マネジャーを育てる
いつも熱中する組織のnoteをお読みいただきありがとうございます。
今週は壽田が投稿致します。
多くの経営者が「マネジャーが育たない」と嘆いています。その理由は、指導・育成できる人材が不足していたり、資金的・時間的な余裕がなかったり、指導育成の方法がわからなかったりとさまざまですが、管理職が十分に機能せず、経営者が会社のなかを駆け回り、日常的な問題解決や業務指示を自ら行わざるを得ない状況に陥っています。
マネジャーが育たない状況は、会社の研修制度を見ても明らかです。新人や一般中堅社員の研修は、OJT、メンター制度、社内の勉強会など比較的研修の内容が充実しておりますが、マネジャー向けの研修となると外部研修や外部セミナーの受講くらいに限られています。しかも、日常業務から一線を画した環境で、集団を対象に全体的かつ単発的に知識の習得を図るため、実践への具体的な適用が非常に困難になっており、研修の成果は極めて限定的といえるでしょう。
多くの企業がマネジャーになる人材の育成に苦慮している現状を踏まえて、今回は、どうすれば、マネジャーを育てることができるのか、マネジャー育成のための原則について、考えます。
なぜマネジャーを育てるのは難しいのか
マネジメントとは、人と人との相互作用を通じて成果を上げることをいいます。この「人と人との相互作用」も「成果を上げる」ことも、「こうすれば上手く行く」などという方法はありません。部下一人ひとり性格も価値観も違いますので、部下にどのように働きかけるべきかについて最適解などというものは存在しません。また、事業を成功に導くためのセオリーがあれば業績低迷に苦しむ企業は存在しないでしょう。マネジャーが活動するのは、極めて曖昧な「答えがない世界」になり、これがマネジャーを育てることを非常に難しくしていると言えるでしょう。なお、「答えがない世界」とはどのようなものか。これにつきましては以前記事を書きましたので、まだお読みいただいていない方は、是非、ご一読下さい。
マネジャーを育てる3つの原則
「どうすればマネジャーを育てられるか」、これもまさに「絶対的な答えがない問い」ですから、マネジャーを育てるのは簡単ではありません。しかし、何も手掛かりもないわけではありません。ここでは、数多くの経験則を通じて得たマネジャー育成のための3つの原則をご紹介します。その原則とは以下の3つです。
①教える/知る
②問う/答える
③やらせてみる/見出す
これらの3つの原則をうまく織り交ぜて、日常的にマネジャー候補者または新任マネジャーに働きかけるのがよいでしょう。以下の解説では、正確に表現したいため、「指導者」と「学習者」という言葉を用いておりますが、「指導者」を「経営者」と、「学習者」を「マネジャー(候補者)」と読み換えていただければ、わかりやすいかもしれません。
①教える/知る
もっとも基本的な学びは指導者が「教える」という行為から生まれます。教えてもらうことによって、学習者は概念の内容や意味を「知る」ことができます。
ある概念が存在することすら知らない場合には、自分がその存在を知らないことすら知りません。知らなければ、探すこともできませんし、探す必要があることも気付かないということになります。指導者が「教える」ことによって、学習者が概念の存在を知って、気付きの機会を増やすことができるので、「教える」ことは非常に重要な意味を持っています。
最近は、「自分で考える」ことを重視するあまり、部下に「教える」ことを避ける風潮があるように思いますが、「教える」ことの意義をよく考えずに、徒に部下に考えさせてばかりでは、部下の育成には効果がないこともある、ということを忘れないようにしましょう。
しかし、この「教える」ということは、マネジャーを育てることにおいては、十分ではありません。それは、マネジャーが取り組むのは、そのほとんど「答えがない問い」になるにもかかわらず、「教える」ことがもっとも効果を発揮するのは、答えがある場合がほとんどだからです。例えば、「KPIとは何か」のような問いがこれに該当します。これは概念の意味がある程度確立されていますので、答えを「知る」ことで終了です。しかし、「KPIを達成するために何をするべきか」というような絶対的な答えがない問いに対しては、「教える」ことは十分に機能しません。答えがないから、教えられないのです。
もし、マネジャー向けの研修が知識獲得型の座学のみで構成されている場合には、十分に気をつけて下さい。それは、マネジャーが答えを出すための、材料を「知る」ことにはなるかもしれませんが、答えがない問題に取り組むのには、直接的に役に立つとは限らないからです。
②問う/答える
マネジャーの2つ目の学びは、指導者が「問い」を投げかけ、学習者が「答える」というものです。指導者が提示した論点に対して、意見を整理して自分なりの答えを出すことで、検討すべき解決策を導き出すことができるようになります。マネジャーが日常的に取り組む、絶対的な答えがない問題は、答えの候補として複数の意見を出し、それらを比較衡量して相対的に答えを出すしかありませんので、この「問う」、それに「答える」というのが非常に効果的です。
このとき大切なのが、指導者が投げかける「問い」の品質です。良い答えを導き出すためには、良い質問をしなければなりません。そのためには、オープン型の質問で、学習者に考えながら話してもらうように促すことが大切です。つまり、「なぜ…?」や「どうすれば…?」など、「はい」「いいえ」では答えられない質問を投げかけて、「意見」や「理由」などを自由に表現させるのです。
学習者は必ず自分の意見を口に出して「答える」必要があります。そして、複数の意見を比較衡量し、決定することで「答え」を導き出すことになるので、出した意見に対する批判は甘んじて受け入れる覚悟が必要だからです。「周囲の人は自分の意見をどう思うか」などと恐れていては、マネジャーは務まる務まりません。
ここで、「問う/答える」についてもう一つ付け加えておきましょう。「絶対的な答えがない問い」に「答える」場合、何とか「答え」を捻り出しても手応えがないことがほとんどですので、予めご承知おき下さい。つまり、答えがないのですから結論を出しても釈然しないということです。これはもう慣れていただくしかありません。
③やらせてみる/見出す
最後の学びは、目標達成や課題解決に向けて、指導者が実際に「やらせてみる」ことによって、結果から何を「見出す」ことができたのかを学習者に振り返らせるというものです。「答えのない世界」で問題解決をするためには、何としても結果を出そうと必死に行動することがもっとも効果的な学びです。マネジメント力はそれを引き上げようとすれば上がるのではなく、望む成果を何としも出そうと試行錯誤して懸命に取り組むことで、初めて向上するものだと思います。
ここで、注意していただきたいのは、経験から学びを「見出す」ためには、ただ懸命に取り組むのではなく、次の4つの要件を満たすように「やらせてみる」ということです。
・何を達成したいのかをはっきりと理解させる
・達成するために十分な準備をさせる
・背中を押して行動を促す
・すぐに結果を振り返って行動を改良させる
指導者は学習者と一緒になって成果を生み出すことに付き合うことが大切です。学習者が独りでやってみるのではなく、「どうすべきだろうか」、「どういうことが言えるだろうか」などと問いかけながら成果を生み出す過程を伴走することが不可欠です。
最後に
いかがでしたでしょうか。これまでの記事もそうですが、この記事もお読みいただいた方に「教える」つもりでは書いておりません。「マネジャーの育て方」なんて、「教える」ことができないからです。「どうすればマネジャーを育てられるか」という問いに対して、私なりの答えを書いたにすぎません。是非、皆さんも「どうすればマネジャーを育てられるか」という問いに真剣に答えを出してみて下さい。そして、実際にマネジャー育成に取り組んでみて、何かを「見出す」ことができたら、是非、その要点を共有して下さい。ともにマネジャー育成に力を尽くそうではありませんか。
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