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国内大手通信キャリアの衛星ネットワーク構築の現在地は? 各社の取り組みまとめ

スペースX社のスターリンクに代表される通信用途の大規模な衛星コンステレーションを構築する民間企業の登場を受け、日本国内の各通信キャリアでも、人工衛星を利用し、自社ネットワークを拡張する取り組みを進める企業が増えています。

現在、国内の大手通信キャリアは自社ネットワークの拡張にあたり、人工衛星をどのように活用しているのでしょうか。各社の取り組みをまとめました。

※ データはいずれも、2023年8月23日時点によるもの。


スターリンク×自社ネットワークでシステム構築を進めるKDDI

auブランドを運営するKDDIは、2021年9月に、アメリカの宇宙ベンチャー企業であるスペースX社(スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ、通称「SpaceX」)との業務提携を発表。同社の運用する衛星コンステレーション「スターリンク(Starlink)」を活用した通信システム構築の準備を進めています。

具体的な取り組みの内容は、au基地局のバックホール回線(※)にスターリンクの人工衛星によるネットワークを利用する、というもの。携帯電話・スマートフォンの通信において、これまで光ファイバーを用いて有線接続していたバックホール回線を、かわりに人工衛星で接続する、という取り組みです。

 ※ 一般的には、携帯電話の通信を行うための基地局と、通信事業者によるネットワークセンター(コアネットワーク)をつなぐ回線のことを指す。

この取り組みにより、これまでコアネットワークと有線で繋がった基地局の設置が困難だった山間部や島しょ部でも、KDDIによる通信を安定して提供できるようになります。

スターリンクを使った基地局は、2022年12月からすでに一部地域で運用がスタート。今後KDDIは、同様の基地局を使った仕組みを法人や自治体向けに提供していくことを発表しています。

加えて、KDDIは「認定Starlinkインテグレータ」として、法人や自治体向けにスターリンクによるインターネットサービス「Starlink Business」を提供しています。
 
同サービスは、専用の小形アンテナからスターリンクのネットワークに直接接続し、どのエリアでも宇宙から安定したモバイル通信環境を得られるサービスとなっています。
 
すでに、国内の山間部でスターリンクからの電波を利用して山小屋でWi-Fiを使えるようにする「山小屋Wi-Fi」や、海上利用向けに同じく通信環境を提供するなど、これまで携帯電話の電波を届けられなかった場所へ積極的に通信環境を届けているKDDI。2023年8月には、夏の音楽フェスに訪れた数万人の来場者にむけた通信回線の確保のため、スターリンクにアクセス可能なWi-Fiスポットを設置したことも話題になりました。

OneWebと共同で非地上系ネットワーク構築を目指すソフトバンク

ソフトバンクは、イギリスの衛星通信会社ワンウェブ(OneWeb Network Access Associates Limited、通称「OneWeb」)と業務提携を行い、同社による衛星コンステレーションを利用した衛星通信サービスの展開と、それを一部とした「非地上系ネットワークソリューション」の実現を目標に掲げています。

ソフトバンクの発表によると、モバイル通信を提供するためにワンウェブ社による人工衛星によるネットワークをバックホール回線として使用。携帯電話・スマートフォン通信網や、山間部や離島、災害地域でモバイル通信環境を確保するだけでなく、通信環境が不安定な場所で活動する船舶、航空機、ドローンや車両へ通信環境を提供する計画とのこと。

そして、ワンウェブによる人工衛星ネットワークと並んで「非地上系ネットワークソリューション」のもう一つの柱となるのが、HAPS(High Altitude Platform Station)です。
 
HAPSとは、高度約20kmの地球の成層圏内に通信基地局の機能を持った無人機を飛ばし、対象となるエリアに通信環境を提供する「空飛ぶ基地局」のこと。無人機が継続的に飛行するためのエネルギー効率など課題はあるものの、基地局と比較するとHAPS1機あたりのカバー範囲が非常に広いことから、活用が進めばより広範囲に通信ネットワークを拡張できます。
 
また、ソフトバンクは2023年7月にスターリンクの認定再販事業者となったことを発表。同年9月から、法人や自治体向けに「Starlink Business」の提供がスタートする予定です。
 
OneWebによる低軌道衛星とHAPSにより構築された通信ネットワークと、すでに他社で提供されて一定の通信環境を提供しているStarlink Businessが、ソフトバンクによる非地上系ネットワークソリューションの鍵になりそうです。

スカパーと新会社を設立、2社のノウハウを掛け合わせるNTT

NTTは、スカパーJSATホールディングスと業務提携をし、新会社「Space Compass(スペースコンパス)」を2022年4月に設立、関係企業間で連携を取りながら「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」の構築を目指しています。

