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「卒論合同」感想⑦ 〜VII 楽屋〜

前回に引き続き、感想を綴ります。これまでの記事はこちらから。

7-1. 「『劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト』ロングラン上映と座席稼働率の調査レポート」 あさだ(@k_Asada87)氏

書き出しから笑ってしまった。「集団幻覚かもしれないからそれを検証しよう!」という動機は初めて見た気がするが、その気持ちもわからなくはない気がする。集団幻覚でなくてよかった。ただ、集団幻覚だったとしても、それが我々の人生に及ぼした影響(非常に重大な!)は変わらないので、その意味で「集団幻覚でも良い」と言いうるかもしれない。

内容に関しては、非常に勉強になった。特に、業界内部での「ロングラン」とはどういうものかという定義や、座席稼働率がおおよそ20%前後というのは意外だった。

7-2. 「映画館CINECITTA'のLIVE ZOUNDの音響が本当に良い」 もるキョンシー(@morukyon)氏

7-3. 「塚口サンサン劇場とスタァライト」 ムジ7(@musiksasanqua18)氏

両者とも、劇場の魅力が大いに感じられた。こうして作品の内容のみならず現実世界との境界に対しても興味を抱かせる本作の奥行きを改めて感じると同時に、劇場ごとのある種の「見比べ」が発生しうる映画というメディアのあり方を興味深く感じた

7-4. 「沈黙のロングラン」 多摩球(@tamacubed)氏

とてもいい文章だと感じた。無言で上映をし続けた劇場をなぞるような、事実だけを連ねて多くを語らない筆致だからこそ、この劇場の本作への思い入れや、筆者の劇場への思い入れが感じられた。

7-5. 「劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライトにおける宝塚歌劇の要素」 pt(@2187_101)氏

宝塚のモチーフに関する体系的な参照先になっていて、非常にありがたかった。特に、『ベルサイユのばら』と『遙かなるエルドラド』の議論や「魂のレヴュー」と宝塚の演目の議論などは考えても見なかったような類似で面白かった。逆に「違い」として面白いと感じたのは時間割で、聖翔には多く見られるような演劇論/演劇史のような座学がないのは驚きだった。

7-6. 「生物学的・生態学的・進化論的キリン考察」 ふーま(@FFFF__s)氏

まず、生物学的には「キリン」は現実のキリン的でないが、生態学的には現実のキリン的な面もあるという点が面白かった。これをより「我々」に惹きつけて考えると、「遺伝子や細かい見た目などの我々の多くが知らないような点については現実のキリンと似ていないが、我々が想像するような「キリンはどう生きているか」に関しては現実のキリンと重なる部分があった」ということになろう。そうであるとすれば、「キリンは我々による「イメージ」の集合によってできたもの」というような理解も可能になるであろう。

また、進化は再生産であるという議論も興味深い。実際、「進化」概念の説明の時には「世代を超えることで」という点が強調されるが、ここにおいて必須なのが「生殖=re-production=再生産」なのである。その意味で、進化=再生産というのは説得的であるといえよう。とすれば、進化の過程で淘汰された個体たちは「選ばれなかった過去たち」と言いうるのではないか

7-7. 「『睡眠退散』を飲むということ」 樹(@itsuki3desu)氏

非常に面白かった。微細なモチーフから大きな構造に関する議論に至る流れが綺麗で、ワクワクさせられた。

特に興味深く思ったのは、「睡眠と死」のモチーフについてである。確かに考えてみれば本作の中で(少なくとも死と区別されるような)「睡眠」のモチーフは(「眠気」でさえ)出てきていなかったような気がする。これは市民や眠気の描写を衒いなく行ってきたTV アニメシリーズとの重要な対比であろう。また、クロディーヌと真矢の心境/態度との結びつきも、とても説得的なように感じた。「魂のレヴュー」の重要な補助線になるように思う。

一方で、雨宮の描写についての咀嚼がまだ十分にできていない。「決起集会前の雨宮は、不安や恐れを受け入れながら先に進むことに対するの躊躇いがあったから、「再生産」される前の状態にあった(決起集会のステージ上で「再生産された」)」と考えていたので、それと「ネクタル」を飲んでいることとは整合性が合わない。この点は少し考えたいなと感じた。(何か良い考え方があればぜひ教えてください。)

(ちなみに、「ネクタル」についての考察を含む記事には以下があります。こちらも非常に面白い考察なので是非。)


(この記事に関する意見や指摘等があれば、ぜひ筆者(@nebou_June)にお聞かせください。)

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