【ネタバレあり】THE FIRST SLAM DUNKの感想を語る

昨今は、ファスト映画と言われるように、予め面白いと分かっているものしかウケないと言われがちである。
2時間を消費する映画は、最近の消費層が好む10分前後のYoutube動画に主に時間を費やし、更にはTikTokを代表されるショート動画が好んで消費される時代に、映画は2時間でひとまとまりの作品であり、娯楽にこの集中力を費やすのは、ハードルが高くなっているように感じる。

昨今は「鬼滅の刃」、「呪術廻戦」の映画が記憶に新しく、「映画が終わったわけではない」と言われそうだが、いずれも原作の映像化であり、原作ファンからの強い後押しがあった。「推し」という言葉に代表されるように娯楽とはまた別軸での消費行動があったのであろうと思う。

このSLAM DUNKの映画は、公開まであらすじが公表されなかった。
結論から言えばこの映画はスポーツ漫画史上ベストバウトである(主観)湘北vs山王工業を描いた作品に、原作では主要メンバーの一人であった宮城リョータに秘められた過去が描かれた作品であった。
とりわけ、「湘北vs山王工業」であることを含めてあらすじを多めに事前に言ってしまえば、最近の顧客心理やトレンド・セオリーに反することはなかっただろう。

しかし、それをしなかった。

公開前の段階では、ネット上では何を書くかを明かさないことへ憤りを覚えるコメントを見ることが少なくはなかった。(声優交代とかは、その憤りの矛先として燃えたのかもしれない)
今思えば、これはファスト映画を好む現代への挑戦であったのかもしれない。

とはいえ、私も公開日に見たのだが、当日段階では何も情報もなく、「何が書かれるんだろう」「なんかポエムだらけの変な映画だったらどうしよう」「井上先生はすごい漫画家だけど、アニメとか映画に関わるの初めてだし大丈夫かなぁ」といった期待や不安があり、それは言い換えるとストレスかもと言えた。ただ、私は井上先生のファンでもあるため、井上先生が自らメガホンを取ると決めた作品に対して、「それでも良いものを作ってくれるはず」と根拠はないけど信じようという気持ちで映画館に向かっていた。

映画が始まると、いきなり沖縄のシーンの最初の回想が終わり、オープニングの映像が始まる。湘北の5人が歩き出し、「おお、『井上先生の湘北』が歩いている!」という感動を覚えたあとに、偉そうに階段を降りてくる白にシンプルなラインの線が入ったユニフォームが見えたとき、息が詰まるような興奮を覚えた。
「山王工業だ!」

最初は私もあらすじを公表しないという手法に懐疑的であったが、この興奮を与えるためにあらすじを公表しないことを決めたとすれば、制作陣にはしてやられたと思ったし、逆に言わないでくれてありがとうという気持ちだった。この興奮はもう二度と味わえないだろう。

そして試合が始まり、颯爽と動く3DCGのアニメーション。変則的なリズムのドリブルやクロスオーバーのキレ、野太い応援の声、美しいフォームから放たれるシュート、試合中に多すぎない会話、ディフェンスのプレッシャー、体のぶつかり合い・・・どれをとっても私が愛してやまない「バスケ」であった。自分の高校生時代、いわゆる「強豪高校」と呼ばれるチームと対峙したときに感じた怖さや緊張感を映像からひしひしと感じた。

山王戦なんて何回読んだかわからないし、次のプレーが何かなんて全部わかるのに、何度も涙した。そして試合の最後の演出は鳥肌が止まらなかった。何度も負けるかと思った()

そして今回の追加要素であるコンプレックスの塊であった宮城が、最後にアメリカ挑戦する姿が書かれるのも衝撃的だった。
彼は背が小さいし、飛び抜けたシュート力もない。アメリカでは厳しいと誰もが思うはずだ。
原作では安西先生はアメリカ行きを所望する流川に対して「まずは日本一の高校生になりなさい」と言った。
宮城は日本一の高校生とは程遠い存在である。得点シーンはおそらく湘北のスタメンで一番少ないし、いつも牧や藤真、深津といった相手に対して苦戦して、彼らに勝った!といえる描写は少ない。

そんな彼がアメリカに行くのは、「いかない理由はいくらでもある。行きたかったら行け!」という、当時からの考え方のアップデートだろう。

スラムダンク奨学金などを通してたくさんの子供をアメリカに送ってきた井上先生からのメッセージなんだろうと勝手に解釈した。

井上先生による「THE FIRST SLAM DUNK」は、過去の井上先生への挑戦でもあっただろうし、我々への挑戦でもあっただろう。
今思えば、井上先生自らがリメイクするのに山王戦そのまま焼き直しはしないだろうなって思った。偏屈だし。

総じて思ったのは、井上先生、本当にバスケ好きだなぁってことと、
井上先生がバスケ好きで良かったなあってことと、
日本のバスケにSLAM DUNKがよかったなあということだった。

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