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棲めなくなった猫たちはどうなるの?映画『猫たちのアパートメント』から考える、地域猫とTNR“M”

2022年12月――韓国で制作されたドキュメンタリー映画『猫たちのアパートメント』が公開されました。

巨大な団地で”地域猫”として愛されてきた猫たちの引越し劇がテーマになっていて、保護猫活動の現場の様子や保護猫活動を志す方々の葛藤が克明に描かれている本作。

neco-note代表として日々、保護猫活動に関わる黛が『猫たちのアパートメント』を観て、“地域猫”の課題や可能性などを語ります。

団地の再開発…地域猫はどうなる?映画『猫たちのアパートメント』のあらすじ

舞台はソウル・江東区の、かつてアジア最大と呼ばれた遁村(トゥンチョン)団地。老朽化により団地の再開発が決まり、住民たちの引越しや取り壊し工事が進められていた。

そこに暮らす、250匹の猫たち。すべての団地が解体される前に猫たちを安全な場所に移住させる、猫と住民による引越し大作戦が始まる。
参考:猫たちのアパートメント公式サイト

地域住人たちに見守られながら暮らす“地域猫”の猫たちの引越し作戦は、猫たち1匹1匹を識別するところからはじまり、捕獲や譲渡にまで及びました。

捕獲(および不妊手術)した猫のうち、人に馴れないと判断された猫は新しい住処に放たれるのですが、そこには保護活動家たちの葛藤もありました……。

「“場所”に棲みつく猫」の引越しは想像以上の大変さ

遁村団地で行われた地域猫の引越しプロジェクト。その一番の課題は「猫が新しい住処に棲みつかないこと」だと感じました。

そもそも猫は環境変化に強くないので、新しい環境が与えられても帰巣本能が働きます。そのせいか、映画内でも工事中の“元住処”に戻ってしまい、捕獲をやり直すシーンが描かれていました。

また、猫を愛する者同士が一枚岩になりきれない様子も、(ワンシーンでしたが)描かれていました。引越し大作戦に伴う譲渡に対して「勝手に飼い主を探すのは、人間の身勝手なんじゃないか?」という意見が、同じ団地の住民から寄せられたのです。

人の言葉を話せない猫をめぐって、周囲の人の意見が対立するのは、日本でもよく起きている問題です。

TNR?譲渡?日本での地域猫の現状

日本で地域猫というと、TNR(Trap Neuter Return:捕獲→​​不妊去勢手術→自然へ返す)が一般的です。 TNRについてはこちらの記事で詳しく説明しているので、ぜひ読んでみてください。

TNRに代表される地域猫活動はまだまだ課題が多い一方で、キティちゃんが地域猫の啓発CMに出演するなど、「猫と人との共生社会」へ向けた取り組みのなかで、存在感を大きくしてきています。

TNTA(Trap Neuter Tame Adopt)という活動もあり、それぞれ捕獲→不妊手術→馴化→譲渡の頭文字をとっています。よく目にするようになった譲渡会や譲渡先マッチングサイトなどは、A(譲渡)のステップを担っています。

地域猫に必要なManagement(管理)の考え方

『猫たちのアパートメント』を観て感じた課題感が、まさに日本の保護猫活動にも当てはまります。その課題とは、Return後の管理不足。戻しっぱなしの状態になっている点です。

問題は大きく2つあります。1つ目は、人間の生活圏で暮らしていた猫は、自分でエサを獲って食べることが得意ではないこと。十分な食事を得ることが難しく、その時点ですでに自由に生きていくことは困難です。

2つ目は、人間の生活圏に影響があること。猫にとってはエサのある町エリアの方が住みやすいです。しかしそうして人間の生活圏に野良猫がいることをよく思わない方もいて、迫害されたり猫のエサやりさんと衝突することが多いです。

そこで必要になるのが、TNRのあとのManagement(管理)です。

TNRで野良に返した猫たちをそのままにせず、適切に管理していく。1代限りの命を見守っていく。人間の手で飢えや天候などの「不自由」から、守れる仕組みづくりが求められていると感じます。

また、Management(管理)がもたらす影響は猫だけに留まりません。その活動の趣旨や内容を、周辺住民と対話しながら理解を広げていくことにも繋がります。

町に住む人たちが一体となって野良猫を減らしていくことが、本当の意味での「猫と人との共生社会」への近道だと考えています。


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