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首切り王子と愚かな女感想文

誰かに見られてもいいけど誰かに見られるためではない観劇日記その4
ネタバレあり


さくっと書こう。
めっちゃおもしろかったので。紹介しておきたい。
とか言いながら書き始めて3週間たってようやく…


井上芳雄さんをストレートプレイでみることになるとは。
そしてだいすきな伊藤沙莉ちゃん。
ハスキーボイスフェチのわたしが撃ち抜かれた声。「女王の教室」の"田中桃"で知ってからずっとすき。20代最強のバイプレイヤーだと思ってる。


入場時から幕は閉まっていなかった。
ステージ中央には質素な木の足場。クラス写真を撮る時に使うような足場。木の箱を組み合わせて作られたセットのみだ。
ステージ端にはガラスの個室の様なもの。?と思っていたら開演5分前から出演者がぞろぞろと出てきてその個室に座っていく。
何をしているのだろうと見ていると水を飲んだり台本を確認したり顔のマッサージをしていたり。つまりそれは簡易的な楽屋だった。
なにそれ、おもしろい。
これも演出のひとつなのか。
完全にではないが少し舞台裏を見ることができたような気がして楽しかった。
こんな舞台の見せ方もあるんだなあ。

上演中も簡単な着替えなどは舞台横で行われる。舞台の表と裏が舞台上で同時進行していく不思議な感覚を味わった。


内容は一言で言ってしまうと「笑いあり、涙あり。」
ふふって笑ってしまうような絶妙なツッコミが炸裂。沙莉ちゃんのツッコミは最高がすぎる。


一癖も二癖もある登場人物たち。その不思議な行動や思考にツッコミが飛び交うのだが、実はみんなどこか心に闇を持っていた。その多くは身分であったり家族であったり、自分のせいではないなにかに問題を抱えている。逃れられない苦しみ。
架空の王国で繰り広げられるファンタジーに見えて、愛憎や裏切りや嫉妬など人間の汚いと言われるような部分が沢山詰め込まれていた。まさか架空の王国のお話で親の介護の押し付け、みたいなこと取り上げると思っていなかった。

特に井上芳雄さん演じるトル王子。国に反乱する人々を処刑する首切り王子であったが、実は純粋で素朴で子どものような心を持ったかわいい面が本当の姿だった。もっと言うとおバカだ。しかし中身が大人になれなかったのには悲しい理由があった。呪われた子としてひとり遠い島に追放され、孤独に育った子ども時代。子どもとして過ごせなかった子ども時代。そのせいであった。
しかも最後は母である女王デンに裏切られることになる。簡潔に言うと兄である病気の第一王子ナルを復活させるためにトルの入れ物(体)にナルの魂を入れられる。つまりトルは悲しい過去を送った挙句、ようやく母を信じたら裏切られて母の手で自分の存在をなかったことにされたのだ。体は残るがトルは消される。1幕はおバカなトル王子の日々を笑いながら見ていたのに、2幕ではどんどんと悲しい過去が分かり、そしてこれでもかと言わんばかりに訪れる悲しい現実に涙せずにはいられなかった。こんなに可哀想な王子は見たことがない。


ラスト、井上芳雄さん演じるトル王子と伊藤沙莉ちゃん演じるヴィリが民衆に襲撃された城から逃げる。逃げ切った先で寄り添う2人の目は忘れられない。舞台上には何も無い。襲撃の緊張感はキャストによる早口の語りと木の足場の大移動によって表現された。そして舞台上にはただでさえ質素だった木の足場すらない。PARCO劇場の舞台の床に座る2人。2人の演技に集中する以外の選択肢がない。遠くを見るヴィリの瞳に吸い込まれそうになった。


沙莉ちゃんはやっぱり最強の女優さんだ…。コミカルなツッコミもシリアスな涙も似合ってしまう。そして昔ハートを撃ち抜かれた大好きな声は生で聞いてもっと大好きになった。

こんな素敵な作品に出会えて幸せだなあ。


こぼれ話。PARCO劇場入口前のトイレに買ったばかりのiPhoneが入った紙袋をしっかり置き忘れたまま入場し、たまたまiPhoneの話をしててあれwwwさっきまで持ってたのにないwwwってなって急いで取りに戻りました。あやうく使わぬままiPhone紛失するところでした。

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