見出し画像

劇場版レヴュースタァライト:トマト考察『糖類』から見えてくるもの

トマトのあらまし

 『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト(以下:劇ァ)』の劇中で頻繁に登場したトマト。このトマトにはたくさんの意味が含まれていることが舞台挨拶にて監督の口から直接示唆されています。今回はその中でも『トマト・バナナ・桃』の共通点や相違点からトマトに包含された意味を考察していきます。表題にもある通り、今回のキーワードは『糖類』です。

飢えと渇きを満たす燃料

 そもそもバナナと桃がどこから出てきたのかを一応説明すると、バナナは大場ななが差し入れに作ったバナナマフィン、バナナプリン、バナナンシェです。桃は劇ァ作中に雨宮詩音と西條クロディーヌが飲んだ形跡のあるネクタルという清涼飲料にあります。こちらはネクターが元ネタとなった桃ジュースです。
 作中の表現からするに、バナナと桃はトマトの代替品としての側面があったのではないかと考えています。それを語るためにはまずトマトがどのような役割を持っているのかを話さなければならなりません。様々な意味を含んだトマトですが、『舞台少女たちの燃料』として理解しながら読み進めて欲しいです。そう捉える理由ですが『私は貴女たちの燃料』と言った野菜状のキリンから落ちてきたのはトマトだったからです。これはかなり直接的にトマトは舞台少女の燃料だったことを示唆しています。また作中でも大場ななお手製の焼き菓子を食べていた舞台少女たちがすぐに『飢えて渇いて』しまうことも言及されています。この『飢え・渇き』とは役者が舞台を、役を渇望することであり、自分を動かす燃料が足りていないことの表現であると考えています。トマトやバナナ、桃はこの『飢え・渇き』を満たす燃料であり、それは役そのものなのです。

『燃料』としての構成要素『糖類』

 冒頭でキーワードとして紹介した『糖類』について触れていきます。糖類は炭水化物の中の、糖質の一種です。炭水化物のうち、ホルミル基(-CHO)もしくはカルボニル基(>C=O)を一つは持つ化合物が糖(糖質)に分類され、糖質の中でもそれ以上分解できない最小単位の糖を単糖類、二糖類と呼び、これらを『糖類』と呼びます。
 糖質(炭水化物)はエネルギー産生栄養素(旧:三大栄養素)の一つに数えられており、人間が活動するために必要なエネルギー源です。糖質は体内で単糖(ブドウ糖、果糖、ガラクトース)に分解・吸収され適切な形に変換されてエネルギーとして使用されます。
 糖質と聞くとお米やじゃがいも・小麦などの主要な炭水化物に目が行きがちですが、エネルギー源となる糖類(単糖)は野菜や果物にも含まれています。トマトにはブドウ糖・果糖。バナナ・桃にはブドウ糖・果糖・ショ糖が含まれています。ではトマトやバナナ・桃だけを食べていれば活動に必要なエネルギーを確保できるかというと可能かもしれないですが、栄養学的に無理がありますので、私たちは健康に気をつけながら食事をしましょう。ただ、エネルギー源である糖質を含んでいるのはトマトやバナナ・桃が舞台少女たちの燃料として機能していたことを示すには十分かと思います。

なぜバナナと桃はトマトになりえなかったのか -膨らむ舞台少女たちの甘えの正体-

 この項の本質はこちらのふせったーに詰まってます。とはいえ、一部考察の根拠が曖昧ですので植物化学的な視点をもう少し根拠を明確にしながら再度考察していきます。

追熟するトマト・バナナ・桃

 果実の果肉が柔らかくなったり、香りが高くなったりすることを成熟といいます。その内、自身の成熟を高めるためエチレンガス(成熟を促進する植物ホルモン)を分泌する種類があります。このような種類の果実(クライマクテリック型)は収穫後にも成熟が進み、これを追熟と呼んでいます。メロンや桃、バナナなどの果物は未成熟の状態で収穫され、出荷後にエチレンガスの状態を管理して適切な成熟度で消費者に届けられているのです。
 追熟といえば主に果物において行われることが多いですが、実はトマトも追熟します。青い状態のトマトも常温で追熟することで真っ赤なトマトになるのです。

 トマトの追熟はバナナ・桃と決定的に異なる点があります。それは『糖度に変化がない』ということです。農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の研究成果情報より引用です。