スカパーJSATホールディングスは、自社で人工衛星を保有し、それを活用した衛星通信サービスを提供しています。宇宙統合コンピューティング・ネットワーク構想は、スカパーJSATによる通信衛星の技術や運用ノウハウと、NTTによる地上に張り巡らされた通信網を組み合わせることで、高度なデータ処理を広範囲に提供できる通信網の構築を目指します。

その構想の実現のため、スペースコンパスは「宇宙データセンタ事業」と「宇宙RAN事業」に取り組む予定であることを発表しています。
 
「宇宙データセンタ事業」は静止衛星と地球との間で膨大なデータをやりとりするため、電波ではなく光データ伝送を用いたシステムの構築を目指すというもの。同機能を持った光データリレーサービスは2024年度からスタートする予定です。
 
一方の「宇宙RAN事業」は、HAPSを用いてこれまで以上に広範囲にネットワークサービスを提供していく計画のこと。これにより、通信サービス展開が難しかった海上や山間部だけでなく、災害時やイベントなど、一時的にネットワークが必要な場所への通信ネットワークの提供が容易になります。
 
スペースコンパスの取り組みと並行して、NTTは2019年からJAXAとの共同研究を継続して行っています。その目的は「地上と宇宙をシームレスにつなぐ超高速大容量でセキュアな光・無線通信インフラの実現」。
 
2023年2月には、観測衛星にて収集したデータをより効率的に地上に届けるための共同研究に着手し始めており、この取り組みも宇宙統合コンピューティング・ネットワーク構想の実現の重要なパーツの一つとなりそうです。

人工衛星・スマートフォン間の直接通信に成功した楽天モバイル

楽天モバイルは、アメリカのAST SpaceMobile(通称「AST」)社とのパートナーシップを締結。同社による衛星コンステレーションを用いたネットワークサービス「スペースモバイル(Space Mobile)」を活用し、携帯電話のサービス利用可能な範囲の拡大を目指しています。

2023年4月、楽天モバイルはAST社の低軌道衛星を通してスマートフォンの直接通信(音声通話)を行う試験を実施、これに成功したことを発表しました。

2023年4月26日の楽天モバイルによるプレスリリースより引用

楽天モバイルによる「スペースモバイル計画」では、スマートフォンと人工衛星が基地局を介さず直接通信をするシステムが構想されています。
 
このシステムでは、ユーザーの手元にあるスマートフォンは、地上の基地局ではなく、低軌道衛星と直接データのやり取りを行います。人工衛星と通信を行うのは地上の基地局で、データはスマホから人工衛星、そして基地局を介してネットワークセンターへ送られる仕組みです。
 
同社はこの試みを「宇宙から送信するモバイル・ブロードバンド・ネットワークと市販スマートフォン端末との通信において」は「世界で初めて」、と発表しています。先の試験では、アップリンクおよびダウンリンク測定の結果、モバイル・ブロードバンド速度および4G LTE、5Gに対応できることが確認されています。
 
大手各社がそれぞれの企業をパートナーとし、実現を目指す人工衛星を介したネットワーク。これまで安定したネットワークの確保が難しかった地域やシチュエーションへ、より広範囲にモバイル通信環境を提供するのが主な目的ですが、仕組みやアプローチ方法は様々。
 
今後の各キャリアの動向から目が離せません。

企画・制作:IISEソートリーダーシップ「宇宙」担当チーム
文:伊藤 駿 編集:ノオト

 

主要参考リンク

▼KDDI

https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2022/12/01/6414.htm

https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2023/03/02/6579.html

https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2022/10/12/6284.html

https://career.kddi.com/andkddi/category/technology-service/21121501.html

https://tobira.kddi.com/tsunagu/article00044/story3.html

▼ソフトバンク

https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2019/20190723_01/

https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2021/20210513_02/

https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2023/20230619_01/

https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2023/20230713_03/

https://www.jrtt.go.jp/ship/seminar/221118_softbank.pdf

https://www.softbank.jp/corp/philosophy/technology/special/ntn-solution/

https://businessnetwork.jp/article/8568/

https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20190826_01

▼NTT

https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/05/20/210520a.html

https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/04/26/220426a.html

https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/02/27/230227b.html

https://group.ntt/jp/newsrelease/2019/11/05/191105c.html

https://journal.ntt.co.jp/article/19855

▼楽天モバイル

https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2020/0303_02.html

https://corp.mobile.rakuten.co.jp/news/press/2022/1118_01/

https://corp.mobile.rakuten.co.jp/news/press/2023/0426_01/

https://corp.mobile.rakuten.co.jp/blog/2022/0519_01/

https://www.jrtt.go.jp/ship/seminar/asset/b2dba0784b64de4f6320f8ec84b43f41.pdf

※ 上記の主要参考リンクのほかは、各社によるプレスリリースをもとに作成

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