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規律を守るということ

 いつも熱中する組織のnoteをお読みいただきありがとうございます。
今週は壽田が投稿致します。
 今日は、マネジメントで最も大切なことの一つである「規律を守る」ということについて書きます。「ありのまま」であることが尊重され、多様な価値観に応じた働き方が日常的になってきた令和では、「規律を守る」というとちょっと時代遅れの感じがしますが、マネジメントでは中心となる要素ですので、その基本的な考え方を整理してみます。

規律とは何か

 一般的に、「規律」には堅苦しいイメージがあります。軍隊における義務や規則などが思い起こされるからです。ここでいう「規律」とはそうではありません。義務や規則は「やらなければならない」か「やってはいけない」という2つの司令で集団を統制するものです。どちらにしても、人を外圧によって強制することで、特定の行動をさせるように、人を操作するものですから、人は求められた水準以上の行動をしようとするものでもありませんし、長続きもしません。そんな行動では成果が上がりません。
 では規律とは何か。
 マネジメントでいう「規律」とは組織の価値観に従うということです。つまり、「規律を守る」ということは、組織が大切にしていて、何よりも優先していることに従って行動するということです。抽象的なので、多くの人が知っている例を挙げてみましょう。東京ディズニーランドのカストーディアル・キャスト(清掃業務員)のお話です。

 今も続いているかどうかわかりませんが、かつて、カストーディアル・キャストは、担当エリアを15分ごとに巡回することが求められていました。これを知って以来、東京ディズニーランドに行くたびに、私も注意深く彼らの仕事振りを見ていますが、誰ひとり決められたことを嫌々やっているように見える人はいません。彼らは、汚れていてもいなくても進んで定期的に掃除をしています。「夢の国」とはいえ、そこまでしなくてもよさそうですが、彼らは園内をきれいにして美観を保つためだけに、業務を行っている訳ではありません。彼らを突き動かしているのは、「お客様の安全と安心を常に確認する」という価値観です。何か問題が生じているお客様がいないか、設備の不具合がないかなどを見て回っているのです。
 
 規律には、業務の最低水準を担保する一方で、より高い水準を追求するという性質があります。一定の水準で業務をやらせるには、指示や命令などでも可能です。しかし、これらは求められている以上のことを積極的に行う力がほとんどありません。「やれ」と言われているからやっている訳で、「もっとやろう」とはなかなかなりません。一方で、価値観で統制されているカストーディアル・キャストは、皆が進んで15分で巡回することを実行しています。それだけでなく、迷子になって泣いている子どもを見つけたら、笑顔でシールをプレゼントして保護者を探したり、長蛇の列で退屈しているお客様の前で面白いモップさばきを見せて楽しませたりしています。
 また、規律を守ることによって、誇りを持つことができます。一般的に清掃業務は人気の職種とは言えません。かつて、ディズニーランドで働いた人のなかにも、カストーディアル業務への配属を言い渡されたとき、強く失望したり、ネガティブに感じたりした人も少なからずいたようです。しかし、価値観を共有すると意識が変わります。つまり、カストーディアル業務は、掃除をしているのではなく、お客様に最も近いところで、安心と安全を提供しているのだということです。そう考えると行動に大きな意味が見出せますよね。ディズニーランドという夢の国でも、単に裏方として清掃をするだけの業務として認識されていたら、人気の業務にはならないでしょうし、業務の品質にもきっと低い水準でのバラツキがあるのではないでしょうか。
 さらに、規律は、人の思考を「どうすればできるのか」に集中させます。価値観に基づかず、単に15分に一度巡回して掃除をすることがルールとして義務づけられた場合には、きっと、「果たして、15分に一度巡回する必要があるのか?」という疑問がキャストの頭のなかに湧くのではないかと思います。たいしたゴミが落ちてもいないのに巡回している訳ですから。なかには、「15分に一度なんて必要ない」と考えて、巡回のペースを落とすキャストが出てきても不思議ではありません。指示や命令、ルールなどには、表面的な行動しか示されていないので、どうしても、「やるべきか、やらなくてもよいのではないか」という思考が生まれてしまいます。しかし、価値観はそうではありません。「お客様の安心と安全を確認する」ことは、やるべきかどうかなどと疑問に抱くことではありません。「そうでありたい」ですし、「そうであるべき」と考えるからです。すると、人の思考は、「どうすればお客様の安心と安全がより確認できるか」にフォーカスを向けるようになります。「規律を守る」とはこういうものではないでしょうか。

