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ミー・トボールミ・ーツボーイ(前編)

 最近の昼食は食パン1枚だ。午後にカフェインなしでも眠くならない、丁度いい塩梅のようである。店で最も安い価格帯のものを買っては、いかに善く食べるかを日々考えている。この善いというのは必ずしも満腹感だけを求めたものではなくて、こうしたらそこそこ食えるものが出来上がるんじゃないだろうか、という好奇心(知的とは言うまい)をどれだけ満たすかに評価の軸がある。もちろん食のパン、なのだからそのまま食べてもそれは十分に美味いのだが、せっかく会社の冷蔵庫の一角を割り当てられたので、ここでもインスタントな調理をしてみようと思うのである。ベタなところでは蜂蜜。あるいはチューブのツナマヨ。減塩のベーコンあたりも無難に美味い。粒マスタードだけで食べてみると、脳が勝手に肉の到来を予期して面白い。それを裏切るのもまた乙なものだ。

 空腹の虫を落ち着かせたところで、日向ぼっこをしながらインスタなんとかかんとかを無心で眺めていると、ミートボールを作る動画が流れてきた。中途半端な食事はかえって空腹を加速させるというのは古今東西の常識であろう。いわゆる飯テロも相まって、今夜はミートボールにしようと安直に思い立った。

 そういえば、最近ようやく大っぴらに酒を飲めるようになった。少し前まではドクターストップがかかり、避けられぬ会食の1杯目だけはちびっと飲ませていただき、あとは赤ら顔の人間どもを指を咥えてみているような有様だったから、これは非常に喜ばしいことだ。せっかく飲めるようになったのだから、酒に合うものを作りたいと思った。

 ミートボールは、どちらかといえば酒の肴ではなくご飯のおかずだろう。甘さが酸っぱさにやや勝るトマト風味のソースがとろりとかかった、ひき肉の球体。個人的な印象ではあるが「肉団子」というときには色味がやや茶色に近づき、ソースの粘性が増す感じがする。字面も相まって、欧米の食卓というよりは日本の弁当箱を想起させるが、これをいかにしてつまみにアレンジしようか考える。いや、酒と一緒に食べればそれがつまみになる、という逆説的定義はいったん捨て置くべきだろう。

続く

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