家の購入をきっかけに、一室を保護猫寮にする今のスタイルに落ち着いています。できる範囲で、安心安全を確保できる場所を作ることを優先した結果です。

心を開くのに100日かかった猫「ホクロン」

ほくろ模様がかわいい「ホクロン」

ー保護猫といってもいろいろな猫がいますよね。人とうまく暮らせないコも多いのではないですか?

卒寮生のホクロンがちょうどそんなコでした。私が今の家に引っ越してから、ちょうど1ヵ月後くらいにきたコです。

白黒の長毛猫で、もともとはTNR(不妊手術後もとの場所に戻すこと)する予定でした。足を引きずっていて治療が必要だったので、てんらん寮で預かることになりました。

診察の結果ホクロンの体には問題がなかったので、今では「捕まえないでほしい」アピールの仮病だったのではないか、という説が有力です。当時は顔も怖くて毛もボサボサだったので「すごい猫拾ったね」と家族にもいわれました。

ーすごい賢い猫ですね。

そのとおりで、ホクロンはとても賢い猫でした。

猫エイズを持っていたので、隔離できる家か、先住猫が同じく猫エイズを持つ家でなければ飼えず……。そこでしばらく、人慣れの修行も兼ねて保護猫寮で暮らしていました。

暮らし始めてからも、気性が荒くて目つきもキツく、100日間はまったく触れないコでしたね。

ーその後はどうなったんですか?

自分でも驚いたのですが、101目に朝ごはんをあげに行くと、ホクロンが可愛い声で鳴いて急に甘えてきました。そこから触れるようになって、今ではすっかり甘えん坊です。

100日かけてホクロンの信頼を勝ち取ったんだなと思えてうれしかったです。

ーすごいですね。ホクロンは今は譲渡したんですよね?

はい。ホクロンと同じエリアで同日に捕まった、猫エイズキャリアのマシューというコがいます。そのコを引き取ってくれた人が、マシューの友達としてホクロンを受け入れたいと言ってくれて、無事譲渡に繋がりました。今は2匹ともタワーマンションで優雅に暮らしています(笑)。

ーすごい、いい暮らしですね。
引き取ってくれる人が見つかってよかったです。ホクロンは100日で心開いてくれたんですけど、もっと時間をかけて練習が必要なコもいます。

今入寮中のピラフとキューピーは、もう100日経ちましたがまだ修行中です。地道に人慣れの練習をしてもらいます。

保護活動の原動力は「縛られすぎず、楽しく続けること」

仲良し兄弟「ピラキュー」

ーCaoryさんの保護活動の原動力は何ですか?

保護活動の楽しさですね。もともと、私の活動は猫が好きなことをきっかけに始まりました。

大好きな猫と触れ合えますし、猫のために猫部屋の環境をどう良くしていくかなど、創意工夫を楽しみながら進めているところが大きいかもしれません。

保護活動は、正解がないぶん自由に活動ができます。猫たちのためのルールや制約はある程度必要ですが、せっかくやるなら縛られ過ぎないほうがいいというのが私の考えです。

世界中の猫たちを救えればいいですけど現実的には難しいので、小規模でも楽しさを忘れずに、長く続けることを大切にしています。

情報発信の難しさに苦戦することも

食いしん坊お兄ちゃんのピラフ

ー保護活動をやっていて、難しさを感じることはありますか?

難しいなと感じるポイントはいろいろあるのですが、「情報発信の難しさ」を特に実感しています。

発信ツールとしてTwitterを活用しているので、SNSは140字に短くまとめるようにしているのですが、てんらん寮の活動は140字にまとめきれないことも多くて。

保護活動に関する発信は、命がからむ活動をしている以上、センシティブな部分もあります。誤解を招く形で発信してしまうことに危機感も感じており、どう伝えるかは苦手な部分でもありますね。

ネガティブな意見が自分に向くならまだいいのですが、保護猫活動自体に向くのは怖いな、とずっと思っていました。現在は、SNSでの短い文章で伝えきれない内容を発信するために、てんらん保護猫寮のWEBサイトを作りました。

てんらん保護猫寮が大切にしていること

寄り添うらんらんとてんてん

ー保護活動をするにあたり、大切にしていることはありますか?
手の届く範囲の猫を助けて、その幸せを考えることです。
私は個人で活動しているのでやれることは限られていますし、企業に比べると予算も少なく小さな力だと思います。

それでも、2、3匹の少数の猫を助けることはできます。うちも今2匹の保護猫を預かっていて、過去には2匹譲渡先に繋げられました。

こういう、自分の半径5mの活動が多くの人に伝わっていけばと思って日々活動しています。

ーひとりの守備範囲は5mでも、それぞれができる範囲でできることをやれば、助けられる猫たちは増えますもんね。

保護活動は「自分には大したことはできないから」と思い何もしなければ、何も生まれないと思います。一人ひとりがやれることをやっていって、それが広がれば大きな力になりますよね。

私の場合は、何匹助けるとか、どこの地域をよくしたいとか、そういう目標を立てて活動すると、無力さで気持ちが落ち込みます。それなら、小規模でも、やれる範囲のことを着実にやっていこう、という気持ちで活動中です。

自分にできることをみんながやれば、猫たちを取り巻く環境も良くなっていくと思っています。

保護活動自体もそうですが、たくさんの人に興味を持ってもらえるよう、保護活動の楽しさや猫と暮らすことの良さを発信していければと思っています。

編集後記

大変そう、と敬遠されやすい保護活動も、一人ひとりが自分にできることをすれば、猫たちを取り巻く環境は良くなります。

Caoryさんの考え方は、より多くの人が保護活動を行うにあたって大切だと感じました。

筆者も、保護活動は、十数匹以上の大規模でやるもの、というイメージがあったので、一人の猫好きとして新鮮な気持ちで編集ができました。2、3匹の小規模でできるところから、というCaoryさんの保護活動は、まさに目からウロコでした。

どこか自分とは遠い存在だと思っていた保護活動ですが、筆者も何かできることがないか探してみたいと思います。

Caoryさん、ありがとうございました。

<執筆=いちはらまきを


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