規律に従って行動する

 では、どうすれば規律に従って行動するようになるのでしょうか。規律は、誰かに強制されるものではなく、自ら従うものですが、人は元来、組織が持つ価値観を自分のものとして受け入れることができます。心理学でいう「内面化」というやつです。私利私欲にとらわれず、「それはとても大切だ」だと判断したら、自分の価値観としてそれに従うことができます。
 組織の価値観に従わない部下を持つ方は、にわかには信じられないかもしれません。しかし、「集団の価値観を受け入れて行動する」ことは、先天的に人間に備わった性質だと思います。それは、自分勝手な振る舞いをして、集団の和を乱す、つまり集団の価値観を無視して行動する人たちは、ヒトが進化する過程で淘汰されてきたからです。例えば、次のようなことが想像できます。先史時代では、「美味しそうな木の実を見つけた」などといって集団から勝手に離れると、他の部族や肉食動物の餌食になる危険があったでしょう。孤立したヒトはとても弱い存在ですから、簡単にやられてしまう。そうすると、そのヒトが所属していた集団は人数が減ることになる。人数が減れば、それだけ集団の競争力は弱くなる。弱い集団は、より強い集団に制圧されてしまう、というわけです。
 逆に言うと、利他的な行動をとる集団が生き残ったことになります。生き残るには個人的な利益を最優先するのではなく、集団のために他の人を助けることが必要だったのです。経験や知識を詳しく仲間に話すことで問題解決を手伝う。それを繰り返すことでお互いに学び合える。そして役割を分担し、それを全うしようとする。これが規律を守ることの原型だと思います。私たちは自分勝手な人を嫌う傾向があります。それは、集団が生き残るのに、身勝手な人は危険な存在だということを本能的に知っているからではないでしょうか。

規律を守る組織の共通点

 ヒトが本能的に他の人を助けようとする動物だからといって、皆が例外なく組織の価値観を自分のものとして受け入れる、つまり規律に従うかというと、もちろんそうではありません。規律を守るのには、次の2つの条件が必要だと思います。
 一つは、組織が持つ価値観や思想をメンバーがみな「正しい。良いこと」だと強く信じていることが挙げられます。理念やビジョン、商品・サービス、組織の活動などが社会のためになっていると感じて誇りに思っているとき、人は組織の価値観に従って行動する傾向があると思います。そのためには、理念やビジョン自体が共感できる内容でなければなりません。組織の価値観といっても、やはり社会的通念からして道徳や倫理に反していることは、多くの人に受け入れられません。また、組織の価値観は明文化して日常的に口にした方が良いと思います。価値観が人の行動に影響を与える存在になるためには、皆が「塗り重ねる」ことが不可欠だと思います。 
 もう一つは、組織のメンバーが強く仲間意識を抱いているということです。仲間意識が強い組織では、リーダーが皆を信頼し、その信頼がリーダーに返るだけでなく、メンバー間でも強い信頼関係が作り上げられる状態にあるように思います。人は誰かから信頼されていると感じることで、他の人を信頼することができるのかもしれませんね。この「リーダーが皆を信頼すること」につきましては、「部下を信頼するということ」というタイトルで、別に投稿しておりますので、合わせてお読みいただけたら嬉しいです。

最後に

 今回は、マネジメントの中心にあるとも言える「規律を守る」ことについて書いてみました。規律ある集団は、リーダーが方向を指し示せば、一丸となって突き進むことができます。つまり、規律は組織のエネルギーを「なすべきこと」に向ける原動力の一つなのです。日頃、あまり「規律」ということを考えないかもしれませんが、自ずと守りたくなる「規律」があなたの組織のなかに存在しているかどうか、ちょっと目を向けてみてください。最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

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