糖は、追熟中の変動や作型の差異は認められずほぼ一定で推移する。

  追熟によってトマトは甘みに変化がなく、バナナ・桃は甘みが増していきます。そういえば劇ァ中でこんなシーンがありましたよね。

「ケリをつける」
「甘かった、今までの自分に」

 双葉と香子のセリフです。この発言をする前、香子は舞台装置によって噴出した赤い液体を口に含み「甘い」と一言呟きました。ここから「甘み」と「甘え」は同じととらえても問題ないと考えています。さらに赤い液体は血を模しており、舞台少女の体内を甘さで満たされた血液が循環していたことを示唆しているのではないかと考えています。

 つまり、バナナ・桃を摂取し続けた舞台少女はその果実と同様に時間の経過とともに「甘え」が増していったのではないでしょうか。だからこそこれまでの甘かった自分にケリをつける必要があり、それを分からせるために皆殺しのレヴューでは甘くて赤い液体が登場したのです。

 そして古い肉体を壊し、新しく吹き込まれた血は甘みの増すことがないトマトなのです。

私たちはもう舞台の上

 そう言ってトマトを口にした7人の舞台少女の姿は『甘えを断ち切り、なりたかった自分を諦めずに目指し続ける覚悟』の描写でもあったのだと思います(もちろん、最後の最後の覚悟と決意は各々のレヴューの中で確固たるものへと変わっていくことになるのですが)。

追記(2021/09/18)
 一つ話を書き忘れていました。『強いお酒を飲んだみたい』についてです。赤い液体でかつお酒であるという点からモチーフはワインである仮定の下に話を進めていきます。
 大場ななの『なんだか強いお酒を飲んだみたい』という発言はアルコールを摂取すると酔いが回るように、この液体が舞台少女の体内を循環しているぞということを表しています。酔いの強弱というよりはこの液体が舞台少女の体内を循環していることを示唆したかったのではないかと考えています。

 アルコールが強いことについてはまた別の理由があると考えています。それは月日の長さを表しているのではないでしょうか。ワインは醸造酒と呼ばれるものの一種です。原料となるブドウの糖類に酵母を働かせて発酵させ、アルコールを醸造することで作られます。ワインを製造する過程ではこの醸造と後の熟成の工程にとても長い期間がかかります。本来であれば、果実に含有されている糖類には限りがありますから、寝かせれば寝かせるほど度数が上がるということはあり得ません。しかし舞台少女はどうでしょうか。ケジメをつけない限りどこまでも甘えは増していくばかりです。そのため時が経てば経つほど舞台少女の甘えは膨らみ、そしてアルコール度数もまた増えていくのです。

 余談ですが本項で話したように、トマトにも糖類が含まれているのでどこかでトマトを原料としたお酒を醸造してはいないかと調べてみたら何件かありました。その中で気になったものがありましたのでこちらで取り上げようかと思います。

 長崎県東彼杵 ひがしそのぎ町でお茶農家を営んでいる大場譜五 しんごさんが2018年よりミニトマトの栽培を始め、このミニトマトでワインを作ろうという試みを行っているそうです。初のトマトワインでしかも農家さんのお名前が大場……!?と調べながらかなり驚きました。こちらのミニトマトブリューですが、おそらくまだ市販化はされていないようです。著者はお酒が弱いのでもし機会があれば一口飲んでみたいものですね。
追記終わり

おまけ

バナナ型神話

 根拠となる文献を手元に確保できていない状態なので、話半分で聞いてください(考察なんてそんなもん)。

 ニューギニアをはじめとした東南アジア周辺で見られる死や短命にまつわる起源神話をバナナ型神話と呼ばれているようです。バナナ型と呼ばれるのは神話内でバナナが登場するからです。

神が人間に対して石とバナナを示し、どちらかを一つを選ぶように命ずる。人間は食べられない石よりも、食べることのできるバナナを選ぶ。硬く変質しない石は不老不死の象徴であり、ここで石を選んでいれば人間は不死(または長命)になることができたが、バナナを選んでしまったために、バナナが子ができると親が枯れて(死んで)しまうように、またはバナナのように脆く腐りやすい体になって、人間は死ぬように(または短命に)なったのである

 このような神話パターンは東南アジア以外でも見られるようです。永遠の命を手にするか、目先のことだけを考えて短命になるかという二者択一の話です。これは旧約聖書に登場する禁断の果実にも通ずるものがありますよね。禁断の果実を食べたことで善悪の知識を得る代わりに、永遠の命を得ることなく楽園を追放されたわけですから。
 禁断の果実は実はバナナだったというような説もありますが、前述した話のようにある地域では禁断の果実と同様な役割として神話内に登場していたようです。

 つまりバナナとは短命の象徴であり、大場ななの手によって意図せず舞台少女たちの肉体は老化と短命の道を進まざるを得なくなっていたとも考えることができます。バナナがトマトになりえなかったのはこのような負の側面も持ち合わせていたからと考えると恐ろしいですね。
(トマトも悪魔の実と呼ばれていたりするのでどっちもどっちだったりはしますが、ここでは目を瞑っておきます)

ネクタル=延命装置&エナドリ説

 ネクタルと言えば缶のパッケージに記されてキャッチフレーズが意味深ですよね。

生き返るようなおいしさ

 どういうことですか? 分かりません。
モチーフは不老不死の果実として記されることが多かった桃です。キャッチフレーズ内では生き返るようなおいしさとありますので、生き返ることは不可能と考えていいと思います。
 なぜこのような飲料を飲む必要があったのかを考えてみたのですが、順当に舞台少女の延命装置とみるのが良いかと考えています。バナナによって短命になった舞台少女たち、しかしおやつの時間はお終い。輪廻から脱した彼女たちが次の生まれ変わりまでの延命のために摂取するもの、それがネクタルだったのでしょう。

 それとは別に『生き返るような』は『再生産』を疑似体験できるとも考えられるのではないかと考えています。そう考える根拠は雨宮詩音にあります。彼女が書き上げた第101回聖翔祭「スタァライト」の台本内容に疑問を感じませんか?

なぜ舞台少女でもない彼女が塔を降りることを示唆できたのか

 これこそ、翼を授かるレッ〇ブルのようにネクタルには『再生産』を疑似体験し『私たちはもう舞台の上』であることを認知させる能力があったからではないでしょうか。それを裏付けるように決起祭直前の雨宮詩音の机には飲み干されたネクタルが置いてあります。

最後に

 最後まで読んでいただきありがとうございます。着想は「バナナと桃って追熟するよな……」ってところでしたが、思わぬように転がっていき結果として面白いトマトの解釈になったのではと考えています。おまけは考察中に思いついたものですが、個人的に面白いな~と思ったので一緒に載せてみました
 調べものをしていて、成熟した果実を届けるために努力して下さっている方々の想いがひしひしと伝わる文献や記事もあり、まだまだ自分の知らない世界はたくさんあるのだと思い知らされました。これから自分はスーパーに行く度に店頭に並ぶ果実を見て裏に隠された努力を思い浮かべずにはいられないのでしょうね。考察内で参考にした文献は一番最後にまとめているのでもし良ければ眺めてみてください。

 今回の考察においてもフォロワーの方の話を聞いて活きた点が多々あります。本当にありがとうございます。このような形ですが、また皆さんの考察の一助として昇華できていれば幸いです。

 それではまたの機会に。

参考文献

炭水化物 / 糖質 e-ヘルスネット(厚生労働省) 執筆時最終更新2019年6月14日
エネルギー産生栄養素 e-ヘルスネット(厚生労働省) 執筆時最終更新2019年6月12日
樹熟、追熟の意味について 日本植物生理学会 2008
エチレンによる果実の成熟・老化制御機構 独立行政法人 農業・食品産業技術研究機構 2007
生食用大玉トマトの加工原料としての追熟期間 熊本県食品加工研究所・研究開発課 2005
最古の神話を読み解いたら、世界の不思議な「共通項」がわかってきた(後藤明)|現代新書|講談社 

追記
世界の酒の大分類(醸造酒・蒸留酒・混成酒)発酵形式のちがいによる醸造酒の3分類 月桂冠
製造工程と微生物 独立行政法人 種類総合研究所
今年はトマトでお酒を作りました 九州産業大学 食品開発研究会 2018
滑らかで口当たり良し ミニトマトを醸造酒に【長崎県 10月2週号】  nosai 2019
野菜のワインはNG? だったら自分が前例をつくるだけ。 日本初!ミニトマトワインづくりへの道なき道 アナバナ 2019

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?